《発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。》60話
……全神経を集中させろ。
目の前の男に、全ての意識を向けろ。
「……ボロボロではないか」
「うるせえ、それ以上近付くな」
刀の先を向け、男の作を観察する。
……無防備だ。驚くほどに。
これなら……『クイック』で殺れる―――!
「『クイック』―――ッ!」
一瞬で背後に回り込む。
そのまま刀を振り下ろし―――
「……はぁ」
「―――ッ?!」
―――筋。
肩口に斬り込んだ刀は―――強靭な筋にけ止められていた。
「弱な力だな……」
「ふ、くっ……!」
……ビクとも、しねぇ……!
「ちぃ―――!」
男から距離を取り、再び構える。
……どうする……?
『フィスト』を使って、あのは斬れるのか?
そもそも、俺は腕が1本しか使えない。
次80%の『フィスト』を使えば……両腕が使えなくなる。
「ああ……!ごちゃごちゃ考えるとイライラすんな……!」
せっかくシャルを連れ帰って來たんだ……!ここで死ぬなんてバカげてる……!
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なら―――!
「魔力60%―――『クイック』ッ!」
刀を収め、シャルを抱える。
「きゃ―――!」
「逃げるぞッ!」
そのまま來た道を引き返す。
……どうする?!
どうするどうするどうするどうするどうする?!
逃げていいのか?!あいつがランゼたちの所に行くかも知れないんだぞ?!
もしランゼが死んだら?ウィズが死んだら?
きっと、俺は俺が許せない。
だったら、どうすればいい?
決まっている―――俺が、あいつを足止めするしかない。
「……イツキさん?」
「逃げろ、『森國』とは逆の方向に」
「え、でも、それでしたらイツキさんが―――」
「俺の事はいい。逃げてくれ、どうにかランゼたちと合流して、一緒に……頼む」
「嫌です!私は―――ん」
喋り続けるシャルの口を―――俺は、自分ので塞いだ。
ゆっくりと顔を遠ざけ、安心させるように笑みを見せる。
「……俺が、負けるとでも?死ぬとでも思ってんのか?」
頬をで、問いかける。
「そんな……キスなんて……そんなの、ズルいですよ……」
「俺がズルいのはいつもの事だろ?」
「……………………わかり、ました……必ず、帰ってきてくださいね。待ってますから、私たちの家で」
「ああ……約束だ」
駆け出すシャルを見送り……森に視線を戻す。
「……『獅子座』のレオ……!」
「……貴様は俺に、何か因縁があるようだな?」
「ああ……一方的な因縁だけどな」
森から現れたレオに、刀の切っ先を向ける。
「……エレメンタルッ!」
『仕方がない……お前に死なれては、この武を使えるやつがいなくなるからな……力を貸してやろう』
神々しい鳥が、俺の背後に現れる。
「エレメンタル……?まさか、『原初の六霊』か?」
顔は無表だが、レオの聲は驚いていた。
「……『原初の六霊』の一角と戦えるとは……手合わせ願う」
「願ったり葉ったりだ……俺の仕事は、お前を足止めする事だからな」
左腕……これが使えなくなったら、俺の負けは確定する。
でも……こいつにダメージを與えるには、生半可な『フィスト』じゃダメだ。
どうすればいい……?俺は、どうすれば―――
「―――『フィスト』」
「く、『クイック』!」
突っ込んでくる男から距離を取り、再び刀を構える。
……こいつも『魔法』を使うのかよ……!
「……エレメンタル」
『なんだ』
「お前って『限界を超えし破壊の力エレメント・フィスト』しか使えないのか?」
『いや……腳力を強化するのもあるが……貴様には使いこなせまい』
……それなら、手段は1つだ。
「……なら、これを使うか……!」
『……それは?』
「俺の兵だ。驚くぜ―――『形態変化』、『玖式 対裝甲車両破壊弾ロケットランチャー』ッ!『フィスト』ッ!」
変化した『魔導銃』を片手で構え、レオと向かい合う。
「……警告だ。そこから1歩でも近づいたら……撃つ」
「形が変形した……?それは何だ?」
「言うわけねえだろバーカ」
……ヤバイ、しくじった。
この距離だったら、俺にも風の被害が來る。
距離を取るか?いや、下手にけば殺られてしまう。
レオは『魔導銃』を警戒してけない……どうする?どうすればいい?
「……ほんと、俺は自分が可いんだな」
「何を言って―――」
「『勇者』なら、自分が死んででも悪を討つ。そんな気持ちが必要なんだろうにな……」
『剣ヶ崎つるぎがさき 天空そら』はスゴいな。自分の命を掛けて、『蠍座』を瀕死に追い込んだなんて。
イカれてるよ。ああ、自分を犠牲にしてまで、他人を優先するなんて、イカれてる。
……と、前まで思っていた。
でも、違ったんだ。
俺は、シャルを助けるためなら、何でもしてやろうと思ったんだ。
國を敵に回しても、何人エルフを殺してでも―――俺のが、かなくなっても。
絶対に連れ去るって、決めてたんだ。
「……ああ、やっとわかったよ……剣ヶ崎ってやつの気持ちが」
「貴様、さっきから何をブツブツ言っている?」
剣ヶ崎も、こんな気持ちだったのだろうか。
守りたい者がいる。大切な人がいる。する人がいる。だから―――
「自分の命を掛けてでも……って、思ったのか」
「―――『クイック』」
迫るレオ―――だが、俺が撃つ方が早い。
『ドゥンッ!』と、弾が出され―――
燃える木々と、青い空が視界に飛び込んできた。
……俺は、倒れているのか?
何が起きたかわからない……一瞬、意識が飛んだのか?
「ぐっ、づっ……!」
痛むを無理に起こし、レオの姿を探す。
……いない。
弾丸が直撃して、跡形も無く消えたのか?
いや……あの頑丈なあいつが、跡形も無く消えるのはおかしい。
つまり―――逃げた。
「……まあでも、時間は稼げたはずだ……」
立ち上がり、シャルたちを探そうと―――
「……あ?」
カクンと、膝が曲がる。
……ああ、なんかが変だなと思ったら、左足の覚がないからか。
……そもそも、あんな至近距離で風を食らって、左足だけで済んだのがおかしいのか。
「……ふぅ……ちょっと、休んでから……」
木に寄り掛かり、眼を閉じる。
……意識が朦朧もうろうとする。
なんか、が怠だるい……というか、痛くてかせない。
『おい……おい!貴様、何をしている?!』
「……エレメンタルか……ちょっと休憩だ……」
『何を言っているんだ?!前を見ろ!』
前を……?
重い瞼まぶたを開け、言われた通り前を見る。
「……?あれ、なんだ?」
『なんだと……?……おい、貴様まさか、眼をやられたのか?!』
ボンヤリとしか見えないが……何か、橫に大きなが近づいてきている……?
「やっと見つけた……!さあ、シャルロットちゃんを返してもらおうか!」
この聲は……『森王子』か……?
って事は……あの橫に大きなは、エルフの軍隊……?
……ははっ、おいおいマジかよ。
「……死んだな、俺」
『何を勝手に諦めている?!貴様が死んでは、余よが出ていけないではないか!』
「何言ってんのか、サッパリだっての……」
『余は、貴様の『魔法』の魔力を使って現世に現れる……貴様が死んでは、余が自由に飛び回ることができなくなるのだぞ?!』
……知らねえよ……俺は眠いんだ……
なんかもう、どうでもいい……
このまま……しだけ、寢かせてくれよ……
『このままじゃ確実に殺されるぞ?!』
「……そもそも死ぬ覚悟で対裝甲車両破壊弾ロケットランチャーを撃ったんだ……風で死ぬか、エルフに殺されるかの違いだろ……」
『貴様……!貴様は、先ほどのと何を約束したんだ?!何を言ったんだ?!』
……先ほどの?
ああ……シャルの事か。
「……絶対に帰るって……約束した……」
『ならば!ここで死んで良いのか?!』
「…………………………良くねえ」
『だったら立て!足が折れていようが、覚が無かろうが立て!前を見ろ!貴様の進むべき道を塞ぐ者を、斬り捨ててでも押し通れ!』
……忘れてたな。
そういや、約束とかしたな。
……ボンヤリとした頭が、しずつ回るようになってくる。
ああ……そうだった。
俺は、何のためにシャルを取り返したんだよ……!
あの屋敷に、俺たちの暮らしに、何気ない時間に、あいつがいないと、寂しいからだろうが……!
何のために取り返したんだ……!
シャルがいないと寂しいって思ったからだろうが……!
何のために取り返したんだ……ッ!
シャルと一緒にいたいと思ったからだろうが……ッ!
何のために取り返したんだッ!
シャルの隣にいたいと思ったからだろうがッ!
何のためにッ!取り返したんだッ!
俺がッ!シャルをッ!好きだからだろうがッッ!!
「……はっ……お前に説教されるとは、思ってもなかった」
『……仮にも1回、余の『霊魔法』を使ったんだ……その者が簡単に殺られては、『原初の六霊』失格だからな』
木に手を突き、片足で立ち上がる。
「お前、シャルロットちゃんをどこにやった?!」
「ギャーギャーうるせえよガキ……軍隊とか連れて來やがって……來いよ。お前らまとめて、ぶった斬ぎったらぁああああああああああッッ!!」
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