《死ねば死ぬほど最強に?〜それは死ねってことですか?〜》第65話〜未來〜

モンブランはクラスメイト全員を魔法で運び出すことに功していた。

「モンブラン君! 無事でよかった。その姿は!?」

ケイネル魔法國からし離れたところにモンブランが下りると、國から追いかけてきたバルク達がちょうど現れた。

「ちょうどよかった。花音とクラスメイトを頼む」

「モンブラン君は?」

「俺にはまだやることがある。先に帰っておいてくれ」

「分かった。無理はしないでくれよ」

「そうだな」

モンブランはそういうと、バルクたちの目の前から一瞬で消えた。

ニルベルは重い足取りで階段を登っていた。自分が何をしようといていたか。いつから記憶がないのかさえも分からない。

絞り出したニルベルの最後の記憶は、黒い鎧で二本の角が生えた者と會っている景だった。

ニルベルは徐々に地上に近づいていく。徐々に、徐々に、鼓が早くなっていくのをじていた。嫌な予がする。何度も何度も嗅いだことのある死の、の匂いが濃さを増してきている。

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記憶を失っていないほうが楽だったかもしれない。扉の先の景が予想できるなら開ける必要もない。だが、何も知らないニルベルは扉を開けて外を確かめるという選択肢しかない。

扉を開けたニルベルの目に映った景は、人間が目にしていいものではなかった。赤く燃えている町。その中を赤黒い化けが我が顔で闊歩している。それも、數でない。數百といった規模だ。

付近には無殘な姿になった同胞が転がっていた。國を代表する実力者。聖騎士達の亡骸も転がっている。

その中に首から先がなく、足も腕もない死があった。普通の人なら分からないだろうが、長年連れ添ったニルベルにはわかった。分かってしまった。その死が唯一無二の存在。ドリアスであるということを。

その景は、一人の人間を絶に追い込むには十分すぎる材料になる。

何が起きて、自分が何をしていたのかは分からない。だが、景は語っていた。この國は敗北したのだと。それも、圧倒的な大差で。

「どういうことだよ」

ニルベルの目には自然と涙が溢れてきていた。

今まで作り上げてきたものは一瞬にしてなくなっていた。しかも、自分が知らないうちに。

敵に聞こえようがそんなことは関係ない。こんなに悔しいことはない。こんなに悲しいことはない。この気持ちを抑えられるわけがない。

ニルベルは大聲を出して泣いた。子供のように泣きじゃくった。

言葉になっていない聲で仲間の名前をびながら泣いた。泣きまくった。

その聲に気づき、ニムルがニルベルを囲うように集まり始める。だが、そんなことは関係ない。ニルベルは死など怖くはない。もっともっと恐ろしいことが現実に、目の前でおきているのだ。

聲が枯れるほど長く、長く泣き続けた。

どれだけの時間が経ったのだろうか。聲も枯れ、涙も枯れていた。だが、ニルベルは生きていた。ニムル達は周囲に集まってきたものの、攻撃は行わなかった。それだけではない。ニムルの中には、ニルベルに寄り添い、瞳から涙を流しているものさえいた。

「お前らなのか」

ニルベルの問いかけに返事はない。だが、それはともに國を作ってきた、仲間たちのなれの果てだとニルベルはすぐに気づいた。

「そうか。お前らも、辛かったな」

ニルベルは剣を抜き、魔法を自にかける。

「お前らを解放してやる」

そして、次々とニムルは切り倒していく。斬られたニムルは重力に負けたようにただのへと姿を変える。斷末魔を上げるものもいる。だが、全てのニムルが斬られた後に、微笑みのようなものを浮かべていた。

「これで最後だ」

最後のニムルを斬ったニルベルの足元は、であふれかえっていた。これが全て味方のものなど考えたくもない。だが、それが現実だ。

「俺もすぐに逝く。待っていてくれ皆」

躊躇なく、剣を自分の首に向かって構える。

「さようなら」

剣を首に向かって振り下ろすニルベルだが、突如に足をすくわれて転倒する。そのせいで、剣は首に屆いてはいなかった。

ただの偶然。足がっただけ。だが、ニルベルはそうはじなかった。友が、戦友が、仲間たちがまだこっちに來るなと言っている。その為に俺を転ばせたのだと。

「そうだな。せっかくまだある命だ。無駄にするのは惜しい。あの人が言っていたのはこういうことか。生きてみせるよ。お前たちの分まで強くな。お前らのことは絶対に忘れない。いつか、お前らの仇をとってやる」

ニルベルはゆっくりと、足をかし始める。絶の中でも希ある未來に向かって。行先など決まっていない。絶は過去に捨て、希を未來に屆けるために。

新しい人生を歩み始まる。 

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