《天下界の無信仰者(イレギュラー)》従者
突如として異変いへんが起こる。俺たちの間に突然人が現れたのだ。
そこにいたのは金髪の。純白のワンピースにを包み、ひらひらとした裾とショートカットに切り揃えられた髪が揺れている。
 加豪かごうの刀を前にしてもは気丈きじょうに正面を向けていた。
そんな彼を、俺は知っている。
「ミルフィア!」
俺の呼び聲に、目の前のは半だけ振り返った。
「ご無事ですか、主?」
振り返るはらかい目で、俺を見つめ返してくれた。
ミルフィア。小柄な型は華奢きゃしゃだが人形のような優雅ゆうがさがある。青い瞳は丸みのある形をしていて、小顔に収まるパーツはどれもが一級品の形しかない。
ミルフィアは、この場で唯一親しんあいが籠こもった聲を送ってくれた。
「え、ええ?」
ミルフィアを前に加豪かごうがたじろいでいる。ミルフィアを見つめ疑問符ぎもんふが顔からいくつも出ていた。
「え、てか、今どこから!?」
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今の今まで、間違いなくミルフィアは教室にいなかった。突如として現れたミルフィアにクラスの連中も驚いている。
「突然出て來て、しかも主って。まさか……」
なにもない場所から登場したミルフィアはまるで先ほど加豪かごうが行った再演さいえんのようだ。それで答えを思い付いたのか、加豪かごうはんだ。
「あなた、神かみあの神託しんたくぶつ!?」
『えええええええ!』
加豪かごうの答えに皆が大聲を上げる。雷のような衝撃が教室を駆け回った。
「噓。いやまさか……。でもッ」
言った加豪かごう本人でさえ戸っている。そりゃそうだ、そもそも神託しんたくぶつとは神からの贈り。
 無信仰者が得られるものじゃない。また、人の神託しんたくぶつなんて俺だって聞いたことがない。
ミルフィアは俺に向けていた微笑みを消し加豪かごうに向き直った。それで困していた加豪かごうも鋭くなっていく。
「あんた、私とやるつもり?」
「はい。我が主を守るのが私の務め。あなたが主に危害を與える以上、排除します」
「そう。なら琢磨追求たくまついきゅうの信者としてけて立つわ」
そう言って加豪かごうは神託しんたくぶつを消す仕草を見せた。互いに、素手で戦うつもりだ。
「構いません」
「なんですって?」
しかし、ミルフィアの発した言葉に加豪かごうの手が止まった。
「全力でどうぞ。でなければ、敗北した時悔いが殘るでしょう。それでは意味がない。敗北を知るのはあなたです」
ミルフィアに揺はない。真剣の刀、しかも雷を纏まとった武だ。
「おいミルフィア。危険過ぎる、止めるんだ!」
相手が悪い。俺は心配から聲をかけた。
「主は下がっていてください、すぐに終わらせます」
「ザコは引っ込んでなさい!」
「んだとコノヤロー!」
誰がザコだオラァ!?
再びミルフィアと加豪かごうが対峙たいじする。
加豪かごうは怒りをあらわにしながらゆっくりと刀を構える。荒々しい怒気をじるが、構えと共に靜かな戦意へと変えていく。
正眼せいがんの構え。右足を前に出し、気と刀が一致し真の剣となる。
強い。集中するその姿勢だけで戦い慣れていると分かる。
対してミルフィアの気配も靜かに高まっていく。戦いの雰囲気となり戦闘態勢となっていく。
見ている俺の方が張する。それだけに二人の空気は真剣なものだった。
一拍の間。その瞬間、加豪かごうが駆かけた。
「終わりよ!」
それは疾風しっぷうというべき突撃だった。一足いっそく一刀いっとうの間合い、それを余りある距離を瞬時に移するのは神化しんかの力だ。
 人を超えた跳躍ちょうやくと同時に刀は袈裟けさ切ぎりに振り下ろされる。
稲妻いなずまを纏い、雷鳴らいめいが轟とどいた。
まずい! 心配に心臓が跳ねる。
「安心してください、主」
その瞬間、聞こえるはずのない聲がした。
攻と防が重なる直後、響いたのは加豪かごうの驚愕きょうがくだった。
「そんな!?」
ミルフィアは傷一つ負っていない。加豪かごうが前方に展開していた雷撃らいげきを素手で掻かき消し、両手で刀をけ止めていたのだ!
「すごい!」
素直に心する。あれほどの電撃を素手で掻き消し、さらに刀をけ止めるなんて。
二人は鍔迫つばぜりり合いのようにしてもみ合っている。
「峰みね打ちですね」
「ちっ!」
ミルフィアの指摘してきに加豪かごうが顰しかめる。見れば加豪かごうの刀は峰打ちだった。
「だからなんだって。これで十分よ!」
加豪かごうがミルフィアを突き放す。距離が開けたことに再び斬撃ざんげきを振るう。
迫る刃に対し、ミルフィアはその場を跳んだ。
 さらに機を足場に移していく。生徒は全員壁際にまで退避たいひしているのでミルフィアは空席くうせきを縦橫無盡じゅうおうむじんに走り回っていた。
「速い!」
ミルフィアの速度は電でんこう石火せっかを思わせる。俺なんか目で追うのがやっとだ。加豪かごうにしてもそう。
 あれだけ大きな得では室をき回るのには不向きだ。真似なんか出來るはずがない。足場の悪い教室で神託しんたくぶつを振るうもミルフィアは颯爽さっそうと躱かわしていく。
加豪かごうが振るった一瞬の隙を突き、ミルフィアは地面を蹴った。刀よりもさらに近い近接きんせつ格闘の間合いにり、加速したまま、
「ハッ!」
放つのは掌底しょうていの一撃。加豪かごうは神託しんたくぶつ、雷らい切きり心しん典てんこうの柄で防ぐものの吹き飛ばされ背後の黒板に衝突しょうとつした。
「くぅ!」
加豪かごうは背中からぶつかり苦悶くもんの表だ。けれどすぐに立ち上がり、真っ直ぐな眼差しをミルフィアに向けてきた。
「なるほど。強いわね」
口調は靜かだった。嵐の前を思わせる、それは危険な靜寂せいじゃくだった。
「でも、私は負けない、負けられない! 強さを目指す琢磨たくま追求ついきゅうの信仰者が、負けてなるものか!」
靜けさはすぐに反転し加豪かごうは激げきを飛ばす。主人の気概きがいに連れんどうするように雷切心典らいきりしんてんこうも吠える。
 今までの比じゃない。こいつ、今までのでさえ手加減だったのか?
加豪かごうは構え、ミルフィアも構えた。踏み込みは同時、距離は瞬く間に消失し、両者の攻撃がわる、
その、時だった。
「おや、何事ですかこれは」
二人の間に男が割り込んだのだ。白の法ほういにを包んだ三十代ほどの男。
男は加豪かごうが振り下ろした両手を右手で摑むとひねり、重心をずらされたことにより加豪かごうは勢いのまま転倒てんとうした。
さらに左手でミルフィアもつかみ、同じくひねって転倒させていた。
突然の闖者ちんにゅうしゃに二人はすもなく床に橫になる。
立っているのは男だけ。神父が著る服裝と同じで、腕章は慈連立じあいれんりつ。くせっけのある黒髪と細の軀たいくで、男は顔を橫に振っていた。
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