《天下界の無信仰者(イレギュラー)》ミルフィア

「ふぅ~」

力が抜ける。と、ふいに隣が気になり視線を向けてみた。

ミルフィアは黙ったままじっと座っている。しい橫顔がそこにあり、気になっただけのつもりがつい見つめてしまった。

ミルフィアはきれいだ。ずっと一緒にいるけれど、彼の顔を見飽きたということはない。

「どうかされましたか、主?」

やばっ!

「い、いや。別に!」

咄嗟に顔を背ける。変に思われたかと焦ったが、ミルフィアの大きな瞳は優しく細められ小さな口元は持ち上がっていた。

俺を主と呼び付き従う、自稱奴隷の。俺でもミルフィアの素すじょうは知らない。どうして消えたり現れたり自分を主と呼ぶのか。

 聞いても前者ぜんしゃは「出來るからです」としか答えず、後者こうしゃは「あなたが王だからです」と要領ようりょうを得えない答えばかりが返ってくる。

「なあ、ミルフィア」

「はい、なんでしょうか主」

それで何の気なしに、俺は隣に座るミルフィアに聞いてみた。

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「お前は一、何者なんだ?」

質問に、ミルフィアは小さく笑う。

「私は、あなたの奴隷です。主」

「……そうだったな、今思い出したよ」

やっぱりこれか。ああ、分かってたよ。聞いてみただけだ。

不思議なだ。でも、俺にとってミルフィアは誰よりも大切な存在だった。

ずっと一人の人生だった。なにをしても無信仰者として孤獨な時間を過ごしてきた。敵だらけで、助けてくれる人なんて誰もいなかったんだ。

そんな中、ミルフィアだけが俺の傍そばにいてくれた。

きれいで、優しくて、唯一俺の味方でいてくれたミルフィア。お前は誰よりも大切な存在だ。

だけど。

だからこそ思うんだ。

せめてお前だけは、俺とは違って幸せになってくれって。お前だけでもさ。

「そうだミルフィア。さっきはありがとうな、庇かばってくれて」

「いえ、あれくらいのことは。もったいなきお言葉です、我が主」

俺がお禮を言ってもミルフィアは小さくお辭儀をするだけ。そうした仕草を嬉しく思う時もあるけれど、やっぱり距離が寂しい。

「なあミルフィア」

「はい」

返事とともに、ミルフィアが可らしい顔を向けてくれる。

謝してる。でも、あんなことはもうしないでくれ」

「それは何故ですか?」

ミルフィアは俺と年は変わらない。まだ子供だ、の子なんだ。

「危ないだろう、もしお前が斬られたらどうするんだよ」

「それは、私の務めですから」

ミルフィアは平気でそんなことを言う。

「ミルフィア、お前はもう自由に生きろ。奴隷なんか止めろって。なにが楽しいんだそんな生き方」

「ですが、それはなりません」

「なんでだよ」

お前に幸せになってしいのに、どうして本人のお前が否定するんだ。

聲を荒げ言う俺に、ミルフィアの聲は落ち著いていた。

「私は、主の奴隷です。主のために死ぬのでしたらそれは私の本です」

「…………」

くそ。なんでお前はそう、そんなことを笑って言えるんだよ。

自分の幸せに生きてしい。奴隷なんて生き方するくらいなら、せめて友達として付き合っていきたい。

だけど、それは無理なんだ。

『僕と、友達になってよ!』

『なりません』

昔、俺はミルフィアに友達になってしいと願ったことがあった。だが、それは見事に斷られた。

奴隷を止めさせることも、友達になることも出來ない。

「なあ、なんでお前はそう、俺の奴隷として振る舞おうとするんだ?」

落膽らくたんに、聲は暗い。

「あなたに忠誠ちゅうせいを誓っているからです」

「だから俺の言うことならなんでもきくって?」

「はい」

なんだよそれ。だったら友達になれよ。本當はいい加減だろお前。

「じゃあ俺がここで服をげと言ったらぐのかよ」

馬鹿馬鹿しい。本気で考えるだけ無駄なんだろうな。

「はい。それが主のみなら」

「は? ……ておい!?」

突然ミルフィアが立ち上がる。なんだと思うと、その場でワンピースをぎ始めたのだ。

ワンピースが地面に落ちる。

「なっ!?」

それであらわになったのは、純白の下著だった。縁には小さなレースが付き、中央にはハートの飾りがある可らしい下著だ。

「お前なにいでんだ!」

まさか本當にするとは思わなかった。いや、普通思うか! なのにミルフィアはしだけ目を大きくしただけで、俺を不思議そうに見つめてくる。

「主がげと言ったので…………」

「そういう問題じゃねえ! てかすぐにぐのを止めろ!」

こいつ、本當に全部ぐ気か!? 急いで立ち上がりミルフィアの両手を摑む。

「え?」

「あ?」

が、慌てて前に出たせいで落ちてるワンピースを踏んでしまい、バナナの皮のようにった!

「あ、なっ、ぬわあ!」

ミルフィアを巻き込みながら前に倒れる。二人して地面に橫になってしまった。

「大丈夫ですか主?」

「っつー。なんとかな。お前は大丈夫かミル――」

いててと頭をった後、気づけばミルフィアの顔がすぐ近くにあった。俺が押し倒す形で上になっていたのだ。ミルフィアの青い瞳が俺をじっと見上げてくる。視界には、元とブラジャーが見えている。

その時だった。

ガラガラガラと扉が開き、の子がってきた!

「はぁあ、お腹痛い――、え? きゃああああ! 変態がの子を襲ってるう!」

ちげえええええ!

「違う! 誤解だ!」

「うそよぉ!」

ちょっと待て、なんだこれ。どういう狀況だ!? とりあえず説明しないとまずい!

「噓じゃねえよ! ただ落ちてる服に足をとられて転んだだけだ! べつに襲ったわけじゃねえよ! 俺はやましいことなんて――」

「ちょっと待って、なんで服が落ちてるの?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「それは~……」

「強ごうかんよぉ!」

「ちげえ! 待てくれぇえええ!」

俺はぶが、呼び聲虛しくの子は行ってしまった。

「くそっ! ミルフィア、まずは消えろ」

「ですが」

「いいから消えろ! すぐにだ!」

狀況が分かっていないのか、唖然あぜんとしているミルフィアに強引に言い聞かせる。それでミルフィアは消えていなくなり、俺は兎だっとの如ごとく保健室から逃げ出した。

「ったく、なんで俺ばっかりこんな目にぃ!」

瞳にうっすらと涙を浮かべ、俺はそのまま學校を出て行くのだった。

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