《天下界の無信仰者(イレギュラー)》栗見恵瑠

その後、結局一限目の授業はサボることにした。俺は渡り廊下の壁にドカッともたれる。

「あー、くそ、どうするよ一

目的ははっきりしてるんだ。ミルフィアの誕生會を開く。そのために黃金律おうごんりつの効果が知りたいわけだが、こう、今すぐ試せる機會はないだろうか。

そう思っていると、どこからか聲が聞こえてきた。

「おい、なに見てたんだよ、やんのかコラ!」

「あー、その、ボクはただ~……」

「慈連立じあいれんりつがいい気になりやがって、喧嘩売ってんのか!?」

「ち、違いますよ~」

あった!

校舎の角、人目に付きづらい場所で不良と分かるガラの悪い五、六人の男子が囲っている。男たちは全員赤の腕章で、絡まれてるのは聲から子だ。

これは黃金律おうごんりつを試すチャンスだ。俺は渡り廊下からとび出した。よし、待ってろよ。今俺が助けてやるからな!

みるみると距離がまる。

が! 

「て、あのかよ!?」

男たちに囲まれたその子は、學式の日に逃げ出したあの時のだった。

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くそ、なんでよりにもよっててめえなんだよ!

「待てぇえええ!」

俺のび聲に男たちが振り返る。の子も俺を見た。

「そいつに手を出すなぁあ!」

全力疾走での元に駆け寄る。俺は両者の間に立った。

「なんでてめえ、なにしにきやがった!?」

「そんなもん決まってんだろ、人助けだよ」

男たちの前に立つ。俺の前にいる男は背が高く、角刈りのこめかみがピクピクと引きつっていた。

「無信仰者が調子乗りやがって、俺を誰だと思ってる!? 神律學園三年の熊田銀二くまだぎんじだぞ!?」

「知るか。の子を數人がかりで囲う腰抜けだろ」

両手を広げ「だろ?」とアピールしてやった。

「てめえ……覚悟しろよ! おい、両方ともやっちまうぞ!」

男、熊田くまだの一言で他の連中もが大聲を掛けて毆りかかって來る。しかし退かない。後ろのははっきり言ってムカつくが守ると決めたんだ。

しかし、ここにきてり込んできた。

「け、喧嘩は駄目ですぅう! しちゃいけないんです! 仲良くしましょう、皆で仲良くするんです、それが一番ですぅ!」

は両手を広げ、駄目です駄目ですと顔を橫に振る。その度にツインテールの髪束が宙を泳いでいた。小さいにも関わらず、大柄の男たちを前に自分の信仰を貫いている。

人助けの神理しんり、慈連立じあいれんりつ。まさか、俺を庇かばってくれたのか?

突然の仲介ちゅうかいに熊田達も戦意を削がれたのか立ち盡くしている。

「ちっ、もういい行くぞ」

それで男たちは振り上げていた拳を下ろした。そのままぐちぐち言いながら退いていくが、熊田がいきなり振り返り俺を睨んできた。

「だがな神かみあ、てめえあとで覚悟しとけよ、イレギュラー」

それだけ言い殘し今度こそ消えていった。

「ふぅー」

あいつはあんな風に言い殘していったがいつものことだ。俺は肩を竦すくめる。それにどっちかっていうと俺がに救われたわけだし。

 せっかく助けに行ったのに仲裁ちゅうさいされるとかどうなってんだ。

「あ、あの、大丈夫ですか? あ、昨日の人だ」

「お前今更かよ」

白い髪のが振り返る。ぽかんとした顔で俺を見上げていた。

「別にいいだろ俺でも。それか俺じゃいやだったか?」

「いえ全然!」

は慌てて顔を橫に振っている。まあいいや。

「それよりもお前、どうしてあんな連中に絡まれてたんだよ? まさか喧嘩売ったわけでもねえだろうし」

「え!? えーとですね、その~……」

それで質問するが、しかし言いにくいのかは指を遊ばせていた。もしかして聞いちゃまずかったか?

するとはぽつりと話し始めた。

「ボク、昨日遅刻しちゃって」

「ああ、知ってるよ」

ムカつくくらいにな。

「それで周りのみんなはもう新しい友達と話してて。なんか話しかけづらくて。それでどうしようか、教室に出て考えようとしたんです。そしたらここであの人たちがグループを組んでいたから」

「うんうん」

「いいなあ~、ボクも友達しいなあ~、てずっと見てたんですよ」

「へえ~。……ん、ずっと?」

「はい! そしたらあの人たちもボクのことを見つめてきて、ボクに向かって歩いて來たんですよ。おお! と思ったんですけど、いきなり喧嘩売ってんのか! って怒鳴られちゃいました」

それでは悲しそうな表を浮かべるが、すぐ呑気な聲で呟いた。

「どういうことなんですかね~」

「お前がどういうことだよ!? てかなに、お前もにらめっこ!?」

なんだそりゃ、流行ってんのかにらめっこ。

「相手くらい選べよ、あいつらがどういうのか見て分かるだろ。お前の頭はお花畑か」

「あ、それならボクチューリップがいいです!」

「そういう問題じゃねえんだよ!」

こいつ、もしかしてアホなんじゃないか? そう思うとそんな気がしてきた。

「あの、ボク、栗見恵瑠くりみえるっていいます。恵瑠えるでいいですよ。ちなみに同じクラスです」

「え、お前も?」

奇遇きぐうと言うかなんというかだな。

それで恵瑠えるは嬉しそうに自己紹介していたが、しかしすぐに疑問の顔になって俺を見上げてきた。

「その、神かみあ君、ですよね? えっと、どうして助けてくれたんですか?」

質問に黃金律おうごんりつのことが頭に浮かぶが、本當のことをいうのは恥ずかしい。

「別に。あんな狀況見つけて、見て見ぬフリが出來なかっただけさ」

「え、でも神かみあ君、慈連立じあいれんりつじゃないですよね?」

俺としては當たり障さわりのない言葉を選んだつもりだが、やっぱりそこ気になるか。

「信仰がなくたっていいだろうが。それとも迷だったか?」

「ううん! 全然! 助かりました!」

瞳を輝かせ元気な聲が響く。まあ、最後には俺も助けられたんだけどな。

「あ、あの、神かみあ君?」

「ん?」

と、恵瑠えるが真面目な顔で見上げていた。

「神かみあ君は、べつに慈連立じあいれんりつとかそういうわけじゃないんですよね?」

「そうだよ」

なにを今更。

「無信仰のままなんですよね?」

「そうだよ」

いったいなんの確認だ?

恵瑠えるは戸った様子だったが、俺の答えを聞くと視線を下げた。

「でも、助けてくれたんですよね……」

「?」

なにやらでいろいろと葛藤かっとうしているらしい。信仰者から見れば無信仰者なんて正不明の怪人だ。はっきり言って怖いだろう。そんな無信仰者に助けられるなんて稀有けうな験をしてさぞや脳會議が忙しいんだろうな。

すると、恵瑠えるが顔を上げ見つめてきた。

「ありがとうございました。助かりました!」

「おお!」

お禮と共に頭を大きく下げる。雲のようなのツインテールまでもお辭儀のように垂れていた。

初めてされた、こんな風に人にお禮を言われること。ちょっとだ。

「それじゃあボクは教室に戻りますね。助けてくれてありがとうございました~」

「おお、気をつけてな~」

手を振りながら恵瑠えるが去っていく。俺も手を振りながら彼を見送っていった。

「って! なにしてんだ俺!?」

しまった。誕生會、言えば良かった……。

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