《天下界の無信仰者(イレギュラー)》三人のの子

かみあが去って行った屋上では殘された恵瑠えると天和てんほが扉を見つめていた。しかしそうしていても仕方がないと恵瑠えるは隣人に振り向いた。

「あの、天和てんほさん天和てんほさんッ!」

「なにかしら」

焦る恵瑠えるを余所に天和てんほは平然としている。慈連立じあいれんりつの恵瑠えると無我無心むがむしんの天和てんほとしての差がある。

「どうしましょう、このままじゃ大変ですよ!?」

「なにが」

「なにがじゃないですよ! 大変じゃないですか!」

「そうね」

「まだ何も言ってないですよ!」

溫度差が激しい會話を繰り返すがいっこうに進まない。

「神かみあ君のこと、天和てんほさんは心配じゃないんですか?」

それで、心配になった恵瑠えるが恐る恐る聞いてみる。彼よりもしだけ背の高い天和てんほの橫顔へ尋ねるが、そこで天和てんほが初めて振り向いた。

「恵瑠えるさんは心配なの、宮司みやじ君のこと? 彼、無信仰者なのに」

「それは……」

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口籠くちごもる。鋭さはないがどこか重たい天和てんほの問いに俯いてしまう。答えぬまま言葉を探すが、顔を上げたのはすぐだった。

「はい! 正直に言うと、最初はなんだか怖かったんです……。一どんな人か分からない、っていうだけで、怖かったんですよね」

恵瑠えるも初めて出會った時は逃げ出している。自分とは違う、というのはそれだけで好奇と不安の対象になる。しかし、話せば分かることもあった。

「でも、接してみて怖かったこともありましたけど、優しいところもありました。信仰する神理しんりがなくても、仲良くなれました」

同じところもある。恵瑠えるは嬉しそうに笑い、恵瑠えるの笑顔を、天和てんほはじっと見つめていた。

「だから助けたいって思うんです。天和てんほさんはどうですか?」

「そうね。宮司みやじ君は數ない仲間だし、見捨てるにはもったいないかな」

「なら、一緒に神かみあ君を助けましょう!」

相変わらず樸念仁ぼくねんじんのような天和てんほだが、彼なりに神かみあを気にっているようで素直に首肯する。

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しかし助けるとしても問題は山積している。まず頼みの警察が働いてくれないことと、犯人を捜すにしても手がかりが赤の腕章くらいということ。天和てんほの同意を得て舞い上がった恵瑠えるだが、またも表を暗くした。

「ねえ、ちょっといい? さっきから気になってたんだけど」

そこへ、天和てんほから聲を掛けてきた。

「宮司みやじ君、命狙われてるの?」

「今更何言ってるんですか!?」

この狀況で呆れる発言だが、天和てんほは続ける。

「じゃあ、今宮司みやじ君、ミルフィアさんがいるとはいえ一人よね?」

「え?」

天和てんほの指摘に呆気に取られると同時に理解する。神かみあが一人ということは犯人からして見れば絶好の機會だ。

「天和てんほさん、そういうのは気づいたらすぐに言ってくださいよ~!」

「そこには気づけなかったわ」

「気づいてください! じゃあ早く神かみあ君を見つけないと!」

恵瑠えるは一刻も早く駆け付けようと走り出すが、天和てんほはその場をかずフェンスの向こう側を指さした。

「宮司みやじ君ならそこにいるわよ」

「え?」

指さす先を見れば、正門の前に神かみあとミルフィアの姿がある。

「良かった。まだ無事みたいですね」

「見張っていれば犯人がやってくるかも」

「そうしましょう!」

二人は正門へと急ぐ。全速力で駆け付け、玄関口まで來ると遠目に神かみあの姿が見えてきた。

「あれ、ミルフィアさんがいませんよ!?」

「きっといつものように消えたんじゃないかしら」

玄関口の扉から顔だけを出して神かみあを監視する。二人の視線の先には神かみあが寂しそうに佇たたずんでいた。事を知っているだけに恵瑠えるの表が落ち込んでいく。反対に天和てんほはいつも通りだ。

そこで、赤い瞳がいた。

「あ、人影」

「どこですか!?」

天和てんほの視線の先は校舎の角であり、見れば確かに影がある。しかし気づかれたのかすぐに消えてしまった。

「追いかけましょう!」

「犯人は一人とは限らないし一人は殘っていた方がいいと思う。けれど面白そうだから私も行くわ」

消えた人影を追って恵瑠えると天和てんほは走り出す。姿は確認出來ないが足音は聞こえていた。校舎と校舎の間を通り、渡り廊下を超え、その先は育館だった。足音はすでに聞こえず、見れば扉にうっすらと隙間がある。

「扉がし開いていますね……。ここに逃げ込んだんでしょうか?」

見渡しても隠れられる場所はここしかない。恵瑠えるは近づき、「うーん」と扉を開いてみた。重たい鉄扉がギギギとれながら開き、二人は中にる。

電球は點いていないため暗い印象があるが、天井付近の窓から差し込むが全をほのかに照らしている。使われていない空間はひっそりとして寂しさを覚えるほど靜まり返っている。

しかし、そこに一人の人が立っていた。驚きに恵瑠えるが堪らずぶ。

「加豪かごうさん!?」

そこにいたのは赤髪を垂らす加豪切柄かごうきりえの背中。恵瑠えるからの呼びかけに加豪かごうは振り向いた。

「あんたたち……」

しだけ意外そうに驚いた表。それを除けばいつも通りの、知っているままの彼がそこにいた。

だがここにいるという事実、それが持つ意味に恵瑠えるの顔は強張こわばった。

「どうしてですか加豪かごうさん! 一緒にミルフィアさんの誕生會に參加した仲じゃないですか!? なのに、どうして加豪かごうさんが神かみあ君を殺そうなんて!?」

「え!? 私が?」

恵瑠えるが訴える。しかし、加豪かごうはそれこそ意外そうに驚いていた。

「ひどいですよ!」

「ちょっと待って、私は違うわよ」

「この卑怯者! 裏切り者! ボクが神かみあ君の仇をとってやる!」

「いや、まだ神かみあ死んでないでしょ?」

「死んじゃえ~!」

恵瑠えるが拳を握り締めて加豪かごうに突撃していく。

「止めなさいッ」

「いて!」

それを見事に躱し、加豪かごうは恵瑠えるの頭を叩いた。叩かれた頭を抱えて恵瑠えるがうずくまる。

「落ち著いて、私じゃないわよ」

「だって~」

涙目で見上げる恵瑠えるに加豪かごうは肩を竦すくめる。

「最近私が學校に來てなかったから疑ってるんでしょうけど、違うのよ。私も事件を調査してたの。他には警察に調査を再開するように掛け合ってみたり。事件が最初に起きた日は先生から頼みごとがあったから遅れただけよ」

「え、そうだったんですか!?」

「そうよ。といっても、信用しないだろうけど」

容疑者が証拠のないことを言っても信憑しんぴょうせいは低い。それが分かっているだけに加豪かごうは苦笑する。だが、そんな加豪かごうを恵瑠えるは真顔で見上げた。

「信用しますよ! 一緒に誕生會に參加した仲じゃないですか!」

「あの、さっき死んじゃえとか言ってなかった?」

切り替わりの早さについていけない加豪かごうだった。

「でも、どうして加豪かごうさんがそこまで?」

瞬間、恵瑠えるの問いに加豪かごうは照れたように視線を外し、赤い髪で遊び始めた。

「まあ、あいつとは喧嘩したこともあったけど、一度助けてもらったことがあるからさ。だから今度は私の番かなって……。それだけよ」

もじもじと、彼らしくない返答に恵瑠えるは小首を傾げた。

「えっと、それじゃあ。加豪かごうさんは犯人じゃなくて、ここにいるのは」

「あなたたちと同じね、私も犯人を追ってきたの」

加豪かごうの目つきが真剣に変わる。ここには三人しかいないが加豪かごうは辺りを見渡した。鋭い視線を周囲に走らせ、育館の側面、扉を覆うカーテンで止まる。そこにひと一人分の膨らみがあることに気づいたのだ。

「そこにいるのは誰!? 出てきなさい!」

気勢きせいが乗った加豪かごうの聲がカーテンに突き刺さる。そこに誰かがいるのは明らかだがすぐには出てこない。加豪かごうだけでなく、全員の視線が一點に集中する。

かみあを襲った連続事件。その犯人を逃すまいと力がる。出てこないなら引っ張り出すかと加豪かごうが一歩を踏み出した、その時だった。

カーテンが揺れ、中から人が出てきた。

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