《天下界の無信仰者(イレギュラー)》迎撃

直後、この場にの聲が響き渡った。

その聲を知っていた。それが誰だか知っていた。

黒煙が晴れていく。そこから見えるのは金髪の

俺のピンチにいつも駆け付ける、そのの名前は――

「ミルフィアァア!」

は、二つのミサイルを撃墜し登場していた。

ミルフィア。金髪のショートカットに俺と同じ黃のダイヤの腕章をつけた自稱奴隷のが、俺たちの目の前に立っていた。

風に髪を煽られながら、ミルフィアは靜かに振り向いた。

「主、ご無事ですか?」

澄んだ聲だった。さきほどまでの厳格な口調とは違う。親しみをじるらかい話し方。

だが、俺はすぐにんだ。

「ご無事ですかって、お前の方こそ大丈夫なのかよ!?」

二つのミサイルはミルフィアが迎撃したのだ。その一つで。二つのミサイルをモロにくらって、しかしミルフィアはピンピンしている。

ミルフィアはニコっと笑うと、表を引き締めてヘリを見上げた。

「主は下がっていてください、私がやります」

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ミルフィアは見上げる。鋭い眼差しの先には黒をした武裝ヘリ。両翼には機銃とミサイルの弾頭が彼を狙っている。

けれど彼は怯えない、ひるまない。気丈な出で立ちで敵と対峙たいじする。

敵の機銃がき出した。銃が回り出すと激しい音とともに銃弾を撃ちまくる。そのあまりの威力に地面はえぐられ破片が水しぶきのように飛び散っていく。

しかし、彼は無傷だった。

ミルフィアは跳んだ。左腕を盾にして武裝ヘリまで跳躍すると正面ガラスに著地し、回るプロペラになんと右腕を突っ込んだのだ。

千切れる。普通なら。彼の右腕はあっけなく吹き飛ぶはずだ。

しかしミルフィアの神化しんかはそれを許さない。プロペラはミルフィアの右腕に衝突すると次々とひしゃげていった。

 ヘリは完全にコントロールを失いミルフィアは飛び降りた。地面にスタッと著地するとヘリは回りながら校庭に墜落していく。直後風が屆きミルフィアの髪とスカートを激しく揺らしていった。

中庭に立つのはミルフィアだ。破壊され花弁が散するその場所に、けれど凜として立つ彼の姿はしかった。

「ミルフィア…………」

その姿に俺は見っていた。すごい。素直にそう思う。それしか想が出てこない。

は誰よりも強く、そしてしかった。

ミルフィアの行に敵も撤退していく。勝ち目がないと分かったのだろう。

それを見てミルフィアが近づいてきた。

「遅くなって申し訳ありません主。私がそばにいなかったばかりにこんな」

「なに言ってんだ、お前のおかげで助かったんだ。ありがとな、ナイスタイミングだったぜ」

「はい……! ありがとうございます!」

の見上げる瞳に俺は頷いた。ミルフィアも嬉しそうだった。

「ミルフィアさんありがとうございました! 助かりましたよ~」

「いえ、恵瑠えるも無事でなによりです」

恵瑠えるはで下ろし、そんな恵瑠えるを見てミルフィアは微笑んでいた。

だが、すぐに表を引き締め俺を見てくる。

「それで主、これはいったいどういうことですか?」

當然の疑問だろう。いきなり學園に武裝した兵隊が突撃してきたんだ。それも武裝の質や規模から相當巨大な組織だと思う。ていうか、こんなことができる非正規な部隊が存在するのか?

まるで國家レベルだぞ?

「俺だってよく知らねえよ。だが、どういうわけかこいつが関係ありそうでな」

「恵瑠えるが?」

なにが起こっているかなんて俺だって知らねえよ。けれど俺とミルフィアはこの事件の重要人である恵瑠えるを見下ろした。

 それで恵瑠えるは「ん?」と小首を傾げるが、すぐに「あ!」と手を叩いた。

「ボク、明日日直だった!」

「…………」

「…………」

ミルフィアが俺を見てきた。

「本當ですか?」

「自信はない」

「神ー! 恵瑠えるー!」

すると加豪かごうと天和てんほが走ってきた。どうやら二人も無事だったようでなによりだ。

「よう、お前らも元気そうで良かったよ」

「ようじゃないわよ! あんたたちは大丈夫だったの? こっちにヘリが向かってるのを見たからめちゃくちゃ心配したのよ?」

加豪かごうはまるで怒ってるように言ってくるがそれだけ俺たちのことを心配してくれていたんだと伝わってくる。なんというかけっこう優しいやつだよな。

「それはミルフィアがなんとかしてくれたさ」

「なるほど、さすがね」

加豪かごうがミルフィアを見る。無傷どこか服のれすらないが、正真正銘ミルフィア一人であの武裝ヘリを落としたんだ。

「いえ。それよりも主を守っていただきありがとうございます加豪かごう。本來は私の役目でしたのに」

「なに言ってんのよ、お互い無事でなにより。それでいいでしょう?」

「はい」

ミルフィアと加豪かごうが自然な笑みを浮かべる。傍から見ても二人が分かり合っているのが分かる。

ミルフィアと加豪かごうが初めて會った時は戦いだった。なのにこうして仲良く話し合っている。

俺だけじゃない。ミルフィアにも友達ができている。笑顔が増えていく。それだけで。

俺はなんだか嬉しい気持ちになっていた。

「天和てんほも無事なようですね」

「當然」

「ちょっと、なんで天和てんほが自慢ぽく言うのよ!? 私が守ってあげたんでしょう」

「ボクだって無事ですよ!」

「恵瑠える、無事を競ってるんじゃないの」

「え?」

「ふふふ」

恵瑠えると加豪かごうと天和てんほ。そのの中にまじってミルフィアも楽しそうに笑ってる。

 こんな時になにを呑気なと思うけど、俺が夢見た時間がこうして実現しているんだ。そんな景になんだかいいなって、そう思ってしまうんだよな。

「楽しそうだな」

そこへ聲をかけてきたのはガブリエルだった。

白の皮靴が荒れた地面を優雅に歩く。目つきは依然と威厳を保ち俺たちに近づいてきた。

「ッ!?」

それを見てミルフィアがいち早く反応した。

「下がってください主!」

「え?」

鬼気迫る迫力でミルフィアが俺の前に出る。片手を上げ俺を庇っているようだった。視線はガブリエルに固定されている。その表は明らかに警戒しており、同時に威嚇していた。

「どうしたんだよミルフィア、突然」

「それは……」

その急変きゅうへんに俺は聞くが、しかし答えづらいのかミルフィアから答えは返ってこない。

「ほう」

俺は呆気に取られミルフィアを見つめていたが、ガブリエルはするどい目を初めて細めミルフィアを見下ろした。

「ミルフィア、か。なるほど」

同時に歩みを再開する。

ミルフィアの目の前で立ち止まった。ガブリエルの表は威厳に満ちている。反対にミルフィアは険しくガブリエルを睨み上げていた。

しばらくの間、二人は無言のまま見つめ合う。

「なんだよミルフィア、知ってるのか?」

「…………」

ミルフィアは答えてくれない。ガブリエルを睨みつけるだけだ。

二人の間で迫きんぱくした空気が流れる。沈黙が數秒続くが、それでミルフィアは腕を下ろし姿勢を正した。

「……いえ」

「?」

よく分からないが解決したようだ。張した空気はそのままにミルフィアは俺の橫へと移する。

どうも気まずい雰囲気だが、しかしいつまでもこうしてはいられない。俺は前に出た。

「どういうことか聞かせてもらうぜ、ガブリエル」

俺たちはすでにこの事件の関係者だ。おまけにミルフィアは敵のヘリまで撃墜げきついしちまった。これでは敵だって俺たちを放ってはおかないだろう。

「仕方があるまい」

ガブリエルは一度目を伏せるとやれやれと顔を振った。

「ついてこい。行先は、首都ヴァルカン、サン・ジアイ大聖堂だ。そこで彼がお前を待っている」

「彼ですか?」

「ああ」

ガブリエルの言葉に恵瑠えるが応える。ガブリエルの目が開かれ、彼は恵瑠えるに告げた。

「神長、ミカエルだ」

「ミカエル……」

その言葉を聞いた時、恵瑠えるの表は険しくなっていた。

初めて見た、そんな恵瑠えるの表は。

そして思ったんだ。

暗い顔もこんな表も、こいつには似合わないって。

だからさっさとこんな問題解決して、すぐにいつもみたいになればいいって。

俺はそう思った。

険しそうな表に、小さいでなにか大きなものを背負っているこいつに、早く笑顔が戻ってしいと思ったんだ。

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