《天下界の無信仰者(イレギュラー)》サン・ジアイ大聖堂

學園の襲撃をけた俺たちはそれから裏門に止められていた車に乗り込んだ。黒塗りのセダンには運転手と助手席にミルフィア、そして後部座席には俺と恵瑠えるが座っている。

初めて乗る高級車というものに妙に張してしまうが、しかしそれどころではなかった。

というのも、

「ぜったいにいやだー!」

「うるせえなぁ……」

恵瑠えるが、これでもかというくらい暴れていたからだ!

「いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! ぜったいにいやだぁああ!」

「暴れんな!」

車はすでに走り出しているというのに、恵瑠えるは扉を開けようとしたり窓からを出そうとするなどめちゃくちゃだ。

それをなんとかして座らせシートベルトで固定してやった。

まさに尋常じゃない嫌がりっぷりだ。

「なにがそんなに嫌なんだよ」

恵瑠はごと俺に振り向いてくる。

「神君はミカエルを知らないからそんなことが言えるんですよ! ぜったいにいやだぁ~! 降ろして~!」

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恵瑠えるがシートベルトの中で暴れてる。

「あのなー、だからと言ってもそいつから話を聞かないとそれこそ話が進まないんだろ? 仕方がねえじゃねえか」

そうは言うのだが恵瑠えるは納得出來ないようで抵抗を続けている。というか、誰とも仲良くなりたいと言っている恵瑠えるがここまで嫌がるとかどんな人なんだろうな。

「そうだ! ボクお腹痛い! ここで降ろしてください!」

「無理だ」

「いやだぁああああああああ!」

恵瑠えるのびも虛しく俺たちは走り続けた。車に乗って數時間後、商業地區から移し、すでに夜中となった頃俺たちは目的地へと到著した。

ゴルゴダ共和國。神律しんりつ學園のある商業地區にはいろんな信仰者がごちゃまぜで生活しているが、ここは慈連立じあいれんりつを主教としている國だ。

 住んでいる人もほとんどが慈連立じあいれんりつを信仰している。

「へえ」

それで窓から見上げる建に聲がれた。

サン・ジアイ大聖堂。白い建で、夜なので周りは暗いがこれはライトアップされている。全的に白をした四角い建で上はドーム狀になっている。

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 多くの窓に洗練せんれんされた裝飾は蕓的だ。実際観場所ともなっているようで目の前の広場には時間も遅いのにまだ人が殘っている。

俺たちの車は広場の中、大聖堂へと続く広い階段の前で停車した。車から降りて見てみるとそのしさに圧倒される。見ればたミルフィアも大聖堂を見上げていた。

「すげえな」

「はい」

素直に思ったことが言葉になる。これを目の前にして躊躇しようなんて思わない。巨大な建造であり同時に蕓であり、そしてこれは歴史なんだ。

 そうしたしさと重みをじる。見ただけで存在っていうのかな、そういうのが伝わってくるんだ。

「さて」

俺は一通り景観けいかんを堪能たんのうした後車に目を戻した。見れば後部座席に恵瑠えるが殘っている。

「ほら降りろ、いつまでぐずぐずしてるんだ」

「ボク降りたくない」

「さっきまで降りたいてんでただろうが」

「それさっき! 今ちがう!」

「うるせえ、どうでもいいんだよ」

「うわあああああああ!」

俺は恵瑠えるを摑み強引に外に出してやった。なんとか恵瑠えるを車から引っ張り出して、さきに到著していた加豪かごうと天和てんほと合流した。

「ちょっと神、恵瑠えるめちゃくちゃ嫌がってんじゃない、あんたなにしたのよ?」

「なにもしてねえよ!」

なんだその偏見、ぜんぶ俺が悪いみたいなじか!?

「なにをしている、ついてこい」

そんな俺たちの橫を通り過ぎながらガブリエルが階段を上がっていく。なんというか眼中にないというじですたすたと歩いていった。

「ちっ。ほら、俺たちも行こうぜ。恵瑠えるも、ここまで來たんだから騒ぐなよ?」

「う~」

恵瑠えるは頬を膨らませていた。

「そろそろ腹くくれよけない」

「う~!」

「まったく、う~しか言えないのかよ」

「むぅぅぅ~!」

悔しそうに顔で抗議してくるが無視してさきを急ぐ。

俺たちは階段を昇り切り大聖堂の中へとった。

「へぇ~」

中にった瞬間幻想的な空間に聲がれた。大理石の柱を追いかければ高い天井、さらにそこには直接絵が描かれていた。

 天窓はいい天気ならが差し込みこの空間を照らし出すんだろう。

この一階部分は誰でも出り自由なようで俺たち意外にも見客がいた。こういうのに別段興味があるわけじゃないが俺だってすごいって思う、他のお客さんやミルフィア、加豪かごうも聲をらしていた。

「こっちだ」

ガブリエルは淡々と素通りしてエレベーターへと乗り込んでいく。俺たちもエレベーターに乗りき出した。

エレベーターは三階で止まった。ここからは関係者以外立ち止なのか一般客は一人もいない。廊下も凝った作りをしており俺たちはガブリエルの背中を追いかけ歩き出した。

「ここだ」

そしてたどり著いたのは巨大な扉の前だった。両開きの木製の扉。ガブリエルは裝飾の施された取っ手を摑み押し開けた。

俺たちも中にる。

「ほお」

中は豪華な部屋だった。縦長に広い部屋には白のテーブルクロスが敷かれた五メートルはあろうかというテーブルが置かれ、天井にはシャンデリアが輝いている。

 絵畫や置かれてある蕓品が雰囲気を作っている。

その中で、テーブルの真ん中辺りで紅茶を飲んでいるがいた。

「あら、おかえりなさいガブリエル」

黒い長髪を背中に下ろしているはカチャンとカップを皿に置く。白の服に同じく白のタイトスカートを履いていた。

 ガブリエルと同じくらいの年に見えるが、ガブリエルと違い彼は穏やかそうだ。

け皿をテーブルに置きはこちらを向く。人だ。大きな瞳に髪はさらさらとしており、思った通り優しそうな目をしている。

「あなたが直接迎えに行くなんて驚いたけど、むしろ正解だったようね。大変だった?」

「私がそんな顔をしているか?」

「ふふ、全然」

からの心配を気にすることなくガブリエルは歩いていく。手ごろなイスを引くとそこに上著をかけ窓際で立ち止まり、外の景を見下ろしていた。

「相変わらずね。それにしても」

の視線がガブリエルから俺たちに向けられる。その視線にどきりとするが、正確には見てるのは俺じゃない。俺の隣にいる恵瑠えるだった。

「久しぶりね、恵瑠える」

は恵瑠えるを見て微笑んだ。

「ラファエルー!」

その笑みにあれほど嫌がっていた恵瑠えるが元気に駆け出した。彼に近づくと両手を前に出した。

「いぇーい!」

「いぇい」

そしてお互いに笑顔でタッチする。まるで姉と妹のやり取りだ。

そんな仲睦まじい二人の様子に加豪かごうがつぶやく。

「すごい、ラファエルって」

「なんだ、知ってるのか?」

俺は聞いてみるが加豪かごうは呆れたと言わんばかりに顔を振ってくる。

「あんた、ほんとなにも知らないのね」

「ほっとけ」

悪かったな知らなくて。

「ラファエルっていうあの、行政庁の長よ」

「すごいのか?」

「あんたねぇ~」

加豪かごうが盛大にため息を吐いてくる。くそ、こいつ俺が傷つかないと思ってるな。俺だってちょっとは傷つくんだぞ!?

するとミルフィアが答えてくれた。

「主、この國を取り締まっている人です」

「え!?」

ミルフィアの答えに意識が持っていかれる。

「おいおい、それって本當にすごい人じゃねえか」

「國務長だって同じくらいすごい人よ」

すげえ。俺の知識じゃパッとしなかったがそんな偉い人たちが目の前にいるんだな、しかも二人も。

俺は揺してしまうが、しかし天和てんほは冷靜だった。

「栗見くりみさん、どういう関係なんだろうね。國務長と行政庁長とも知り合いなんて」

「確かに」

恵瑠えるを見てみるとラファエルと両手を繋いで小ジャンプを繰り返している。ぴょんぴょんと跳ねる恵瑠えるに合わせてラファエルは座ったまま両手を上下にかしていた。

「元気そうね」

「うん。ラファエルは?」

「私はいつも通りかな。仕事は大変だけどやりがいはじているわ」

二人は手を放す。ラファエルは微笑んだまま恵瑠えるを見つめ続ける。

「本當に久しぶりね。それに、今日はお友達も一緒なのかしら?」

その後いたずらっぽく笑った。

「うん、まあね」

恵瑠えるが照れたように笑っている。

ラファエルは恵瑠えるから目を逸らし俺たちへと向けてきた。

「ようこそ、サン・ジアイ大聖堂へ。適當に座ってちょうだい。私はラファエル。ごめんなさいね、巻き込んでしまって。危険な目に遭ったのでしょう?」

優しい聲で俺たちの心配をしてくれる。

俺たちは口近くの席へ言われるまま座った。

「別にいいさ。それにそいつには関係があるんだろ? こいつが狙われてるのに無関係ってことはないさ」

「へえ」

俺は答えるがラファエルは心したようだった。

「そう。いいお友達ができたのね」

「うん。みんないいお友達だよ」

恵瑠えるは照れているがそれでも嬉しそうなのが伝わってくる。そんな恵瑠えるにラファエルも喜んでいるようだった。

「それで、これからミカエルと會うのは知ってるの?」

「……うん」

「正直……逃げたいでしょう?」

「もちろんだよ!」

「ふふ、やっぱり」

ラファエルは上品に口元に手を添えながら笑っている。

「でも駄目よ、ちゃんとお話しないと」

「う~」

「わがまま言ってもダメ。私だって我慢してここにいるんだから」

「私もな」

お前もか。

今まで會話に參加していなかったガブリエルまで言うとか。どんだけミカエルってやつは嫌われてんだよ……。

その時、俺はふと気がついた。

恵瑠えるとラファエルの二人の會話、ガブリエルもれれば三人だけど、聞いていてどこか違和があった。それで気づいたんだ。

恵瑠えるは基本相手には敬語なんだけど。

「ねえ、どうしてもボクここにいなきゃ駄目なの?」

「だーめ」

「う~ガブリエル~」

「私にすがるな」

「ガブリエルのいじわる!」

「いじめてなどいない」

こいつ、ラファエルやガブリエルとはタメ口なんだな。

意外というかちょっとした驚きだ。俺はよく知らないけど、國務長や行政で一番偉い人に向かって學生が同じように話しているなんて。

それに恵瑠えるは教皇とも會ったことがあるって言ってたよな。理由は言いたくないようだったけど、気になる。本當にどういう関係なんだ?

「それでは話を始めようか」

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