《天下界の無信仰者(イレギュラー)》連行

一方その頃。

ゴルゴダ館の中、ミルフィアたちは通路の隅から螺旋階段を昇る二人を見上げていた。

その中の一人、ミルフィアがなにやら真剣な表をしている。

「んん……」

と思うと、視線を下げてため息を吐いた。

「はあ……」

が、なにを思ったのか首を橫に振って見上げる。

「いやいや!」

が、すぐに俯きため息を吐く。

「はあ」

が、すぐに顔を橫に振る。

「そうではなくて!」

が、すぐに俯きため息を吐く。

「はあ……」

「ねえミルフィア、無理してない?」

不審なミルフィアに加豪かごうが心配している。それでミルフィアは慌てて振り向いた。

「な、なんのことですか。私は主と恵瑠えるに危険がないか見張っているだけです」

「ミルフィアの方が心配なんだけど」

「ミルフィアさん深刻ね」

「そんなことはありません!」

ミルフィアはきっぱり言い切った。しかし思うところがあるのか、表しだけ寂しそうになった。

「ただ、思えば私と主で遊んだことはないなと、見ていて思ったんです」

ミルフィアの視線が螺旋階段の二人へ向かう。それを見上げるミルフィアの目はどこか切なそうだ。

「私は主の奴隷です。そんな自由は許されないとそう自分を戒めていましたが、それが正しかったのか最近では悩むんです」

ミルフィアは変わった。この學園で三人の友人に囲まれ、同じ生徒として神のそばにいる。そうした時間の中でミルフィアの意識はしずつだが形を変えていった。

 だが、その変化に彼が躊躇い怯えている。

「ならさ、今からでも一緒に行っちゃいなよミルフィア。三人でも別にいいじゃない」

「え?」

と、そこへ言われた加豪かごうの一言にミルフィアの表がドキリとする。今からでも一緒に。甘な期待がに沸く。が、ミルフィアは慌てて顔を橫に振った。

「いえ! 二人を見張るのは主から言われた任務です。しっかり果たさなければ。それに、やはり奴隷である私が遊び目的などいいはずがありません」

「まったく、相変わらずそこは頑固なのね」

本人が一緒にいたがっているのは丸分かりなのに、その當の本人がこれでは先が思いやられる。

ミルフィアは視線を下げた。まるで過去を振り返っているのか、思い詰めたような顔だった。

「そうです、私は別に……」

なぜ、ミルフィアは奴隷にこだわるのか、それは誰も知らない。けれど本人は思い苦しんでいた。

ミルフィアの中を巡る想い。

収束しゅうそくされるひとつの結論。

それがミルフィアを縛り付ける。

(私が、幸せになっていいはずがないのだから)

その思いから、ミルフィアの表は暗かった。

「でも、それだと一生二人で遊ぶことはないわよね。これからずっと」

「…………」

が、そんなミルフィアに天和てんほがボソっとつぶやく。ミルフィアの顔がズンと固まる。

「これからずっと」

「…………」

「ああして宮司君は誰かと楽しそうに遊んでいるのを木から覗いているだけね。これからずっと」

「…………」

「…………」

「…………」

「これからずっと」

「…………」

「…………」

「…………」

「ま、私はどっちでもいいけど」

「くっ!」

ドン!

天和てんほの言葉に悔しさを耐えきれずミルフィアが壁を叩く!

と、その衝撃で一枚の絵が落ちてしまった。

「あ」

「あ」

「落ちたわね」

「ちょっとそこの君、なにしているんだね」

「え!?」

「え!?」

「気づかれたわね」

それに気づいた警備員が駆け寄ってきた!

「こんなことをしたら駄目じゃないか。ちょっと部屋まで來てくれるかな」

「ちょっと待ってください! 私は今重要な――」

「そういうのも後で聞くから、まずは付いてきなさい」

「もう、ミルフィアなにしてるのよ!」

「ミルフィアさん殘念だったわね」

「待って下さい! 私は今大切なことを、ちょっと、主ぃいいいい!」

「靜かにしないさい、ここ館だよ。三人はお友達? 浮足立つのも分かるけどしていいことと悪いことくらい分かるよね」

「え、私もですか?」

「私はどっちでもいいけど」

「主ぃ(小聲)!」

ミルフィアのび聲も虛しく、三人は警備員さんに連れられて行くのだった。

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