《天下界の無信仰者(イレギュラー)》宿3

俺は仰向けになり天井を見つめた。なんか変なじだ、同じベッドで一緒に橫になっているなんて。いつもミルフィアと同じ部屋で寢てはいるがベッドは別々だし。

 こういう狀況だから仕方がないというのもあるが、やっぱりなんていうかこう~。……はあ。

俺と一緒に橫になっていて、恵瑠えるは変に思っていないのだろうか?

俺は恵瑠えるに振り向いてみた。隣ではこちらにを向けた恵瑠えるがおり俺を見つめていた。

 ただ俺が振り返ったことで驚いたらしくしだけ距離をとる。それで恥ずかしそうな顔をすると、一回顔を下げたあと、上目遣いで俺に聞いてきた。

「な、なにもしない、よね?」

「するかぁあああ!」

俺はバサっと反対方向に寢返りをうった。

「ったく、信用してんのか信用してないのかどっちだよまったく」

「あの、ごめんね神君。気、悪くした?」

申し訳なさそうに恵瑠えるが聞いてくる。

「べ、別に、本気で怒ってるわけねえだろ……」

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「そっか、良かった」

恵瑠えるは安心したようだった。

俺の背後には恵瑠えるがいる。背中越しだというのにやけにその存在じる。意識しているんだろうか。…………あんなに頭突きしたのに。

「ねえ神君。まだ起きてる?」

すると恵瑠えるが聞いてきた。

「もう寢てるよ」

「そっか」

クスクスと恵瑠えるの笑い聲が聞こえる。俺の勢では恵瑠えるの姿が見えない。恵瑠えるの聲だけが聞こえるのがなんかむずかった。

「ねえ神君。私の話、聞いてくれる?」

それで、恵瑠えるは話し出した。

「神君がね、私を友達だと言ってくれた時、うれしかった」

「…………」

恵瑠えるのつぶやき。俺はそれを黙って聞いている。

「でもね」

背後から起き上がる音がして俺は振り向いた。恵瑠えるは上だけを起こして窓から夜空を見上げていた。俺には恵瑠えるの橫顔が見える。長い髪を垂らし、き通った雰囲気をまとっていた。

「実は、まだ隠していることがあるんだ」

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「隠していること?」

「うん」

恵瑠えるは夜空から視線を切ると俺を見つめてきた。

「私たち、天羽てんはのこと」

恵瑠えるの瞳はまっすぐだ。それはうつくしいけれど、どこか切羽詰った表だった。

「ゴルゴダ館で、天羽てんはのこと話したよね。覚えてる?」

「ああ」

「そこで天羽てんはは人々にイヤス様が神になったこと、そして彼の教えを広めたって言ったよね。でもね、正確じゃないんだ」

恵瑠えるの視線が、強くなった気がした。

「私たちが人々にしたこと。それは布教なんかじゃない。人類の、管理だった」

「管理?」

俺も起き上がる。恵瑠えるの言葉に唖然とした。それじゃあ話が違う。天羽てんはは人を救うために地上に來たんじゃなかったのか?

「天羽てんはは人々に爭いをしないように教えた。そして、そのために天羽てんはは人類を管理しようとしたの。これも爭いをなくすためだと」

「そんな」

「でも、當然従わない人たちもいた。そんな人たちを、ねえ、どうしたと思う?」

恵瑠えるの質問に俺はハッとした。

まだ神理しんりがない時代に起きた最初の奇跡。

天羽てんはの降臨。空から多くの天羽てんはが地上へと降り立ち人々に布教したという話。

でも、それがどんなにただしいことでも、自分たちの自由が奪われるとなれば反対する人が出てくるのは當然だ。

「神君、私はね」

そこで恵瑠えるの表が悲しそうに沈んでいった。目を伏せ、後悔に押し潰されそうな顔をしている。

「かつて……」

辛そうに。恵瑠えるは次の言葉を言うのを苦しんでいた。

だから俺は言ってやった。

「言わなくていい」

「え」

俺の言葉に恵瑠えるが顔を上げる。

「辛いなら言わなくていいさ。俺はそれでいいから」

驚く恵瑠えるに、俺は優しくそう言ってやった。

苦しむくらいなら言わなくていい。そうまでして恵瑠えるから聞きたいとは思わない。話はだいたい分かった。

「でも、神君は怖くないの? 私は」

そんな俺に恵瑠えるは悲しそうな瞳で言い寄ってくる。

「……その時は、それが正しいって思ってた。それが神の意思で、正義だと。でも、私は許されないことをしてしまった」

顔は俯き、前髪に表はうまく見えない。

「多くの人を……襲ったんだよ」

「…………」

かつての行い。その時はそれが正しいと信じていた恵瑠えるだったが、今ではこんなにも苦しんでいる。

「怖いよね。嫌われも仕方がないって、怖がられても仕方がないって、そう思ってる」

そう言った後、恵瑠えるは再び俯いてしまった。

「ったく」

「神君?」

そんな恵瑠えるに俺は軽い調子で聲を出した。こいつがあまりにも深刻な顔するからさ、俺は気にしないと態度で伝えた。

「怖いだって? ハッ。お前誰を前にして言ってるんだよ」

気負うことなく、いつも通りに。

「俺は泣く子も黙る天下界の無信仰者イレギュラーだぜ? お前は怖くないのかよ?」

「それは……」

それでも恵瑠えるは負い目からか躊躇う素振りを見せる。

「神君は、私が怖くないの? 大勢の人を、襲ったのに?」

「大昔だろ。それに今のお前はそうじゃない」

真剣な目で悲しそうに聞いてくる恵瑠えるを俺は否定する。

「俺が知ってるお前はアホで間抜けで頭の中チューリップ畑の――」

「神君、ひどいよ……」

俺が並べる言葉に恵瑠えるは拗ねたような顔をするが、

「誰よりも優しいの子さ」

そう言った時、恵瑠えるは嬉しそうに微笑んだ。

ああ、やっぱりだ。こいつは恵瑠えるだ。落ちんでいるよりも、悲しんでいるよりも、笑っている時の方がよっぽどいい。

 こっちの方がずっと可らしい。こいつがずっと、笑っていればいいんだ。

恵瑠えるが笑ってくれたのをよしとして俺は再びベッドに橫になった。

「早く寢ようぜ、明日だってどうぜ忙しくなるんだろうからさ」

恵瑠えるに背を向けるようにして眠り込む。

だが、突然背中から恵瑠えるが抱きついてきた!

「おい、お前なにして――」

「ありがとう、神君!」

らかい恵瑠えるのが背中に押し付けられる。まるでのように恵瑠えるは喜んでいた。

 けれど、二つの大きな膨らみが背中にくっつけられてなんていうかこう、冷靜じゃいられなくなるぅうううう!

「おい恵瑠える放せって」

俺はそうは言うものの恵瑠えるはなかなか放してくれない。喜びを抑えきれないようだ。ああもう、マジ勘弁してくれよ!

「恵瑠える! おい、いい加減にしろよお前!」

「もう、分かった」

そうして恵瑠(える)はようやく放してくれた。

「まったく、お前はなあ」

「だって」

背中越しにやれやれと言うが恵瑠えるからの返事は明るいものだ。

「嬉しかったから」

その言葉は本當に嬉しそうで、ホッとした安心のようなものをじた。それで俺も納得というか共していた。

ずっと一人だと思っていた。でも、仲間ができた。友達ができた。

その時の喜びなら、俺も知っている。

俺は、天下界唯一の無信仰者だ。味方なんて一人もいなかったし、全員から疎まれた。俺は、間違いなく世界の敵だったんだ。

でも、そんな俺にも友達ができた。

かつて屋上で行った誕生會、記憶の中で黃金に輝くあの時のよろこびは今でも褪せていない。

だから、恵瑠えるの喜びも分かるんだ。

誰よりも。仲間ができた時の喜びっていうのは、言葉に表せないくらい、幸せなものなんだ。

「だからといって、いつまでもはしゃいでるなよ。もう寢るんだろ? 靜かにしてろって」

「うん」

恵瑠えるの返事を聞きようやく眠れるのかと思う。なんか疲れた、いろいろな意味で。

俺は目を瞑む。いい合に疲れと眠気がやってくる。あー、いい、もうすぐ眠れそう……。

と、恵瑠えるが俺の背中をってきた。指先を當てかしてくる。

「おーい、止めろって。もうすぐで眠れそうだったのに~」

「ねえ神君、分かる?」

「ああ? なにが」

「これ」

睡眠を邪魔され不機嫌な俺に、恵瑠えるは靜かに、けれど楽しそうに俺の背中を指先でれてくる。遊びを構ってしい子供みたいだ。それで仕方がないなと俺も付き合ってやる。

「んー……」

背中に意識を向けてみると、最初はただかしているだけだと思ったが、もしかして文字だろうか? 背中に集中して恵瑠えるの指先のきを頭に思い浮かべてみる。

えーと、始まりがこうで、一旦指が離れたから……。

俺は考えて、思いついたのを言ってみた。

「うーん、『お』『や』『じ』?」

「違うよ」

恵瑠えるがクスクスと笑っている。

「じゃあなんだよ」

くそ、けっこう自信あったのに。

「こう」

また恵瑠(える)の指がき始めた。仕切り直しだ、指のきを追いかける。

その一つ一つを想像していった。

最初が『お』。

次が『や』。たぶんここまでは正しい。

そして次がえーと『す』か?

それで最後がたぶん『み』。

えーとだから……。

「『お』『や』『す』『み』か」

「うん、おやすみ」

「まったく」

小さく笑った。靜かにしろと言ったからって、指で伝えてこなくてもいいだろうが。まったく、ずいぶん遠回しな方法使いやがって。まだだいぶ浮かれてるみたいだな。

でも、楽しいのは恵瑠えるだけじゃなかった。俺も、なんだか楽しかったんだ。こんな恵瑠えるとのやり取りが。

今日、恵瑠えるのことを知った。今まで知らなかった多くのことを。そこには辛いこと悲しいこともたくさんあったが、それでも俺たちはこうして仲が良いままだ。

『たとえなにがあろうと、俺たちは友達だ!』

この言葉の通りに、俺たちは今も友達だ。

それを嬉しく思う、なによりも。

こんな楽しい時間が、これからもずっと続けばいいと、そう思っていた。

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