夜の靜けさが部屋を包む。窓際から差し込む月は二人が並ぶベッドを照らしていた。

 白いシーツに浮かぶ二人分の影が靜寂に映る。

その一人、恵瑠えるの目の前には神の背中があった。いつもそばにいるのにここまで近くで見ることは初めてで恵瑠(える)は見つめ続ける。

天羽てんはとして居場所を失い、場違いである人間と共に暮らしていた恵瑠えるには孤獨が多かった。ようやくできた友達もいつかは失うのではないかと怖かった。

ずっと、長い間を一人で生きてきた。明るく振る舞っていたけど、心の底では寂しかった。本當の自分を偽り、ずっと不安だった。

だけど、彼は違う。

いつまでも友達だと言ってくれた。自分を怖がらずにそばにいてくれた。かつて、人間を襲った天羽てんはだと知っても、なお。

 そんなことを言ってくれる人が、あと何人いるだろう？　怖がられて、疎まれて、それが當たり前だというのに。なのに、彼は友達だと言ってくれた。

それが、恵瑠えるにはとても嬉しかった。と言っていいほどに謝した。

（ありがとう、神君）

恵瑠えるは、彼の背中をずっとずっと見続ける。

自分の友人である、彼の背中を。

「ねえ神君、次の問題ね」

そう言って恵瑠えるは人差し指を背中へと當てた。細く長い指がそっとれる。

その指先に、恵瑠えるは心からの思いを込めた。

謝している彼がここにいる。

助けてくれた人がここにいる。

救ってくれた。

守ってくれた。

恵瑠えるは指をかす。張した面持ちで、けれど指はしっかりと軌道を描く。

『す』

まるで恐れるように、だけど力強く。

恵瑠えるは伝えた。

『き』

自分の、想いを。

「ねえ……分かる？」

背中から指を離す。通じただろうか。恵瑠えるは不安な気持ちで神の答えを待つ。

もし、斷られたらどうしよう。せっかく友達だと言ってくれたのに、これで壊れてしまったらどうしよう。

不安と心配の眼差しで、恵瑠えるは神の答えを待ち続けた。

「神君。……神君？」

だがなかなか答えが返ってこない。それで恵瑠えるはを起こし神の顔を覗き込んでみた。

「スゥ……スゥ……ううん……」

「眠っちゃったか」

神はすでに眠っていた。恵瑠えるはホッとしたような寂しいような複雑な気持ちになったが、安らかな寢息を立てている彼の顔に自然と笑みが浮かんだ。

恵瑠えるは橫になると彼の背中に額を當てた。目を瞑り、彼を一番近くでじる。

「大好きだよ」

こうして一緒にいる。自分をけれてくれる。これ以上の喜びなんてない。

「神君。ずっと、一緒にいてね」

幸せに包まれて、恵瑠えるは眠りについていった。