《天下界の無信仰者(イレギュラー)》あいつは、お前等の仲間じゃないのか?

「はあ、はあ」

エリヤは大剣を地面に刺してを支える。左腕を持ち上げ肩口を見てみれば新たに傷ができていた。さっきの攻撃で間に合わず切られたらしい。傷は深くないがさきほどから傷がいくつも刻まれている。

「ったく」

これくらいの傷シルフィアの小言に比べれば屁でもないが、問題は未だに相手に傷を與えられないことだ。

力では間違いなく自分が上回っている。ならば強度でも自分が上回っているはずだ。なのに自分は傷をけ相手はけない。

解せない。普通の神化じゃない。自分と同じく特殊な質持ちか。

どちらにせよ特異な違う力を持っている。

サン・ジアイ大聖堂の瓦礫が崩れる。そこからミカエルが起きあがった。服についた埃を払いながら近づいてくる。

「本當に君はパワーだけで解決してくるねぇ」

その口振りに疲れは見られない。まだまだ余裕がある。

対してエリヤは傷が目立つ。のところどころからはが滲み服も切り裂かれている。表も芳しくないが、それはどちらかというと勝機の見えない焦燥からだった。

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「ふぅん」

最強と稱された元聖騎士も無敵ではない。攻撃は最大の防。防は最大の攻撃。両者の場合、優勢なのは無敵の力を持つミカエルだった。

「恩知らずな単純馬鹿がずいぶんみすぼらしくなってきたじゃないか。どうだい、自分の立場も分からない殘念な君でも私にはかなわないと分かってくれたかな?」

「てめえの口に腕を突っ込んだら分かるかもな」

「まったく、センスのない返しだ」

演じている役者のようにミカエルはこれ見よがしに嘆息した。

「エリヤ君、君では私には勝てない。どうあってもそれは無理なんだよ。それはこれまでの戦いでよく分かっただろう。この勝負はいずれ私が勝つ。しかし殘念なことにそれにはまだ時間がかかりそうだ。だから、ここは取引といこう」

「取引?」

「なに、君みたいな殘念な反逆者でも理解できる、簡単なものだよ」

ミカエルは悠然と言う。他人を見下すような笑みはここに現れた時から変わらない。

その表が引き締まった。皮った笑みはない。真剣な顔つきに変わりエリヤに取引の容を突きつけてきた。

「ウリエルの居場所を吐け。そうすれば、命だけは助けてやろう。幸い私は神長殿には顔が利くし、司法庁長のサリエルとも親がある。極刑だけはしないよう口添えをしてやるさ。君は二度もゴルゴダ共和國の政治の中心地、サン・ジアイ大聖堂をあろうことか二度も襲撃した大罪人だ。それが極刑を免れるなど異例中の異例だろう。これは大げさに言っているのではない。お前、このままでは本當に死刑だぞ?」

重い。重圧すらじるほどの語気に空間が重たくなっていく。飄然とした態度に隠されていた彼の本気が雰囲気を激変させた。

「言え。ウリエルはどこにいる?」

取引というよりも、それは脅迫だった。突きつける言葉が刃になってエリヤの首もとに當てられる。

エリヤは、ミカエルを見ながら言った。

「あいつは、お前等の仲間じゃないのか?」

「その仲間をあいつが裏切ったのさ」

「だから許せないって? だから殺すってか?」

息は落ち著いてきたとはいえまだ疲れはある。傷の痛みも増してきている。中がだるくて痛かった。

だけど、言わずにはいられなかった。

「人間をして、世界を平和にしたいって、そう願ってお前らから離れていったあいつを、二千年も経った今でも許せないって?」

ふつふつとの底から怒りが沸いてくる。も涙もない対処に呆れすら覚えた。

「どっちが殘念だよ、が小さいんだよキザ野郎。いつまでも逃げられてろアホ」

エリヤは彼の居場所を知らないが、仮に知っていてもそんな相手に教えたりなんてしない。

ミカエルはエリヤから拒絶されるが表は変わらなかった。

「そうか、そういう誤解があるのなら解いておこう」

「?」

エリヤの眉がしだけ曲がる。

ウリエルの事はラグエルからしか聞いたことがない。一側面だけだ。相手側の主張をまだ一度も聞いたことがなかった。

「確かに、君の言ったとおり彼には死んでもらうつもりだ。しかしそれはなにも過去の清算のためだけではない。今後において重要な、必要なことなんだ」

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