《天下界の無信仰者(イレギュラー)》ちっ、ダセえな、俺も

エリヤの言葉が心に染み渡っていく。それをミカエルは自覚していた。

『人類は、自分の意思で生きるからしいんだ』

エリヤの言葉に遠い記憶を思い出していく。本當に遠い、なのにあせることのない景が脳裏に浮かぶ。

そこには自分に向けて言う、友の姿があった。

(これが、お前の言っていた人の強さなのか? ルシファー)

人は自分の意思で生きるからしい。今まさに、それは目の前にある。

自分のを犠牲にしてでも誰かを救いたい。そうしようとしている人間がいる。

それは、それは、それは。

本當に救いたかった、人の姿。

「そうか。殘念だよ」

いつになく寂しそうなつぶやきがミカエルの口からこぼれた。

「だが、私にも引けぬ事がある。さすがに何度も同じ場所を突けば深手になるだろう」

さらりと言うが戦闘中、狙った場所を正確に突くのは至難の技だ。ふざけているように見えてミカエルの技量もただ者ではない。

「終わらせよう」

ミカエルは剣を構えた。

「おう」

それに応じて、エリヤも大剣を構える。

二人は走り出し、剣をぶつけあった。

ままならないものだ。本當にままならないものだ。一つの歯車が違っただけでまったくかみ合わなくなる。もしなにかが違っていれば、衝突することなく仲間にだってなれたかもしれないのに。

小さな違い、ささいな差で。同じだった道は方向の角度を変え、進むごとにその差を大きくしていく。

思いは同じで、その願いが同じだったとしても。

善悪だけでは説明できない衝突がそこにはある。

本當に、ままならないものだ。

二人が戦い続けてどれだけ経ったか。星の出る夜空は白み始め、遠い水平線の向こうから朝日が顔を覗かせていた。

「終わりだな」

サン・ジアイ大聖堂正面。靜まり返った戦場に、男の聲が響いた。

「正直驚いている、まさかここまでとはな。だが、それもこれで終わりだ」

二人の勝負の終著に、その男は達を思わせない聲で話していく。敵だった相手に向かって、まるで別れを惜しむように終わりを告げた。

「殘念だよ」

その男は、ミカエルだった。は無傷のまま。激闘を繰り広げたにも関わらずそのにはかすり傷一つない。

エリヤは、ボロボロの姿で立っていた。中傷だらけでコートの裾は切り裂かれ、大剣を支えにしてなんとか立っている。その足場にはしたたり落ちたたまりになっていた。

あれから何時間も戦い続け、そのを傷つけながらも時間を稼いでいた。

ミカエルは無敵だ。そのはなにであろうと傷つかない。そうした可能がゼロの神の力が働いている。

勝機のない戦いを前にして、しかし、それでもエリヤは懸命に戦った。

を救うため。その一心だけで。

「ひどい重傷だがお前なら死なんだろう。回復次第お前には取り調べをけてもらう。サリエルの目を見たことがあるか? 邪眼と言ってな、あいつの目を見ると神が圧迫されるんだ。お前もいずれ口を割るさ。お前の愚かな行を、その痛みを以て後悔するといい」

淡々とした口調がエリヤの耳にってくる。

エリヤは全を苛む傷に目線を下げたまま口元を歪ませた。

「ふ。あいつも天羽かよ。ガラ悪すぎだろ」

「フッ」

これだけの傷を負いながらまだ軽口を言えるだけの余裕があるとは。ミカエルもつられて小さく笑う。

だがその笑みもすぐさま消え去った。

エリヤの傷は冗談でも灑落でもなく本當に重傷だった。今からすぐに治療すれば助かるというだけであってこのままでは死んでしまう。

そのことをエリヤ自よく分かっていた。

「…………」

自分の限界を、否応にも理解してしまう。

「ちっ、ダセえな、俺も」

「フッ」

自分の負けを認めるしかない。エリヤも全力で戦ったがこの結果だ、ここから逆転できるとはさすがに思えない。

エリヤから出た敗北宣言にミカエルは納得したように笑う。

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