《天下界の無信仰者(イレギュラー)》俺の大切なダチを傷つけようなんてやつに、負けるかよ!

メタトロンの第二の拳がくる。エノクも必死だ。頭上や周囲から放つ線が利かず、自の神化は弱化された。倒すにはもうメタトロンの攻撃しかない。

殘された機會はこの一回のみ。

「落ちるがいい!」

狙いを定め、全力を込める。一度は砕かれた神託を祈りで補い、今持てる全力で神を潰す。

「落ちて」

けれど、

「たまるかぁああ!」

の力はエノクの祈りすら越えていった。

「俺の大切なダチを傷つけようなんてやつに、負けるかよ!」

は二つの脅威を凌ぎきった。メタトロンの拳は後方、次を打つには腕を引かなければならない。メタトロンの攻撃は強力だ、速度、大きさ、破壊力、神の一撃と言っても差し支えない。

だが、その大きさ故に踏み込まれては手出しができない。メタトロンは中遠距離用で、接近戦となればエノクごと毆りかねない。本來ならそれでも問題ないが、今のエノクは完全ではない。防壁で守りを固めているのがその証拠。

接近を許した時點で、勝負はついていた。

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「てめえが落ちろぉお!」

浮遊するエノクに猛然と飛びかかり、振り上げた拳はエノクを直撃した。

「がああ!」

防壁を貫通し黃金の拳が教皇をとらえる。空中から地面にたたき落とされエノクの頬が土に塗れた。

「ぬ、う……」

に伝わる衝撃にかない。息が苦しい。毆られたのは腹部なのに中が痺れている。

「教皇様ー!」

遠くから聲が聞こえる。二人の男の聲。聖騎士のペトロとヤコブだ。二人はエノクに駆け寄ろうとするがそこに神の姿を見つけ足を止めた。

「あのガキー!」

ヤコブが怒鳴り剣を抜こうとするがペトロがそれを制止する。

「待て」

「しかし」

「これは二人の戦いだ。それに、私たちが手を出せば周りが黙っていまい」

ペトロにそう言われヤコブが辺りを見渡す。そこにはこちらを見るミルフィアと加豪の姿。もしヤコブが勢いに任せ加勢していれば二人は全力で阻止してきた。

「ここは見守るしかない。教皇様の勝利を信じてな」

「當然だ、エノク様が敗れるものか!」

ヤコブは柄を握る手を放した。ペトロの橫に立ちエノクと神を見つめる。その目はどちらも真剣だ。エノクの勝利を信じてはいるものの表は優れない。自分たちの長である教皇エノクは地面にうつ伏せになっているのだから。

エノクも二人がかけつけて來てくれたのは聲から分かっている。しかしそれで痛みが引くわけでもない。

「どうした、その程度かよ?」

そんな時、聲がかけられた。

エノクはかすのも辛い顔をわずかに上に向けた。そこにいたのは太を背に自分を見下ろす神の姿だった。

「世界を救う? 冗談だろ、こんな無様でなにを救うつもりだよ」

辛辣な言葉がかけられる。エノクは睨み上げるが臆するどころか冷たい顔つきは変わらない。

「立てよ、こんなもんじゃねえんだろ? まだやれるんだろ? 來いよエノク! お前の決意はこんなもんなのかよ!」

年の言葉はエノクの心を土足で踏みつけた。煽り立て、駆り立てた。

「言われずとも」

は痺れてかない。痛みと麻痺が屈服を催促してくる。

だが、エノクは立ち上がった。靜かな闘志を燃やしている。

「そのつもりだ」

服は見事にぼろぼろにやつれ頬には傷がついている。日頃の優な姿は今のエノクにはない。

ここにいるのは一つの決意を宿し、六十年も前の約束を守ろうとする一人の男だ。

負けたくない。なぜだか無にそう思う。この年には絶対に負けたくない。

は拳を振り上げた。立ち上がったエノクを倒すため。

対して、エノクは剣を空間から取り出した。久しぶりに握りしめる柄の。けれどれた瞬間に思い出す。ともに戦ってきた數々の記憶。

これは、エノクが聖騎士の時使っていた剣だ。もう使わなくなって久しいそれを、エノクはこの大勝負で取り出した。

騎士にとって剣とは誇り。エノクは信仰ではなく、誇りを手に立ち向かっていく。

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