《天下界の無信仰者(イレギュラー)》でも、なんでだろうな
その姿に神の目が見開かれた。
(なんだ?)
心に電流が走る。それはよわい八十を越えるエノクが剣で戦いを挑んできた違和ではなく驚愕。そして危機。
強い。メタトロンとは違う圧迫をエノクからじる。
神の足が止まった。それは本能的に。危ないという直があった。
エノクの突きが放たれる。鋭いまっすぐとした突きだ。だが妨害のオーラがそれを許さない。エノクの突きを防ぎそのまま飲み込もうとする。エノクは剣を引きそれを回避した。さらに上段から剣を振り下ろし、オーラが反応してく。そのまま今度こそ妨害によってきを止めようとした瞬間。
剣が、軌道を変えた。
気づいた時には手遅れだ。オーラは導されており腹部が手薄になっていた。そこを見逃すエノクではなく、オーラの薄くなったそこへ渾の剣撃をたたき込む。
「ぐう!」
今度は神が息もできない痛みに苦しむ番だった。妨害と強化でダメージを軽減できていたとしてもこれは強烈。
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足が地面をる。毆られた場所を手で押さえ痛みに顔がひきつる。
その技に衰えはない。剣の彩は昔のまま、剣聖と呼ばれたころと変わっていない。
神は再び構えた。それに合わせエノクも剣を構え直す。視線と戦意をぶつけ合い、戦いを再開する。
「うおおお!」
「はあああ!」
神は拳を振るった。友を守ると決意を込めて何度も毆りかかる。
エノクは剣で応えた。かつての約束を果たすために応酬を繰り返していく。
「どうしたエノク、そんな弱腰じゃいつまで経っても勝てないぞ!」
神の攻撃は強化によって繰り出す力業だ。戦や技なんてない、圧倒的な力によるごり押し、対する者を力で制圧する。
「笑止」
反対にエノクは技の達人だ。磨かれてきた剣技の冴えは言うに及ばず。エノクは神の攻撃を防ぐ。それは守りの戦い方だが目は剣先よりも鋭い。
「戦場で驕る者は命を落とす」
エノクは神の攻撃後、一瞬の隙を狙い突きの構えを取った。さらに全が白銀に輝き出す。
(なに?)
神は構えた。なにかするつもりだ、突きの構えから一點突破を試みるつもりだろう。そうはさせないと先手を打つ。全に漂う金の粒子。それを前方に集中させた。これならなんとかなるはず。
そう予想するが、エノクはその先をいっていた。
エノクのから発せられる、それは神化の輝きだ。そのに宿す神そのもの。
それが剣に集まっていく。剣が輝きを増し、力を集束させることで強化していた。
(神化の移? そんなことができるのか?)
初めてみた。そもそも神化に創意工夫の余地があることすら知らなかった。そして驚いていたのは神だけじゃない、この戦いを見守る者すべてだ。聖騎士として名を連ねるペトロやヤコブも聞いたことはあっても実際に目にしたことはなかった。
その一撃。これは信仰心の強さや神託のものではない、鍛錬と研磨が生んだ人の技。そこにまで至ったエノクの屈強なる意思。
白銀を纏った突きが、黃金のベールを突き破った。
「があああああ!」
神のが吹き飛んだ。突風の波に飲み込まれながら大きくアーチを描き、地面に落下する。
「主!?」
「神君!」
ミルフィアと恵瑠がぶ。神が負った傷は大きい。痛みには痺れ中を走る衝撃に気持ちが悪くる。
神は仰向けに倒れたまま青空を仰いだ。
(くそ、さすがに強いな)
認めるしかない。彼は強い。それは否定しようがない。信仰者としての強さも、人としての強さもすごいとしか言いようがなかった。そんな相手が敵となれば不安や恐怖しかない。
(でも、なんでだろうな)
そのはずだが、神はなぜか頬を緩ませていた。これほどの強敵を相手にしているのにの奧では心がざわつき喜びすらじていた。
(楽しい……エノクと戦うことが。この一瞬がなんでか楽しいんだよな)
エノクと戦うということ。忌むべき敵の強さがこの時だけは誇らしくて、自然と笑みを浮かべてしまう。理由は分からない。
でもなぜか、そう思う。
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