《天下界の無信仰者(イレギュラー)》一人にしたりしねえよ。友達、だろ?
「ごめんごめん。でも神君めちゃくちゃだよ~」
「仕方がねえだろ、それしかなかったし名案だったろ?」
「もぅう、心配だったんですからね?」
「それはこっちの臺詞だよ」
「うう~」
恵瑠はいじけるように口先を尖らせていた。
と、思い出したように恵瑠が衝撃的なことを言ってきた。
「そういえば神君宿題はちゃんとしたんですか?」
「え!?」
宿題!? おいおいおい、なんだそりゃ。
「いや、てかはじめて聞いたぞ?」
「ええ!? もう、神君ったら」
「は!? マジで初耳だぞそんなん。てか、こんなことになってたのに宿題とかあるのかよ」
「ありますよー。臨時休校になってたから、その間自宅で勉強しておくように宿題が出されてたじゃないですか。神君、きっと事件直後で気が緩んでたんじゃないですか? でもどうしよう、宿題してこなかったら罰として校舎にある全部のトイレ掃除って話ですし」
「うっそおおお!」
なんだよそれ! 誰だそんな罰考えたやつ!
「ちょっと待ってくれよ、俺は世界を救ったんだぞ! それがなに、表彰や賞金をもらうどころかトイレ掃除させられるの! は!? ふざっけんなよ~!」
なんだそれ! 理不盡だろ、おかしいおかしい。この世界おかしいぞ!
「ん? でも昨日、加豪と天和と一緒にいたがそんな話一度も出てこなかったぞ? あいつらもしてる様子なかったし」
おかしいな、そんなことがあるならしてるはずだし、俺はともかくあいつらが知らないっていうのは考えづらいよな。
「…………」
と、恵瑠から會話がぴたりと止んでいる。見れば下を向いていて俺を見ていない。
「ぷぷ」
「うそかてめえ!」
「きゃあー、逃げろー!」
「待てー!」
こいつ~! よくも俺を騙したな!
走る小さな背中をダッシュで追いかけてやる。
「あっははは! だってー、だってー! 前に神君だってボクにうそついたじゃないですかー。これでおあいこだもん!」
「そんなん関係ないもん!」
「えええ!?」
俺は背後から恵瑠を捕まえた。両脇を持って持ち上げてやる。
「捕まえたぞオラ!」
「きゃあー、助けて~」
宙に持ち上げられ両手両足をバタバタしている。本當に小さいなこいつ。
それで俺は下ろしてやった。軽いんだがやかましい。
恵瑠は念願の大地に足を下ろしようやく落ち著いた。やれやれだ。
「ふふふ」
「ん、どうした?」
そう思えば今度は笑っている。
「ううん。ただ」
俺に聞かれ小さく顔を振ってから恵瑠は顔を上げた。
「楽しいなって」
まるでこの時をありがたむような、慨深い顔で恵瑠は笑っている。
「こんな風に笑えるなんて。一人の時は思わなかった」
そりゃあそうだろう。でもまあ、恵瑠はそうだろうな。
さっきも思ったけど恵瑠はすべてを犠牲にするつもりだった。それは平和な世界を作りたいっていう願いからだったわけだけど、そこには自分が幸せになりたいっていう思いが欠けていたように思う。
こいつがウリエルだと名乗っていた時、こいつが笑っている姿を俺は見たことがない。
こんな風に笑うなんてこと、思ってもみなかったに違いない。
「當たり前だろ」
そんなこいつに俺は何気なく言ってやった。
「おまえらと一緒にいられる。そんな世界が好きだから、俺は命を賭けたんだ」
「…………」
「これが俺が守りたかった未來だ。そこには加豪や天和、ミルフィア。みんないなきゃ駄目なんだ。そして、おまえもな」
こいつは諦めたかもしれないけれど、俺は諦めなかった。迷ったり悩んだりしたことはあったけど、そのたびに助けられて今日がある。
それも全部、みんなでいられる世界が好きだから。
そこに欠けていい人なんていない。
俺は恵瑠を見た。この世界に生きる大切な友人に向け、俺は手を差し出した。
「一人にしたりしねえよ。友達、だろ?」
こいつが悲しんでる姿なんて見たくない。
恵瑠が見上げる。白いツインテールが揺れて青い瞳が俺を見る。その顔がにっこりと笑い、俺の手を取った。
「うん!」
やっぱり、こいつは笑っている方がいいな。
そうして俺たちは歩き出した。取り戻した日常の中へ帰って行く。
俺の守りたかった日々。
何気ない一日が今日も始まる。
隣では、恵瑠がとびっきりの笑顔で笑っていた。
 慈連立編 完
本作を読んでいただきありがとうございました。ここまで読んでくれた全ての読者に謝します。本當にありがとうございました。
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