《召喚された賢者は異世界を往く ~最強なのは不要在庫のアイテムでした〜》プロローグ2

勇者が召喚されたことで、俺の存在は既に忘れさられ貴族や騎士は盛り上がっている。

互いに手を取り合い、肩を叩き希が見出されたことに歓喜で沸く。

その中で頬を染めた王は、勇者といわれる青年の手を両手で包み込むように握り締め「勇者様……」と呟いている。

數分その狀態が続き、次第に落ち著いてくる。

我を思い出した王が咳払いをし、姿勢を正し勇者に語りかけた。

「勇者様、これから父親である陛下と謁見がございます。ご案いたしますのでこちらへどうぞ」

は勇者の青年と共にホールを出て行き、貴族たちもその後を追っていく。

鎧が豪華な上級騎士たちもその後を追い、殘りの騎士は片付けを始めた。

え? 俺の立場は? 焦った俺は殘っていた騎士の一人に聲を掛ける。

「すみません、俺はどうしたら?」

騎士は困ったような顔をし、一人のメイドに聲を掛けた。

「この者を客間に案してやってくれ。明日には帰ることになるから。それと――」

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騎士がメイドの耳元で囁くと無言で頷き、俺のことを案する。

メイドの案のもと、儀式の間から渡り廊下を通り、王城の中の一つの部屋に案された。

歩いてきた廊下は彫刻や絵畫が飾られ、ネットでしか見たことのない建にキョロキョロと見回しながらメイドの後をついていく。

「この部屋をお使いください。トイレはその奧の扉を開けたところにございます。食事もこの部屋にお持ちいたします」

された部屋は、先ほど通った華やかな廊下から想像つかないほど質素な部屋となっている。

八畳ほどの部屋にベッドとテーブルと椅子があり、小さいクローゼットと奧に扉が一つあり、なぜか窓もない部屋だった。

どう見ても客間には見えない。

「客間ってここ? 本當に?」

想像していた部屋とまったく違うことにメイドに再度確認する。

メイドはただ頷くだけだった。

部屋にると、いきなりメイドは扉を閉めた。

ガチャ

あれ? 鍵が閉まったような音がしたよな?

確認のために扉を開けようとするがびくともしない。

鍵を確認すると部屋の側からではなく、外側から鍵を閉めることが出來る部屋だった。

「クッソー! だまされた!」

押しても引いても開かない扉に早々に見切りをつけ、倒れるようにベッドに橫になった。

「それにしても何でリアルに召還されたんだ、しかも現実と違う姿で……」

どう考えても理解ができないことで諦めてトイレの扉を開けた。

中はトイレと手洗いと……鏡があった。現代日本の鏡ではなく、金屬が磨かれただけの鏡だ。

鏡に映った顔は見覚えがある。先ほどいた勇者には及ばないが、俺が魂込めて創った別アカウントのプリーストのキャラクターだ。

「やっぱりそうだよね……」

若くなったことは喜ばしいが一日だけだ。明日には元の社畜に戻る予定である。

明日無斷欠勤した言い訳を考えながらベッドで橫になっていた。

ノックさえされない部屋で時間だけが過ぎていく。

結局夕食が出ることがなく、洗面所の水を飲み空腹を誤魔化しながら寢ることにした。

翌朝、扉の鍵を開ける音で目が覚める。

扉が開かれ食事を乗せたカートを、昨日この部屋に案してくれたメイドが持ってきた。

「おまっ!!」

寢起きで怒ることも出來ない俺を目に、メイドはテーブルの橫にカートを置いた。

「食事をお持ちしました。カートはここに置いておきますね」

そしてまた扉は閉められた。

「部屋を出たいけど、まずは飯だ。マジで腹減った……」

ベッドを早々に出てカートに乗ったトレイの蓋を開ける。

「噓だろ……」

はパンが一つとすでに冷めた野菜の屑がったスープだった。

ただ、空腹は最高のスパイスというのは正解だ。

ボソボソのパンも、冷め切った屑野菜しかっていないスープでも、今の俺には最高のご馳走ともいえた。

あっという間に胃袋の中に納まっていく。

「全然足りねぇ……」

足りない分を水でごまかし時間を潰していると扉が開かれた。

部屋にってきたのは壯年のローブを著た男と騎士が數人だ。

「これから送還の儀を行う。王殿下は勇者様についておるのでわしが送ろう。殿下には及ばないが、宮廷魔師を務めるわしの魔力でも問題なかろう」

「――はい……」

はすでに新しく召還された勇者といるため、送還には宮廷魔師が対応するそうだ。俺は言われるがままこの世界に召還された時のローブを羽織りついていく。

騎士が俺の周りを囲むように立ち、ローブ姿の壯年の男の後を歩いた。どう見ても逃亡防止のためとしか思えない。それでも元の世界に戻れると信じ、後を追うことしかできなかった。

昨日召還された儀式の間に程なくして到著する。

「その魔法陣の真ん中に立っていておくれ。元の世界に戻す送還魔法を行う」

言われるがまま魔法陣の中央に俺は立つ。

宮廷魔師が呪文を唱え始める。數分にも渡る長い呪文が部屋の中を木霊していると、地面に描かれた魔法陣がり始めた。

「――――この地に舞い降りた迷い人よ。元の世界に戻りたまえ」

その言葉を聴いた途端、魔法陣は一気に眩いに覆われ俺の視界は真っ白に染まった。

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