途方にくれながらも俺は預かった鍵を差し込み開錠し、扉を開け屋敷へとる。やはり屋敷は綺麗な狀態を維持しており、埃ひとつない狀態であった。

「ここに一人で住むのか……あ、一人ではない……のか……」

目の前にはすぐに白い靄で出てきてフェリスが姿を現す。

「今日からお世話になるよ。俺はトウヤだ。よろしくね、フェリス……？」

日本人だった癖か、つい頭を下げる。顔を上げた俺にフェリスはしだけ微笑んだようにじた。

屋敷を出て商業ギルドまでの途中、フェリスを含め家霊は言葉を発することはないとナタリーから説明をけていた。

いつの間にか家に住み著き、その家を大事に守っていくのが家霊であり、家霊が住み著いた家は劣化することなく維持されるという。

まったくの無害であるが、住人が変わると家霊は家主を選び、許可が出ないと住むことは出來ない。

その前に家霊が住み著くこと自が珍しいことであり、この街でも他に３軒しか確認できていないということだった。

その中でこの家は、十年以上、何人もが希したが今までに許可が出た事がなく、ナタリーが所有者となってから初めての事だそうだ。

問いかけると、言葉は理解しておりそれに答えてくれる。もちろん無言ではあるが。

しかし、なんとなくこの大きな屋敷で一人きりでは味気なく聲を掛けてしまう。

「俺の部屋ってどこになるかな？」

俺の問いにフェリスは「ついてきて」といわんばかりに階段をゆっくりと上がっていく。そして二階の一番奧の部屋の扉を開けた。

フェリスの後に部屋にると、そこは３０畳くらいの部屋となっており、大きなキングサイズの天蓋付きベッド、そしてソファーまでもが設置されていた。

「大きな屋敷だとは思ってたけど、部屋もこんなに広いのか」

部屋のあちこちを調べるように見ていると、フェリスはり口でずっと控えたままで俺の事を見守っていた。

やはり部屋を見ても埃ひとつなく綺麗な狀態が維持されていた。

ナタリーからは家霊がいる屋敷ではそれが普通だと教えられたが、やはり日本人だからであろうか、謝の気持ちが浮かび上がってくる。

「フェリス、この屋敷を綺麗にしてくれてありがとう。他の部屋も見てみたいから案してもらえるかな？」

俺の言葉にしだけ表が和らいだ気がしたが、すぐに案のために部屋を出てしまったため、よくわからなかった。

その後も、書斎であったり、客室など２階を案してもらう。

そして、１階へと移し、ダイニング、リビングそして――この屋敷に決めた最大の理由、風呂へと案された。

室から、浴槽の扉を開けると、湯気が顔へとかかってくる。

湯気が晴れた浴室は、大人が十人くらいれる大きな浴槽に、ライオンの顔の彫刻の口からとめどなくお湯が出ている。

「も、もしかして……いつでもれたり……する？」

振り返った俺にフェリスは無表のままただ頷く。

その返事に俺は両腕を上げ「やったー！」と、全で喜びを表現した。

フェリスはお風呂になぜそんなに喜んでいるのかわからずに首を傾げるが、日本人として風呂は堪らないものだ。

そのままお風呂にりたい気持ちを抑え、後ろ髪を引かれながらもフェリスの後を追う。

一通り案が終わった俺はリビングでソファーに座り寛いだ。

「フェリス、案ありがとう。これからよろしくね」

謝の気持ちを伝えると、フェリスは頷きそのまま消えていく。

部屋に一人殘った俺は今後の事を考える。

「とりあえず飯は自分で作れるから問題ないとして……生活基盤を整えないとな。レベルも上げたいし。次元収納ストレージの中も試していかないとな……まずは……」

部屋を出ると向かう所はただひとつ。

浴室に向かった。室で服をぎ捨てて浴場へとると湯気が顔を覆う。

「こんなに最高の風呂に毎日れるなんて幸せ過ぎる……」

を洗い足から広い浴槽に浸かる。

「ふぅ。気持ちいいぃ……」

足を延ばし寢ころんだ狀態でも問題ないと言えるほど広い風呂でのんびりと寛ぐ。もっとっていたい気持ちを抑えのぼせる前に浴槽を出た。

室に放り投げた服は全て畳んでかごにっている。を拭くためのタオルも準備されていた。

そして――フェリスが佇んでいた。

「ちょっ！！」

であった俺はタオルを腰に巻いた。さすがに家霊とは言っても、にしか見えない霊の前ででいるのは恥ずかしさを覚えてしまう。

俺の驚いた表にフェリスは気にした様子もなかったが、に見せつけるのはどうかと思い、外に出てもらうように頼むとその場でフェリスは消えていく。

１人になった俺はタオルでを拭き、次元収納ストレージから新しい服を出し著替える。かごに畳まれていた服を出すと、すでに服は汚れが落ち綺麗になっていた。

「綺麗になってる……フェリスがやってくれたのかな……。あとで禮を言っとくか」

服を次元収納ストレージに仕舞い、リビングへと戻る。

引っ越し初日に料理をする気も起きず、次元収納ストレージの中から出來合の食事を取り出して食べ、満足してから２階へと上がり自室へとる。

「明日からレベル上げだな。依頼をこなさないと……」

今まで味わったこともない程の寢心地のいいベッドへと寢ころんだ俺は、知らぬ間に意識は闇へと落ちていった。