《ヘタレ魔法學生の俺に、四人もが寄ってくるなんてあり得ない!》車で結婚うんぬんの話するのはやめよう……
翌日。
やかましい程セミが鳴き、抜けるような青空の日だった。
俺達はリビングでもはや夏の風詩となった高校野球の中継を見ていた。あ、今のりそうだったのに……惜しいなあ……。
「ねえまだー?」
飽きたのか聲をあげたのはケイト。そんなに楽しみなのか。
「今八時四十三分。もうすぐ來るから待ってろって」
「むうー……」
「暁、お茶飲む?」
「ああ。ありがとう」
「お、和水。俺も俺も」
父さんもか。……手つきが酒を注ぐときの手なんですがそれは。
「父さんは今度はいつ仕事行くの?」
「そうだな……。何もなけりゃ來週からだが、急ぎの取引やら営業業務がっちまうと最悪明々後日からだな」
もう殘りないのか。まるで夏休みだな。長そうにじて恐ろしく短い。
「母さんは前の仕事いつ復帰する訳?」
そうか。母さん休職してたのか。
「うーん……。事務だから早目に復帰したいわね。和水達に負擔かかっちゃうけど……」
「そっか。……っとと。はい」
「おう。あんがとよ」
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「暁も」
「ん。ありがとう」
麥茶か。冷たくていいな。……うっ、キーンと來た……。
「父さん。天條って聞かれて分かる?」
「天條……ああ。分かるぞ。何せ會社の取引相手だからな」
「そこの娘さんは?」
「さすがにそりゃ知らね。っていうかいきなりどうした?婚約でも考えてんのか?」
瞬間、部屋の空気が冷え込む。あ、あれ。俺なんか悪い事言ったっけ?それに皆さん……特に華さん目が怖い!
あー何かデカい車來た。この辺にあんなの持ってる家があったのか。
俺が現実逃避に勤しんでいると、タイミング良くインターホンが鳴った。これ幸いと駆け出す俺。
「(多分天條先輩だ!助かったー……)」
ドアを開けると先輩ではなくデカい黒服のおじさん五人(ご丁寧にサングラス裝備)がいた。
「あ、あの…某國の諜報機関さんが俺に何のご用で……?」
黒服は何も喋らない。時間に比例して俺の汗も増加していく。銃とか向けて來ないよな?弾摑んだり銃曲げたりなんて出來ないぞ?
俺がヤバい想像をしていると、
「雨宮様ですね。車にてお嬢様がお待ちです。速やかにご出立の準備をされますよう」
喋った!?いやそうじゃなくて!
「あ、はい。ちょっと待ってください」
「何か迎え來たんだけど。急いで準備して來いだって」
「ちょっと待ってて。二階から荷持ってくる」
「私もー」
心なしか(顔に出ているが)嬉しそうな顔をするケイト。
「しかし……生の黒服連中なんて初めて見たぞ」
ドラマとかで見る機會はあっても、実を見たことは無かった。……いかつい顔してるのは一緒だな。
車。エアコン最高だぜ。
「しかし天條先輩の護衛だったんですか」
「ええ。この五人は特に優秀な方々です。まあ、夏の炎天下でスーツを著ても汗一つかかないのは優秀を通り越して恐怖しますが……」
何それ怖い。金目當てで走る人を黒服が捕まえる番組かよ。
「いきなり來たときは某國の諜報機関さんにマークされてたんじゃないかと思いましたよ」
「ふふ……サングラスも相まって雰囲気満點だったでしょう?」
五秒後に死ぬと思ったのはあれが初めてだわ。スーツのポケットから銃取り出してもおかしく無いくらいだったし。
「雨宮くん……死にそうだったの?」
「え、いや違うよ。俺の勘違いだよ」
「しかし……家を出る前に一悶著あったようですが?」
「あ、あー。あれですか。あれは気にしないでください。ほんと何でもないです」
父さんが「夏の解放に任せてを押し倒すなよ」とか言うから!
「そうですか。……でも……」
「でも?」
「あなたと一緒に何かするのは、十一年ぶりですわね……」
嬉しそうな顔をしつつも寂しそうに笑う先輩。っていうかあれ風船取っただけじゃあ……。
「え、暁。十一年ぶりって何?」
「それ気になった!」
「教えて」
……地雷踏んだっぽいぞ。
「あー……。えーと、その……」
言うか言うまいか迷っていると、
「私がい頃に、木に風船が引っ掛かった子とがありましたの。どうしようもなかった私の代わりに、雨宮さんが取って下さいまして」
マジックハンドでな。素手で取ったら俺はゴム人間か何かになるぞ。
「へえ、暁。すごいじゃん」
「さすが暁ね!私の婚約者なだけあるわ!」
「……すごい」
俺が褒められていると、先輩の顔がし曇った。
「……そこのあなた。今『婚約者』とか言いましたよね?」
「……そうですけど。気に障りました?」
「気に障るも何も、雨宮さんは私の婚約者なのです!あなたの様などこの馬の骨ともとれぬに盜られてたまるものですか!」
えっ!?婚約者とか初耳なんですけど!何がどうなってんだよ……。
「とにかく!雨宮さんがあなたを選ぶなど、あり得ませんわ!」
「ぐ、的な理由は?」
「まずあなたはもうし淑然とした振る舞いを心掛けるべきです。うるさいは嫌われますわよ」
突き放すように言う先輩。このジャブからの、
「それと、『私にあってあなたに無いもの』ですわね」
鮮やかなストレート。……あ、それって……。
「そんなのどこに…あっ!」
おいやめろ夢を見させてやれって。
「……ぐううう~!」
「理解しまして?これが的な理由ですわ」
お、大人気ないお嬢さんだな…。
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