《初めての》出會いと戸い09
「よ~し、全員席につけ~い! これから一年間、お前らのGTFを務める事になった奇跡を、先生は心から嬉しく思う」――、予鈴と同時にスタンバイでもしていたかのようないいタイミングで一人の二十代後半くらいの齢をした男教諭が教室に飛び込んできた。「ジーティーエフ?」
石原軍団・団長が用しそうなサングラスを掛けた男教諭が教卓に立つと同時に、教室中が聞きなれない英単語で一杯になる。多分、何か略語だと思うが誰もその渾の“ボケ”に笑うどころか逆に真剣に考え込んでしまう。
「最新の教育用語か? 雅知ってるか? オレバカだからイマイチ分からん」「いや、僕も學校では聞いた事ないかな。似たような言葉を昔ドラマで聞いた事あるけど」
格はともかく、教養の方には難ありと自稱する拓哉に促され謎の英単語“GTF”の意味を一応は考えてみる。似たような響きでGTOなら學園ドラマで聞いた事あるんだが、あれを現実世界で実際に自分の生徒相手に発言する訳がないとは思うが……。
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「これがジェネレーションギャップなのか……」
平生まれの未年が大半のクラスだ。誰も一昔前の刑事ドラマに出てきそうな格好をする福田先生が言い表したい略語の意味が何の事なのか理解できない。てか、刑事ドラマにしたいのか學園ドラマにしたいのか、その格好とセリフじゃリンクしないって。みんなで首をシマリスの如く傾ぐと、福田先生はサングラスを力なく外し黒板に塗り絵の要領で極太な文字を書き始めた。
「“グレートティーチャー福田“だ。……、恥ずかしい事させるなよ! ボケを解説する事ほど恥な事はないんだからな!」
服裝だけは強面な教師に見える福田先生が、素顔を茹蛸以上に赤らめ顔を手で隠す。「なるほど」ともらす男子生徒が何名かいる分、まだましな方であり、拓哉なんて意味が分かるとイの一番に席を立ち福田先生に拳を突き出した。
「ちょっ、福田先生! あんた最高だよ!」「よ、フ・ク・ダ! フ・ク・ダ! グレートティーチャー福田あああああ」
聖職者の決死のボケに極まり笑い泣きをする拓哉が三十歳目前の福田先生を絶賛したと思うと、それに合わせて機の脇にアコスティックギターを掛ける男子が福田コールを始めた。その熱いコールの波が教室を呑み込む事は簡単であり、HRがお祭り騒ぎとなった。
「ちょ、おま、大河! 教室では靜かにする約束だろが!」「良いじゃん良いじゃん、せっかく楽しくなってきたんだからライブみたいに盛りあがろーぜ!」
大河と呼ばれる年がアコスティックギターを肩に掛けジャカジャカと軽快かつアグレッシブなメロディーを奏で教室全を煽る。
「おおおおお、俺はドラムだああああ」
何故か拓哉がそのリズムに合わせ機を叩き始める。ギターを取り出し弾き始める奴も奴だが、空っぽの機をバンバン、カポカポ叩く拓哉も拓哉で相當に馬鹿である。
「ほら、雅、お前もやれよ!」「は? 何を?」「ベースだよ! ほれ」
小學生が言う野球しようぜ! 覚の軽いいをノリノリの拓哉からけ正直テンパる。しかも投げ渡された掃除用を弾けと言うんだから尚更困ってしまう。
「ほれってこれ、土間箒――」「さあ、ベースはこの人、ミヤビだあああああああ」――、どこぞの大所バンドのメンバー紹介よろしく拓哉が僕の名をぶ。煽られた観客(級友)の「お前は一どんなパフォーマンスをしてくれんだ」って視線が張してギュッとこまる僕に集中する。
もうね、この先の學園生活が不安になった。普通を極めし年齢=彼いない歴の男が、やった事もないエアーギターならぬエアーベースを恥を消し去って出來る訳がない。ないのだが、
「う、うおおおおおおおおお」
テンパりすぎて訳が分からなくなった。人生でこれほど油汗をかいたことはないであろう。わたくし、雅も暴走モードに突である。
「ちょっ、みやび!」
嗚呼、遠くから奈緒の僕を心配する聲が聞こえる。聞こえるんだけど、張のあまりハイになってしまった僕は、悪ノリをする拓哉や大河に負けず劣らないピック裁きを観客達に見せつける。土間箒片手に、先端が禿げかけるくたびれたそれを掻き毟りいかにも音が出てますよってで表し、即席スリーピースバンドは教室を思いつきだけで席巻した。
「こ、コラあああああああああああ」
が、僕らのそんなゲリラライブに終焉をもたらした怒鳴り聲の主は、學園きっての教育の鬼と評される教頭のモノだった。
「お前ら! ココは教養と秩序を學ぶ學校だぞ? それにも関わらず朝から騒ぐなど言語道斷だ! 罰として正座だ正座!」
小學校以來である。廊下に出され正座をさせられるのは。
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