《初めての友達08

五月を迎えてもまだ寒い桜ノ宮市の夜。ヨーロッパの街並みを意識して作られたレンガ張りの歩道を歩き、アンティーク調の街燈からさす橙を僕は、焦心しながら見上げつつ何個も追い抜いていた。

「……」「……」

つかず離れず。車道側を僕が歩き歩道側を春香さんは両手で鞄をの正面で持ちゆっくりゆっくりと小さな歩幅で歩く。會話が見つからず焦る僕は何回も春香さんから人二人分くらい前を歩いてしまい、その都度春香さんがローファーをカツカツ言わせ追いかけてきて、自分の配慮のなさに気が付いて立ち止まる僕にヤマユリのようならかい微笑みをくれる。

「ご、ごめんね」「え、どうして謝るんですか?」「だって、つまらないでしょ?」

ついに出たのはそんな言葉であった。

「私は楽しいですよ。雅君と帰れることが信じられないくらい嬉しい」「大げさだよ」

街燈の真下で立ち止まった春香さんは笑顔を満開にさせた。もし僕が拓哉みたいに心を勉強するためにメンズ雑誌を読み漁っていればきっともっとにこやかな雰囲気で帰れたはずだ。なのに、こんななふがいない僕と帰れたことを春香さんはその笑顔で評価してくれた。

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「大げさなことなんて一つもありませんよ。私はあの日、雅君に助けてもらったことを奇跡だと思っています今も。何か一つ間違えれば出會う事がなかった私たちが肩を並べて一緒の方向を目指して歩いていることだけでも、私は満足なんです」

生まれてこのかた噓をついたことがない。春香さんのその落ち著いた聲で話された言葉たちはどれも真実で構されていると彼のその表を見れば分かる。どうして、こんなにもこの子は素敵なんだろうか。僕が初めてこんな気持ちを抱いたの子は、そのことに後悔させるどころかこのまま一生が出來なくなってもいいくらいくるしいの子なのだ。

「僕、もっと春香さんのことを知りたい。その辺の男たちが見たことない表をもっと近くで見ていたいんだ」

のことを思えば思うほど、あれほどかなかった脳みそが、閉ざされた口がドバドバと言葉を紡ぎだし、夜風に乗り春香さんへと送られていく。

「だから、僕とラインを換してほしいんだ。いままでたくさんの男たちに言われてきたかもしれないけど、僕も春香さんと楽しく會話してたくさんの思い出殘したいんだ。ダメかな?」「……」

寡黙な男が唐突にマシンガンの如く言葉の弾丸を連したせいか、春香さんはきっちり揃えていたつま先に視線を落とし黙り込んでしまった。しだけ肩が震えているようにも見え、すれ違う歩行者たちが訝しんで通り過ぎていく。

「ご、ごめん! 嫌だったよね。會ってまだ一カ月しかたってない男とラインするの。ごめん、調子にのっちゃった。さあ、家まで送っていくよ」

どこで手順を間違ってしまったのか見當もつかない。焦り過ぎたのか、気持ちを素直に言い過ぎて引かれてしまったのか。 どちらにしろ春香さんを困らせてしまったことには違いがないので、僕はあからさまな態度でその場を取り繕うとし踵を返し歩き出す。

「待って違うの! 私もライン換したい! 雅君のこともっとたくさん知りたい! もっといろんなお話したい……」

僕の制服の裾をつかんで春香さんはそう言った。街燈に照らされた瞳は潤んでおりキラキラと輝き、それがまた春香さんの魅力をグンと急上昇させて僕の心は本日何回目かのオーバーヒート寸前である。こんなの卑怯だ。僕が彼氏だったら絶対に抱きしめて「好きだあああああ」ってんでキスをするに違いない。

「夜も遅くまでラインするかもよ?」「いいよ、私も雅君が寢るまでずっとラインします」「もしかしたら電話もするかもよ?」「いままでできなかった分たくさんお話したいです。奈緒に負けないくらいうんっと長電話したいです」

ああ、なんて嬉しいことを言うんだ。このまま死んでもいいかもしれない。こんな幸せな気持ちを抱けるなんて僕は幸せ者だ。ってこんなにも素晴らしいモノなんだ。 そのままの勢いでスマートフォンを取り出し、ラインを換し合い攜帯電話の番號も登録し合った僕たち。どことなく、小鳥遊春香と記された電話帳が眩しく見える。

「やった~、雅君ゲットだぜ~」「ちょっと……、ずるいよそれは」「え、何がです?」「いや、なんでもない。聞かなかったことにしてほしい」

反則的だこの子は。何もかも反則的な可さを持っている。僕が彼に好意を抱いているからでは済まされないほどに、春香さんの仕草はどれをとっても殺人的に可いのだ。

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