《初めての》錯する心02
「……、自分の気持ち伝えたの……?」
ついにベッドの縁に脹脛がぶつかったと思ったら、奈緒は僕のに手を當てるとちょっぴり寂しそうな表をした。きっと寵する弟が旅立つ時に、こんな顔を全世界のブラコンなお姉ちゃんはするんじゃないだろうか? なぜか、奈緒はそんな表をして僕の目をじっと上目使いで見つめている。
「いや、今はこれが限界だよ。でも、きっといつかはこの想いを伝えたい」「もしさ、もしもだよ? 上手くいかなかったら?」
一歩下がった奈緒は顔を上げる事なくそう言った。
「そ~だな~、正直さ、自信はないよやっぱり。拓哉みたいにいかしたことが言えるわけでもましてやさ、かっこいいわけじゃない」「そんなことないよ? みやびなら大丈夫」「どうして?」「だって、みやびはみやびだもの。あたしが保証する。みやびなら大丈夫」「それって答えになってなくないか?」
僕なら大丈夫って、僕だから不安なんだよな。その辺、奈緒と僕の考えには違いがある。
「みやびってさ、自分に自信ないみたいだけど、とても素敵なところたくさん持ってる。自分を見失っちゃだめ。きっと大丈夫だからさ」「まあ、奈緒がそう言うなら大丈夫な気がするよ。僕には勝ち目ってどのくらいある?」「ん~、勝ち目って?」「いやさ、歌を誰かに教わったって言ってたじゃん? きっと春香その人のこと意識してるよね」「ああ、その話ね。あたしもいまいち分からないんだよね~その人の事」
奈緒が何の気なしにベッドへ腰を掛けたので僕もその隣に座る。
「春香と高校で同じクラスになったのは今回が初めてだし、まだ私も會ったことないの」「男だよね?」「まあ、今回のカラオケで見たあのノリからして、男ってのは確定じゃない? それも同年代」
僕の十八番についてこれたのだ。きっとその男もパンクロックをこよなくするロッカーなのだろう。それも、春香にあんな表をさせるくらい、春香にとっては近な存在なのだろう。やっぱり勝ち目があるとは思えないのだが――。
「でもさ、最近話せてないみたいよ? もしかしたら過去の話しってだけなのかも。ましてや、春香とどうこう言う関係じゃなかったって可能のが大きいかも」「喧嘩別れでもしたのかな?」「どうなんだろ? あたしとみやびが喧嘩しても絶対そんなことにならないとあたしは思うけど」 確かに。僕が試しに奈緒とケンカしたとしても、何日も何カ月も會話しないなんてありえない。どちらかが必ず次の日には謝っていつもの馴染に戻っている。つまり、春香とその男は僕らの関係とは違うということなのだろうか?
「もしかしたら、あたしたちとは関係が違うのかもね?」「それってつまり?」「……」
僕より先に答えを発見した奈緒は黙り込んでしまった。
「なあ、なんだよ教えてくれよ」「みやびさ、あたしのことどう思う? あたしたちの関係は?」「はあ? なんだよ急に。どう思うって聞かれてもなんて言っていいか分からない。言えることは僕たちは馴染ってことだな」「春香たちはそうじゃなかったってことじゃない?」
何かのトンチだろうか。僕と奈緒との関係とは違い、喧嘩したらなかなか修復が出來ない関係ってなんだろう。これでも頭をフルに使っているが全然検討もつかない。
「あ、拓哉君からだ。じゃあみやび、あたし帰るね」「なんだよ、もう帰るのか? てか、何しに來たんだよ」「別に、意味なんてないわよ。馴染なんだから気まぐれで來たってかまわないでしょ?」「いや、そうだけど、奈緒が急に來るなんて珍しいから」
奈緒も僕と同じくカラオケ帰りからずっと拓哉とラインをしているようだ。スマホをポケットから取り出すと手早く文章を打ち窓辺へと歩んでいく。
「二人の関係に進展があったか気になっただけだよ。言ったじゃん応援するって、だから気になって來ちゃったの。もしかして、迷だった?」「迷な訳ないだろよ。奈緒が來るなら駅前のケーキ屋でモンブランケーキ大量に買ってもてなしてやるよ」「ふふ、ありがとう。やっぱりみやびなら大丈夫だよ? 自信もっていいよ」
奈緒の好が昔から駅前の洋菓子店に売っている特大のモンブランケーキであることを知っているのは、奈緒の家族と僕くらいであろう。毎年12月25日の奈緒の誕生日にはそれを買って奈緒の家に押し掛けるのが、僕の毎年の恒例でもある。クリスマスに毎年奇抜なサプライズをされては奈緒も苦労していると思うがそれはしかたないことた゛。それを思い出してか奈緒は、嬉しそうに笑いまた僕の前へと歩いてきた。
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