《初めての錯する心17

「奈緒、いいか? 明日のことなんだけども」「いいよ、今からそっち行くね」「いやいや、今度は僕が行くから」「お父さんにどやされるよ」

そう言われては返す言葉もなく、個々に買いを済ませ帰路についていた僕と奈緒は、男臭い部屋で両親には緒の談をすることになった。もちろん、これは拓哉や春香にも緒である。それに奈緒も同意している。

「どう、明日大丈夫そう?」「わかんないけど、出來る限りの努力はするさ。奈緒はどう?」「あたしは別に、普通だよ」

えらく淡白な返答であった。當たり前の様に僕のベッドに寢そべって持參した演劇と書かれた雑誌を読む奈緒さん。これが勝者の余裕ってやつなのでしょうか?

「奈緒は張とかしないのか?」「なんで張するのよ? 別に四人で出かけるだけじゃん」

誠にごもっともな意見であるのだけれど、僕は、いや、男陣は明日の午前十時には想い人のこと事を想い選んだ服に袖を通し、それを本人に見せるのだ。心臓が高鳴ってどうにかなりそうなのである。まごうとなき好意を前面に出して春香に會うのだ、正気の沙汰ではない。

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「そうだけどさ、あなたの好みを考えて良く見せようと努力してます。って言ってるようなもじゃんよ」「それは、みやびが春香に対して特別な思いがあることを認識しているから思うだけよ。春香はそんなこと知らないし、きっと普通に似合ってるとか、みやびとお出かけ出來てうれしいって思うだけ。考え過ぎなのよみやびは」「そうだと良いんだけど」

いかんせ僕は分かり易い男である。もし、奈緒が僕の好意を寄せる相手なら一発で見抜かれてしまうに違いない。

「ちなみに、あたしは嬉しいよ? みやびがあたしのことを一生懸命思って選んでくれた服裝ならなんでも。春香もきっとそういうはず。分かるでしょ? 一カ月一緒にいるんだから?」「まあ、そうだとは思うが。そうだ、一度見てくれないか?」「いいけど、春香に一番最初に見てもらわなくていいの?」「え、そう言われるとそうだけど。奈緒は特別じゃんか。カウントにらないよ」「特別って、まあ、みやびがそれでいいなら見てあげるわよ」

雑誌を読むのを止めてベッドに腰を掛ける奈緒。

「よ~し、著替えるか」

気分屋の奈緒が飽きる前にことを済ませたいので、クローゼットからハンガーに掛けた新品の服を取り出しズボンに手を掛けると、奈緒が慌てた様に背後で聲を荒げた。

「ちょっと待ちなさいよ! 何、ズボンごうとしてるのよ!」「だって、著替えないと奈緒に見せられないだろ?」「の子の前で著替えるなって言ってんのよ!」

なるほど、倫理的な返答である。が、そんなことを奈緒に言われるのは今更過ぎて返答に困る。

「だって、別に奈緒だし、昔一緒に風呂もってたし、何なら一緒に立ちしょ――」「いつの話しをしてんのよ! バカみやび!」

すぐに手が出るの子である。とっさに枕元に置いてあったパステルカラーが目立つ雑誌を思いっきり僕の顔面へと投げつけてきた。あれ、枕元に置いてあった雑誌って? 奈緒が自分で持ってきた雑誌は奈緒の膝の上にあったし――。

「こ、このバカ! エッチ! スケベ! みやびの変態!」

だらけの大運會。顔面に覆いかぶさる件の雑誌を両手で広がったまま取ると表紙にはそう書かれていた。たぶん、表紙側が僕の顔に覆いかぶさっていたってことは、中がもろに奈緒の方を向いていたと予想できた。そしてこの罵詈雑言である。予想が確信に変わった瞬間であった。

「まあ、僕も男子だしさ、なんていうかすまん」

恐る恐る顔が上げると奈緒の顔はいままで見たことがないくらい真っ赤であった。初めて一緒にお風呂にった時の記憶はないが、小學生が終わるまではたびたびを見せあっていた。その時ですらこんなに分かり易く赤面してなかったってのに、今の奈緒は火でも噴きそうだ。

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