《初めての錯する心23

半袖短パンの如何にも腕白そうな男の子と肩口で髪をツインに縛った赤いTシャツを著たこちらも活発そうなの子がスーッと消えたのだ。なんの脈絡もなしに。一人取り殘された純白のワンピースを著用した床までびたロングヘアのの子は、それに気が付かないでひと際甲高い聲で泣いている。

「お~い、お嬢さん? 二人ともいなくなっちゃったよ? 追いかけなくていいの?」

ダメ元でそう聲を掛けた。すると、泣き聲がピタリと止んだ。

「いなくなったのは……わたし……、ダメな子なのは……わたし……」

僕から見て右方向を向いて蹲るの子が顔を上げることなくそう呟いた。

「ダメな子って、何か悪いことしたの?」「……わたしが……いたから、……二人につらい想いさせちゃって……」

嗚咽と鼻水を啜る音がり混じるい聲。この聲を僕はどこかで聞いたことがある。

「わたしなんかいなければ……二人は……二人は……幸せになれたのに……ごめんね……みやちゃん……」

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そういうとの子は消えてしまった。

わたしはダメな子? 君がいなければ幸せになれた二人? その二人って誰? みやちゃんって? 疑問が疑問を呼ぶ。

夢に変化があったのはこれが初めてであり、一人取り殘されたの子の聲に聞き覚えがあることも判明した。しだけ進展があった。でも、結局、僕と三人の関係が分からないままだ。これは単なる僕の夢で現実世界とは何の関係がない話なのだろうか。

もし、仮に、が言っていたことが真実であったら、今もどこかで三人は泣いていてそのうちの一人のの子は自分を責めていることになるのだ。

それなら、僕はこれがただの夢であることをただ祈るばかりである。僕にこんな夢を見る理由がなければ、三人の様に泣きわめく心の傷を負った記憶もない。今も現在進行形でそんなこともない。むしろ幸せである。

だから、夢から目覚めた僕は鳴る三十分前の時計のアラームを解除すると一階へ降りて顔を洗って気分をどうにか晴らそうとした。

「あれま、GWだってのに早いな? こりゃ、世界の終わりも近いな」「夫婦そろって僕を疫病神扱いするな。デートするんだよ今日」「な、なんだと! な、なんだよ!」

洗面臺で顔を洗っていると鏡にスーツ姿の親父が寫り、息子の急な話に驚き大聲を上げて大げさにすっころんだ。

「朝から騒がしい親子だね~、どうしたの? スーツに埃がついちゃってるじゃないの」「母さん、聞いてくれ! 我らの愚息が今日! 今日! デートするらしいぞ! これは世界の終わりなのか?」「ば、ばかな……、そんなことが起きていいものか……」――、ガッシャーン。母さんが持っていたお玉が廊下を跳ねる。

とんでもなく失禮な両親である。思春期を迎え、高校二年生にもなった息子が、たかだかGWにデートするだけで、この、本日も平和な世界を終焉に導こうとしている。

「そうだ、相手は誰だ! 奈緒ちゃんか? ついに奈緒ちゃんと付き合うことになったのか?」「奈緒もいるけども、本命は違う」「なんだと! おまえ、奈緒ちゃんと言う天使がいながら他のの子に乗り換えか!」「あんた、本當にどうしようもない男だね。それでもちんちんついてんの? 奈緒ちゃん以外のの子とデートだなんて正気の沙汰じゃないわ」

親父の言いたいことは分かる。小さいころから本當の娘の様に可がる奈緒の事を贔屓する気持ちも、あわよくば本當の娘にしたい本音も、期から今までの言から察しているつもりだ。

ただ、母さんの言には贔屓以上になんか別のモノをじてしまう。こう、とか云々抜きに心の底から奈緒以外のの子を選ぼうとしている僕を軽蔑しているのが分かる。

「なんでそこまで言われないといけないんだよ? 僕が誰を好きになったっていいだろ?」「誰よ相手。どこの馬の骨を好きになった? クラス替えでとびっきりの小悪魔に心を盜まれちゃったのか?」「お前、奈緒ちゃんと一緒になれただけでも運命だってのに、その運命以上に何に惹かれたんだ?」

奈緒に対してのが実の息子へのより半端なく強い僕の実の両親。怒気ってやつを孕む二人の言葉に、一瞬ひるむが僕のこの気持ちは噓じゃない。それを証明したくて僕も意地になり想い人の名を告げる。

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