《初めての錯する心28

スカイタウン水族館。桜ノ宮市が誇るランドマークタワー――スカイタワーのおひざ元に建設された水族館がそれである。関東平野の側に位置した桜ノ宮市には、川が流れておらず海からも遠い。そのため桜ノ宮市の都市開発計畫が持ち上がった際に、シンボルとなるスカイタワーと抱き合わせるように手掛けられたのが同施設である。

東京ドームほどの敷地面積に世界五大大陸およびその周辺海域に棲む淡水魚、海水魚を一堂に集めて無料開放している豪膽な水族館である。スカイタワーの集客率が群を抜いて他の施設に比べて高いのはひとえにこの水族館の存在が大きい。陸で育った子供達にとっては、海や魚と手軽にれ合えるのはここしかない。

僕も小學校の頃に遠足で一度訪れている。施設の大きさと館の海をモチーフにした裝や展示心を擽られた。その時の友だちに、切り以外で魚を見たのは初めてだと言っている子もいて、尚更ここの子供への影響力は大きい。

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「す、すごい……きれ~」

春香も春香で思うことがあるようで、館って一番最初にたどり著く大水槽の前で、イワシの群れが織りなす銀のカーテンに心を惹かれている。

「あ、サメもいる! 食べられたりしないの?」「しっかり餌もらってるから、めったなことでは襲わないよ」「へ~そうなんだ」

近くの子小學生と同じように興味津々な視線を水槽に注ぐ春香。とても楽しそうで何よりだ。春香はその容姿と雰囲気から、水族館が苦手そうに見えたからし怖かった。なんとなく生臭いし深海魚は不気味だし得の知れない海洋生なんてっちょっと……って思ってたらどうしよう。

なんてのは危懼であった。春香は自分から順路に沿って大小様々な大きさの水槽の中で、俊敏にき回るカラフルな魚、のそっと砂の中で寢ているを鑑賞しては僕の肘周辺を引っ張って「ねえねえ、これはなに? なんでこんなに眠そうなんだろ?」ってはしゃいでいる。そのすべての言が新鮮で、僕も春香が興味を抱きそうな魚がいれば先にパンフレットを開きその魚の生態をチェックした。一応、水槽にはそこに展示されている魚たちの紹介表がってあり二人で顔を並べて読んだりもしている。

「もしかして、來るの初めて?」「うん、実は生まれて初めて水族館に來たんだ」「え、そうなの?」

某アニメーション映畫の主人公にもなったカクレクマノミに、本日一番の聲を発し攜帯で寫真を撮りまくる春香。僕の質問に首を縦に振り照れくさそうに微笑む。

「あの、なんていうのかな……」

言葉を選んでいるのか、二の句が続かない春香。視線の先にカクレクマノミの親友である青いのも出てきてパアって表を明るくして言葉を紡いだ。

「お父さん忙しくて、あまり遊びに出かけたことないんだ」「そっか、お父さんは何してる人なの?」「木村コーポレーションの営業部長なんだって。良く分からないけど……」「マジで? あの大企業の?」――、あまりに驚愕し過ぎてがバウンドしてしまう。

僕が恐れおののくのも無理はない。木村コーポレーションと言えばここ桜ノ宮市にはなくてはならない存在である。そう言うのも、そもそもこの街の都市開発計畫を提案したのは木村コーポレーションなのだから。

前々から開発計畫の構想はあったもの費用の捻出に苦労していた當時の市長がGOサインを出したのも、その開発に大きな財力を同社が投資したことが大きい。むしろほとんどを出したと言っても過言ではないとか。しかも、現在も數多の開発に協力しているモンスター企業なのだから、毎年業績はウナギ昇りであり就職難であえぐ現代社會人には雲の上の存在だ。

ここだってその木村コーポレーションの子會社が運営しているのだから、春香のお父さんが務める日本屈指の大企業――木村コーポレーションは一介のサラリーマンたちの憧れの的である。うちの父親なんかは、木村財閥と呼んで恐れているくらいだ。昔の金を彷彿させるとかなんとかで。

なんて、大の大人達から尊敬と畏怖の抱かれる企業に近な子のお父さんが就職しているなんて聞いたら僕は驚くのだが、春香はそれ以上答えることはなかった。むしろ、僕の大げさな反応のせいで暗い表になってしまった。

そういえば、春香は家族の話を滅多にしない。父親の弁當を作ることがあるとは言っていたがもしかしたら、お父さんが忙しいのを快く思っていないのかもしれない。確かに、世界に進出している企業の社員であるなら、家を留守にすることも多く家族とのスキンシップが取れていないのも想像つく。ましてや、相手が年頃の娘となると尚更確執が生まれてしまうのかも。

ここは、あえてれないのが思いやりってやつだろう。

僕はそう思い春香を、実は意外とに人気であるクラゲの展示スペースまで導して気を紛らす方向へ導いた。

「こうやってみるとクラゲもきれいだよね」「すご~い、星空みたい」

クラゲの中にはるやつもいて春香はそれを見て星座に似ていると微笑んだ。しは元気になってくれたようだ。これからは、家族の話は控えようと心のメモ帳に記す。拓哉がそう言った気配りもには重要だと言っていた。

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