《初めての錯する心31

「メイちゃん、今度はしっかりママの手を握ってはぐれない様にしなきゃメっだよ?」「うん! 分かった!」「本當にありがとうございます」

最後まで謝りっぱなしの母親としっかり手を繋いでペンギンコーナーへと歩いていくの子。満面の笑みを咲かせてまだ春香に手を振っている。転びそうになると脇に控えていた父親に支えられて、懲りずにまた手を振っている。本當に楽しかったのだろう。子供は正直者なのだから、結局曲がり角を過ぎるまでの子は春香に手を振り続けた。

「すごいな春香は。あんな特技があるとは知らなかった」「意外かな?」

いんや、そんなことはない。僕には保育士として園児たちと遊ぶ春香の姿を容易に想像することが出來る。ここは首を橫に大きく振って不安げな表をする春香を元気付けよう。

「良かった。実は、不安だったんだ」「どうして?」「私の將來の夢は保育士になることなんだ。だから、これで泣き止まなかったら才能ないのかなって」

初めて明かされる春香の夢。実に似合っている將來の夢である。

僕の表を察してか、春香が微笑む。

「どうしてなりたいの? 保育士に」「ん~、気になる?」

名殘惜しそうにこの場を去っていく他の子供達に手を振りながら、春香がし聲を伏せた。

「そりゃさ、気になるよやっぱり」「じゃあ、しここに座って話そうよ」

親子連れが子供の給水を終えて席を立つのを見計らって春香が二連の椅子に腰を下ろす。館のGBMは湖畔を優雅に漂う船をイメージさせるような穏やかなものである。ふいに、どこか懐かしいようなが沸き上がる。確か、このBGMは――。

「保育園の頃って思い出せないんだよね?」「ないっていうか、忘れちゃったかな」「そっか」

短く相槌を打ち春香が一呼吸おいてから僕の目を見て口を開いた。

「私、小さいころずっとが弱くてお家にいることが多かったんだ。鬼ごっことか鬼とか、縄跳びだってやったことなかったの」

ぽつりぽつりと大切な思い出を引き出しから取り出すように、春香は優しい聲で昔話をする。決して哀愁は孕んでいない。ただ、何かれれば壊れてしまうモノでも扱うように、言葉を選ぶように僕の目をジッと見て昔話を聞かせてくれているのだ。

「ある日、いつもの様に二階の窓から見える公園の大きなクスノキを、絵本を読みながら何気なくみたら、私と同じくらいの年齢の男の子との子がその木に登ってたんだ」

ちょうど目の前をそのくらいの男の子供が手を繋いでペンギンコーナーへと駆けていく。遅れて「こら、待ちなさい! 走らないの」ってお母さんが聲を掛けている。春香はそれを懐かしそうに見つめている。

「最初は気にもしてなかったんだけど、その二人、私に向かって手を振ってたんだ。私は二人が良くその公園で泥だけになりながら夕方遅くまで遊んでいるのを何度も見てたから、今度は木登りして蟲でも採ってるんだとばかり思ってたからびっくりしちゃって」「男はともかく、の子が木登りか。奈緒みたいな子が他にもいたんだ」「……そうだね」

片方の眉を微させ僕の間抜けな顔に何か付いてるとでも言いたげな表をした春香であったが、瞬きするのと同時に表はいつもの天使の微笑みに変わっていた。

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