《初めての錯する心32

「何してるのって窓を開けて聞いたら男の子がね「一緒に遊ぼうよ!」って無邪気に笑ったんだ。「どうして?」って返したら「いつも気になってた。外で遊びたいんでしょ?」 そういって私の返答待たずに男の子はお猿さんみたいにスルスルと木から降り私ん家に上がってきた」

傍若無人とは子供の特権である。次に春香は思い出した様にフフって笑った。

「一人殘されたの子は怖かったみたいで半べそかいてたけど、もう私の部屋まで來た男の子に「お前なら大丈夫だ、俺の見込んだだからな」って言われて私がみても嬉しそうに笑って同じように木から降りて私の部屋までかけてきたんだ」「なんだか、ほほえましいね」「そうなの、二人はずっと前からお互いが大好きだった。誰よりもお互いを尊重し合って、子供ながらにお互いをしてたんだ」

していた。ドキッとする響きで、僕の心に電気が走る。

「大丈夫?」

何に対してか分からないが、僕は無意識に自分のを右手で摑んでいたのだ。

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「大丈夫、もっと聞かせてよ」

春香の過去、それは僕が知らない世界であり、春香を作り上げた環境そのモノである。春香を語る上では欠かせないストーリー。僕が興味ないわけがない。ランランと瞳を輝かせ春香を見ると、それにこたえる様に春香はクラゲの水槽を見つめて思い出を紐解いていく。

「実は私のお母さんがその子たちの保育園の先生だったみたいで、私の事を聞いた二人が気にかけて毎日様子を見に來てくれてたんだって」「春香ん家のお母さんって保育士さんなんだ? それは、すごく優しくて子供から好かれる先生なんだろうね」「なくとも、その二人は大好きって言ってくれてたよ」「だから、春香も保育士になりたんだ?」

我ながらまことに短絡的な発想であった。周囲の喧噪とそこに咲く笑顔に影響されて、僕は単純にそう思っていた。

「……うん。雅君は將來の夢はある?」

よく聞いていなければ聞き逃してしまいそうになるくらい、春香の聲は小さかった。

「ん~、これと言って今はないかな。拓哉や春香と違い、僕はその場その場のノリで生きてきたようなもんだし、會長の様にギターが弾けるわけでもない。將來に生かせる特技も長所もないよ」

膝を壊しサッカーを辭めてはしまったものの、拓哉にはそれなりの夢があって今まで生きてきた。奈緒だって最近演劇の本を読みだして、そのうち將來は舞臺優になることって宣言してもおかしくない熱のれようだ。

それに比べて僕は、何も持ち得ていない。將來何になりたいか? って質問されても漠然とした答えしか出ない。いや、答えも出ないくらいに將來何になりたいかなんて考えたこともない。

「それは、ちょっと悲しいよ雅君。將來、人生は一度しかないんだよ」

進路調査も近々始まることを福田先生が言っていた。春香がそう呟いたのも同意できる。中學高校一貫の學園に進學したからと言って將來が決まったわけではない。むしろ、エスカレーター式で進級してしまったからこそ、しっかりと自分の未來設計を練らなければ僕な世間から取り殘されるに違いない。學園を卒業したら、僕はいったい何がしたいんだ?

「でも、雅君なら大丈夫だよ。きっととんでもないことをやるに違いない」

椅子から立ち上がった春香はいつもの春香であり、將來母親と同じ保育士を志す僕の初の子だ。ふわりと純白のワンピースが風ではためき、春香の全が今一度僕を前に翻ると僕は自分の目を手で覆った。

分からないが、涙が出てくる。分からないが、嗚咽が止まらない。分からないが、春香を抱きしめたくて仕方がない。

「ど、どうしたの雅君! 大丈夫?」「分からない。でも、大丈夫だよし懐かしいじがするだけだから」「懐かしいって?」

そのままの意味である。春香の過去にれたからかも知れないし、自分の子供の頃を思い返したから懐かしい気持ちになっているんだと思う。溫かい涙が頬を伝い、しょっぱい。

「僕も將來の事しは考えることにするよ」

今は泣いている場合ではない。春香とデートするのが最優先事項である。僕の言に驚いていた春香を連なってお待ちかねのペンギンコーナーへと向かう。

そこで、黃聲を上げてペンギンに駆け寄って無邪気に微笑む春香の橫顔を盜み見て、僕は考えていた。春香の人生を僕も一緒に歩めたら、どれだけ幸せか。周囲に沢山いる家族の様に休日は子供と一緒に観スポットに出かけて一家団欒を味わい笑い合う。そんな未來を春香と築けたらどれだけ幸福な生活を送れるのであろうか。

不埒な想いだと思っている。まだ、告白もしてないのに、將來春香との子供を授かるなんて突拍子もない妄想だと罵られても良い。でも、春香とならそんな家庭を築ける気がするのは、僕の気持ちに偽りがないからだと思うんだ。

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