《初めての錯する心35

が、いつの日か學園において自分の前に起きた不可思議な現象が、明確な悪意を持ってしてまた巻き起こったのだった。

一陣の風が吹き抜けると同時に、白と黒の二が特徴的なゴム毬が僕の手元に飛來し、下品な笑い聲が視界の外から飛び込んできた。それは僕が大事に取って置いたキャラ弁が無殘にも吹き飛び芝生の上に散らばったことを意味しており、春香が悲鳴を上げてを屈めたことが全てを語っていた。

「わりーわりー手元がった」「それを言うなら足元だろ高橋」「あ~あ、せっかくの弁當がこれじゃ臺無しだな」

下品極まりない言葉の襲來に、當然春香は茫然とした。まだ何が起きたのか理解できていないのかもしれないし、彼らがどうして僕達に注視しなくても分かる悪意を向けてくるのか考えているのかも知れない。春香のことだから、どこかで自分が相をしでかしたから男たちが怒っているのだと沈思していることも考えられる。

そんなこと、無意味であると春香に言いたいが僕もどうしていいのかわからず、胡坐をかいた狀態で固まってしまっている。

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「どうした? ほら、可い彼の弁當がこんなんになってるぞ? なにか言う事ないのか?」「おいおい、その言葉はされた側がいうことだろよ」「あ、そうかそうか」

人を見下したような口調で言葉を重ねていく男たち。レジャーシートの縁までダラダラと歩いてきた男たちが拓哉と同じ人種とは到底思えない。こんなにも下劣な男達と拓哉は共に汗を流していたのか? 僕の勘違いじゃないのか?

「お前、真田と最近仲良い菅野ってやつだろ?」「だ、だったらなんだよ」

僕からは見えなかったが、もう一人男がいたらしく三人の間を割ってひと際の大きい男が僕の名前を呼んだ。

「裏切者は絶対に許さない。と、伝えてくれ!」

語尾と同時に男の足が地面を力強く踏みつけ、青々とした芝生が捲れた。そして、その足元にあったのは春香の手作りであるキャラ弁“だった”ものである。

「お、お前! よくも春香の――」

人を毆りたい衝なんて今まで一度もなかった。優男の代表みたいな生き方しかできないと、怒りが頂點に達し男へ拳を振りかざす瞬間まで思っていた。思っていたのだが、僕の拳は男の顔に屆く前に、突然視界の脇から現れた掌によってきを止めった。

「待った! 雅、お前は手を出すな」「拓哉、どうしてここに?」「話はあとだ。奈緒ちゃん、春香ちゃんをお願い」「う、うん」

どうして別行を取っているはずの拓哉と奈緒がここにいるのだ。どうして、僕よりも拓哉が怒りをわにして元チームメイトを睨み付けているんだ。どうして、そんな恐ろしい顔を君がするんだ。

「てめー寺嶋、どういうことだ? 俺のダチになんてことしやがる? ああ?」「おいおい、やめてくれよ、俺は何もしてないだろ? むしろ、毆りかかってこようとしたのはそっちじゃないか? なあ、みんな?」「ああ、たまたまボールがあらぬ方向に飛んでいき運悪く弁當に當たっちまっただけだよ」

せせら笑い肩を竦ませる寺嶋と呼ばれる男とその取り巻き達。あくまでも悲運が重なっただけだと主張している。

「ふざけんじゃねーぞ、てめーらが全國大會に出る強豪校のサッカー部だってこと俺が一番知ってんだ。あの距離で、あの角度で偶然ボールが當たるなんてあり得ないんだよ」「もしかして、元チームメイトを疑ってるのか拓哉? あれだけトップを目指そうと誓い合って辛い練習を共に切り抜けてきた仲間を、お前はどうしても悪役にしたいのか? 七年間の友と、一カ月の友どっちが大事なんだ?」

拓哉が僕を庇う形で四人と対峙していることで、冷靜さを取り戻してきた僕は春香と奈緒を顧みる。不安そうにことのり行きを見守る二人は、いつもより一回りも小さく見えた。

たぶん、怖いんだと思う。僕だって、筋骨隆々の育會系の男たちに喧嘩腰で絡まれて恐怖をじている。が、先頭を切って男たちと対峙する拓哉は、きっともっと苦境に立たされているに違いない。ましてや、相手は過去であっても仲間と呼び合っていた友人なのだから、心中決して穏やかな訳がないのだ。

「そんなつもりはない。けど、どんな理由があるにしろ、謝るのが先だろが! 春香ちゃんがどんな思いでこれを作ったと思ってんだ。どれだけ、この弁當にを注いだと思ってんだ!」「ああ、そうだなそれは言えてるな。すまんすまん」「ま、待てよ! そんな謝り方――」――、園児が保育士に悪戯を叱られてもまだこれよりはましな謝り方をするだろう。僕がその態度を訂正させようとすると拓哉が言葉を被せてきた。「いい加減にしろ寺嶋。お前、そんなやつじゃなかっただろ? あれだけ友達思いのお前がどうしてそんなクソガキみたいな態度するんだよ」「お前が言える事かよ」

芝生に唾を吐き出した寺嶋が拓哉の倉を摑む。

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