《初めての》告白の先に見えたあの日の約束37
「そうだ奈緒、これだけは聞かせてくれ」「なに?」
窓を乗り越え向こうの世界に降り立った奈緒は振り返ることはなかったが、歩は止めてくれた。同時にった風が首元をすり抜け、明日は雨だと悟った。
「保育士が夢だったんじゃないのか? 良いのかこのままで? なんで演劇なんだよ」「人っていい意味でも悪い意味でも変わる生きよ。それに、演じるのって楽しいって思えてきてね最近。ただそれだけ。じゃあ、おやすみ」
すっかり分厚い雨雲が星空を覆い、その重厚なカーテンに遮られて月明りが屆かない闇夜に、奈緒は哀愁だけを殘し溶け込んでしまった。とても前向きな発言とは思えないくらい、奈緒の聲には影があった。
変わることを肯定するならもっと楽しそうにすればいいのだ。新しい夢が出來たから雅も応援してね! 過去は過去、あたしたちは未來を生きるのよ! ってを張ればいい。でも、そうできない理由があるのだろう。
いつも隣にいて當たり前だった奈緒が、とても遠くに行ってしまった気がした。
奈緒のことならなんでも知っている。そう斷言できたはずだ今までなら。そう出來なくなったのは、奈緒が遠くに行ってしまったからだと直した。それを実させられたのは、奈緒が僕の知らないところで知らない誰かと夢を語らっていることを認識したからだ。
演じるのが楽しい。とうとう演劇部に部したのだろう。僕の知らないところで奈緒も変わっている。奈緒の知らないところで僕も春香と親睦を深めているのと同じように、奈緒も別の場所で別の誰かと友を深めているんだ。
それは仕方のないことだ。僕らは結局は他人である。いつまでも一緒にはいられないのだ。興味のある職業も違えば、好意を抱く相手もお互いではない。そんな男がいつまでも一緒に居てお互いの事を理解し合うのは無理がある。
だから、仕方ないことだと決めつけた。約束も無理には思い出そうとしないことにした。今大事なのは春香とどうやってもっと親睦を深めるかであるから。
そうやって僕と奈緒はお互いからしずつ距離を取る様になり、職場験が始まる頃にはあれほど夫婦漫才と冷やかされた僕らのじゃれ合いはなくなってしまったのであった。
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