《初めての》告白の先に見えたあの日の約束90
「雅、やっぱりお前に黙ってるの嫌だから言うわ」
ずっと考えていたのだろう。寢落ちして返事もできなかった僕に対して、はっきりとした口調で朋希は言葉を紡ぐ。
「七月七日の春香の誕生日に、春香と一緒にライブに出てその場で“告白”しようと思う」
が張った様にぼやける脳裏にある単語を聴いて電気が走った。いままでじたこともない悸とめまいが襲ったのは、告白の二文字が聞こえた瞬間だった。聞きたくなかった宣言である。が、それは同時に聴きたかった宣言でもあった。
「どうしてわざわざ僕に言う? 先に告白するかもよ?」
「雅を騙すみたいでいやなんだよ。もちろん、昨日までの俺なら雅に黙って決行していたさ。でもな」
視界が暗くても朋希がこちらを向いているのが分かり、僕も朋希を見つめるために寢返りを打つ。
「俺は雅と正々堂々とぶつかり合って、それでもなお、友達でいたいんだ。ダメか?」
「ダメなもんか。ありがとう、先に言ってくれて」
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「雅は別にいつでも好きな時に告白しろよな。俺に遠慮して、出來なかったなんて言ったらぶっ飛ばすからな?」
本當に毆られそうな気がした。だから、僕は自信なさげな聲で小さく「うん」と返事をした。
「雅がもし、振られるとなると原因はその優しさだ。でも、勘違いするなよ、それは優しさじゃなくて臆病なだけ。から逃げる弱蟲だからだ。でも、それがだめだと雅ならきっとわかる。この曲を好きなお前ならな」
きっと朋希の手にはあのCDが握られている。僕らがするその曲は貞臭くも男なら誰しもが持っている男気で溢れている。それを心ついたころから聴いてきた僕と朋希。きっと朋希は來る日には必ず春香に告白するだろう。
「僕も、頑張るよ」
「おう!」
自信なんてあるわけない。朋希のようにロマンあふれるシチュエーションで告白できる男気なんてないさ。ないけども、僕だって春香のことが好きなことは変わりはない。だから、僕も頑張ろうと思う。
気が付いたらその日は眠っており、次の日二人揃って母親にたたき起こされてお互いのひどい寢ぐせに二人で笑した。あの告白宣言が噓だったかのように、朋希は寢る前と何変わらずお気にりの曲を歌いながら顔を洗っている。でも、明らかにその歌聲には熱意がこもっており、作戦を決行するその日のことを意識していることは僕でも分かった。
「雅、お前も歌え!」
「ええ、僕はいいよ」
「いいから! さあ!」
「もう、分かったよ」
最終日となるその日、僕らがまさか肩を組みながら『貞総ヤング』を歌いながら保育園まで來るとは思わなかった春香は、大粒の涙を流し「やっぱり二人は私の大好きな二人だ」って泣いたのであった。
「最終日にしてようやく三人の気持ちが一つになった。とても素晴らしい一週間じゃったね」
その日も無事に新米先生として園児たちと遊び倒した僕に、梅先生がそう言葉を掛けてくれた。
「ハルコ先生に會えんかったのは殘念じゃが、何かいいことでもあったのかい雅くん?」
「え、まあ、先生のことはもういいですよ。春香の気持ちを考えると、詮索しないほうが今後のためだと思いました。それに、朋希と話せるようになったことが一番の収穫ですし」
「そうかそうか。なおちゃんが心配するほどのことでもなかったの。まあ、私から見ても雅くんと朋希クンは似ているからね。の子の好みも言も、將來も」
「好みはともかく、將來は朋希にはかないませんよ。僕には何の取柄もない」
今ですらギターの演奏を園児たちにせびられて困する朋希とそれと同調するように好きな曲をリクエストする春香を遠めに眺め、僕は梅先生に苦笑いを向けた。
「そうかの、雅くんが気が付いていないだけだと思うけど、自分の可能に?」
「いや、僕なんてのはあの二人のキラキラした姿を客席から攜帯のカメラで撮影して眺めることしかできない人間です」
「良く撮れてるじゃないかい。二人の生き生きとした姿、これを撮れたのは君のセンスだと思うけどね私はね」
先ほど時間を見つけて撮影した畫をもう一度見返す。演奏する二人の距離とか時折零れる笑顔とか、僕が見ていて素敵だと思う瞬間を撮っただけに過ぎない畫を、梅先生はそう評価してくれた。
「ん~そうなんですかね」
「そうじゃよ。この畫を撮っている時、なくとも楽しかったはず。そういった日常の些細な出來事、それに気が付き極めたのがあそこの二人。今からだって遅くない、好きなことをやりなさい」
僕が二人へ抱いていた劣等に気が付いていたのか。侮りがたし梅先生。シワシワに萎んだ顔面を余すところなくふんだんに使い笑う梅先生を見ていたら、僕もなんだかできそうな気がしてきた。
「そっか、僕の好きなってこれなんだ」
スマートフォンのちゃっちいカメラで撮影された畫。そこに映るは眩しいばかりに英気で溢れる若人二人。その姿を記録に殘してこうやって見返すことが出來るのいは、僕がその時咄嗟に“撮影したい”や“二人のこの姿を畫に殘したい”と思ったからか。
この一種の衝が今後の人生にどれだけの影響を與えるかはまた別の話ではあるが、この日のこの畫が僕の人生を大きくかすことになり、このの行方にも大きくかかわることにもなったのであった。
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