《高校で馴染と俺を振った高嶺の花に再會した!》7.北高男子バスケットボール部!
二週間後、バスケ部に正式に部して初日。今日はバスケ部に部して初めての練習日だ。
タツと育館に行くと、どうやら今日も半面コートはバスのようだった。
いつもと同じ様に先に一人で練習している理奈に聲をかける。
「おう理奈、今日も早いな」
理奈はゴールから距離を置いた外側からのシュート練習をしていたが、こちらに気付くとすぐに中斷した。
「あれ、。今日の半面は男バスなのね。それと……」
「こんちわ、香坂さん!」
「あ、タツくん。たまに練習姿見てるけど、初心者とは思えないくらいキレのあるきだよね! 中學何かスポーツやってたの?」
開口して早々の褒め言葉にタツは面食らった様子で「そ、それほどでもあるかもしれない」と口走っている。
「タツは中學の部活で、ハンド──」
俺がそこまで言うと、タツに足を踏み付けられた。
「いって! 何すんだよ!」
思わずタツを睨むと、タツは耳元で「何もしてなかったのに上手いってほうがかっこいいだろ」と呟いて理奈に向き直った。
「そうそう、よく繁華街を練り歩いてて!」
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「え、じゃあ帰宅部!? 噓」
どうやらハンドボールをしていたということを隠したいらしい。
理奈はあまり信じていない様子だったが、とりあえずタツの前では信じるフリをすることに決めたようでその後もタツの會話に合わせていた。
この馴染は、本當に俺以外にはとても優しいやつなのだ。
練習著に著替えると、まだ練習開始の時間まで幾ばくか時間があった。
練習前の自由時間に今日もタツは先輩からステップを教わっている。
ハンドボールと違ってボールを持って二歩までしか歩けないバスケに最初タツは苦戦していたが、先輩とのトレーニングのおかげでその癖をほとんど克服しつつあった。
誰にでも積極的に教えにもらいにいくタツは、これまでの仮部期間ですっかり先輩たちと打ち解けていた。
そんなタツの様子を橫目に見ながら、俺もウォーミングアップがてらシュート練習を始める。
ゴール付近のシュートから徐々に距離をばしていき、スリーポイントラインまで下がっていく。仮部の期間中今日の今日まで1on1を想定したゴール付近のシュートやレイアップシュートしか練習してなかったが、今は何となく外からシュートを撃ちたい気分だった。
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スリーポイントエリアまで下がると、軽くボールを突く。跳ね返ったボールが手に吸い込まれると同時に膝を軽く曲げる。下半のバネを上半にいかに上手く連させることができるかが、遠くからシュートを撃つ時のコツだ。
ボールを頭の上に掲げ、左手をボールに添え、跳ぶ。バックスピンを加えて高い弧を描いたボールは、そのままリングに吸い込まれて──。
   しかし、ボールはガァン! という音と共にリングから跳ね返った。
「ありゃ」
シュートが外れたのを確認すると、思わず首を傾げた。
バックスピンのかかり合は完璧だったはずだが、やはりブランクで鈍っているらしい。
アウトサイドからのシュートはブランクが如実に表れやすいことに加え、俺自も遠くからのシュートは得意というわけではなかった。
調整しなきゃな、とボールを拾って再び3ポイントシュートを撃つも、またもリングに阻まれてバウンドする。
軽く息を吐いて先ほどより遠くに跳ね返ったボールの方向を向くと、藍田がこちらに歩いてくるのが見えた。手には既にボールがある。
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「はい」
「ありがと」
手渡ししてくれたボールをけ取ると、藍田の服裝がいつもと違うことに気付いた。
「今日は育のジャージじゃないんだ?」
「うん、私も今日から男バスの正式なマネージャーだから。新しく買ったジャージなんだけど、似合うかな?」
學年カラーの育ジャージでも藍田は抜群に綺麗だったが、こうして眺めるとやはり市販のジャージのほうがずっと綺麗にじる。
しだけ元を開けて、軽く腕を捲っている姿は男子生徒殺しと言ってもいいだろう。
「似合う似合う」
「あ、なんか適當」
「いや、そんなことないぞ。ほんとだって」
しジト目になった藍田に焦り、慌てて否定すると藍田はクスクスと笑った。
「冗談だよ」
「なんだよ、びっくりした」
「ごめんごめん。それでね、話し変わるけど桐生くん。さっきスリー外してたけど、なんで外れたか分かってないでしょ」
いきなり図星を突いてくる藍田に驚く。今のシュート練習をずっと見ていたという部分も意外だった。
「うん、見てたよ」
「え!?」
たじろぐ俺を楽しそうに見ながら、「顔に出てたよ」と頬に指を當てる。俺ってそんなに顔に出やすいタイプではないと思うのだが。
「それでね。何で外れたかだけど、しの重心がズレてたよ。軸足がきっちりリングに向いてなかったから、ボールの軌道が若干逸れたんだと思う」
流れるようにアドバイスしてくれる藍田に思わず目を見張る。
「すげえなおまえ、結構遠くからだったのにそこまで見えてたのか」
「これでも三年間マネージャーやってたんだよ? 相手チームのビデオとか研究してたし、桐生くんのプレーは何回見たかも覚えてないくらい」
「え、俺ってそんなに見られてたの?」
俺の質問に、藍田はしいたずらっぽく笑った。こんな風に笑う藍田はとても珍しい。
「近に対戦する學校の中で、桐生くんが一番上手かったからね。でも結局、桐生くんの學校には毎回負けてたなあ」
藍田がいた男バスとは練習試合を含め、かなりの回數試合をしてきた。
「追いつきそうになった途端に桐生くんがシックスマンで試合に投されたよね。その度にみんなで頭抱えてたんだよ」
「試合の流れを変えるのが俺の役目だったからな」
「桐生くん目立ちたがりだもんね」
藍田は中學時代の會話をまだ覚えていたようだ。
「まあな、自分が楽しくなきゃスポーツなんてできないよ」
「言うと思った。桐生くんのことなら、ある意味なんでも分かっちゃうかも」
そんな藍田の言葉に、思わず頰が緩む。高嶺の花なんて呼ばれて皆んなから憧れの的とされている藍田が、俺をこんなに見てくれているなんて。
藍田は単に同じバスケ部として見てくれているだけなのだろう。
だがかつてと同じ様に話すことができるようになった今となっては、藍田と同じバスケ部で活することはとても楽しみになっていた。
そんなことをじていると主將キャプテンの「集合!」という掛け聲がした。
藍田と軽く走って主將の元へ集合する。前の中學では、主將の掛け聲が聞こえると大きな返事とともにダッシュで集合するという決まりがあったが、北高にはそうした決まりはない。
バスケは好きだが、そういったいかにも運部らしい決め事はあまり好きではなかった俺にとって、このバスケ部はつくづく相が良い。
理奈にわれた時はし乗り気になれない部分もあったが、仮部で練習に參加することでそんな気持ちはどこかへ行っていた。
「はい、注目!」
主將の聲に思考を停止する。主將を中心に部員たちが半円をつくっているこの景は、きっとどの學校でも同じに違いない。
だが今日は主將の橫に、マネージャーである藍田と、先輩と思われる子生徒が立っていた。
藍田とどうしても比べてしまうのが男子のだが、この先輩も抜群にかわいい。
藍田が高嶺の花と例えられるならば、この先輩はさしづめアイドルといったところだろうか。しく見える顔で、長そうな髪を括って団子にしている。
橫にいるタツが先輩から見えないように太ももをバシバシ叩いてくる。
年上という雰囲気も合わさってか、どうやらタツはとても嬉しいご様子だ。
「今日はみんな、バスケ部に部してくれてありがとう! 改めて、キャプテンの清水誠太しみずせいたです。これからよろしく!」
清水主將の挨拶に、一年生達は「お願いします!」と軽く頭を下げる。
「それから、仮部には顔出してなかったマネージャー紹介するね」
キャプテンに促されると、の先輩が口を開いた。
「マネージャーの戸松波とまつみなみです! 藍田さんと一緒にみんなのサポートしていくから、今年はいい績殘せるように頑張ろうね!」
ハツラツとした聲に、一年生は「はい!」と先ほどより大きな聲で返した。
「俺への返事より明らかに気合篭ってんなあ! 素直でよろしい!」
アッハッハと軽快に笑うキャプテンに、「うちじゃキャプテンよりマネージャーのほうが権力持ってるからなあ」と茶々がる。
「だよなあ」とニヤニヤしながら同意する先輩たちに、戸松先輩はパンパンと手を鳴らした。
途端に先輩方が口を噤んだのを見て、キャプテンよりよっぽど統率力があるじゃないかと思ってしまった。
「はいはい、雑談は後でね! 主將、とりあえず私たちの目標言わないと!」
戸松先輩の指摘に、清水主將は「おっとしまった」と指を鳴らす。 
「それでは目標をば。うちはバスと違って、まだ地區大會で三回戦までしか進んだことないけど、今年はマネージャーの力も借りて準決くらいまで行けたらなと思ってる! 目指せベスト4、イエーー!」 
勢い任せに腕を掲げる主將に、先輩達も「イエーー!」と歓聲を上げる。一年生もそれに倣い、遠慮がちに腕を掲げた。
橫にいるタツだけは先輩達に負けないくらいの歓聲を上げている。
腕を掲げながら疑問に思った。なぜ目標が地區大會一位ではなく、ベスト4なのだろうかと。
そこの説明もされるのだろうかと戸松先輩を見ると、目が合った。そしてパチンとウインクをされた。
後輩でも初対面なことには変わりないのに、躊躇いもなくウインクをするなんて本當にこの人はアイドルなのではなかろうか。
再び戸松先輩は手を叩くと部員達を黙らせる。
「なんでベスト4なのかというのを説明するとね、まず北高の部活って基本的に引退は二年の冬ってことから話は始まるんだけど」
「え、冬なの?」
思わず出てしまった俺の言葉に、部員全員の目線が集まる。
思ったことがそのまま口に出てしまう癖がまさか部初日で出ようとは。しかも初対面の戸松先輩にいきなりタメ口だ。
しかし戸松先輩は「そうなの!」とニッコリ笑って続けた。このバスケ部の先輩は心が広い。 
「理由は早い時期から験勉強に集中するため。でも、どうもうちの部員は二年で引退したくないらしくてね」
ということは、今ここにいる先輩方は全員二年生で、三年生達は既に引退した後だということか。
だが北高がその方針を取っているのに、二年で引退しないなどということは葉うのだろうか?
「北高は冬の地區大會までにベスト4以上に上がると、次の大會まで引退が先延ばしさせることになってるの。だから、私たちの目標は目指せ冬の大會までにベスト4進出! みんなでできるだけ長くバスケをしたいから、レギュラーは完全に実力主義。一年生の闘に期待します!」
戸松先輩の激勵に、今度は一年生も先輩に負けずに盛り上がった。
なるほど、だからベスト4。つまり目標は、大會を勝ち進んでベスト4にって今のチームでできるだけバスケを続けること。
目標としては単純明快、だからこそやる気が出る。
チーム力は今のところかなり難ありだと見るこのバスケ部だが、このチームで目標に向かっていくのは隨分とワクワクさせられた。
戸松先輩の橫で主將がニヤニヤとしている。
「それ考えて覚えるのに何日かかったの?」
「え?   二週か……って違う! みんな、違うからね!」
慌てて否定する先輩だが、その慌てぶりは本當のことだと語っているようなものだ。
つまり戸松先輩が仮部の間部活に顔を見せなかったのは、今の激勵を覚えていたからか。
些か時間がかかりすぎな気もするが、なくとも一年生のやる気は出たのだからその価値はあっただろう。
「でも、今年はほんとに狙えると思うの。さっき藍田さんと話してたんだけど、藍田さんってアイシングはもちろん、選手の癖とか見抜くの得意なんだって。味方の選手にはアドバイス、敵の選手の弱點を偵察! なんてこともできるらしくて、とにかく私は藍田さんからいっぱい學ばなくっちゃ!」
興気味に語る戸松先輩に、藍田は謙遜する。
「とんでもないです、マネージャーで大切なのは神面のケアも大きいですから。私も戸松先輩みたく、皆と仲良くなれるように頑張ります」
「うわあ、嬉しいこと言ってくれる!」
戸松先輩はとても嬉しかったようだ。男子にだけではなく、の先輩のハートをも撃ち抜いた様子。
「よしよし、話が纏まったところで!」
すると主將が再び注目を集めた。顔には先ほどのニヤニヤがまだ張り付いていた。何となく嫌な予がする。
   今朝、藍田から言われたことを思い出した。
「じゃあとりあえず、今からバスと練習試合しますか!」
ここにいる一年生全員が、耳を疑ったに違いない。
 
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