《高校で馴染と俺を振った高嶺の花に再會した!》17.選択

「つ、付き合うって……本気か!?」

あれほど數々の男子に告白されてきた藍田が。

あれほど數々の男子を振ってきた藍田が。

俺と、付き合う?

あの日、屋上で振られてからもそういったことを考えなかったわけではない。

振られて一週間、一ヶ月はむしろ告白する前より藍田のことを考える時間は多かった。

男として、この藍田の甘言が嬉しいのは本來なら當たり前のはずなのだ。だけど。

「……どういうつもりで言ってるんだ?」

今は、今だけは。 

藍田のことが、信用できない。

ぐらつく心を何とか踏み止ませる。

「どういうつもりって、それを私に言わせるの? いじわるだなあ」

「なんで好きでもないやつと付き合いたいんだって話だよ」

し強めの口調で言う。

藍田にこんな口調を使うのは初めてだった。

無いかもしれない。

明日になったら猛烈に後悔するのかもしれない。

いくら今までと違う格が見えたとしても、藍田がみんなの羨の対象であることには変わりないのだ。

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例え彼が自分のことが好きでなくても、ただ隣にいるだけで幸せをじる、そんな存在だろうに。

だが今日の俺はどうやらそんな関係をまないようだった。

藍田のことは好きだ。

だけどそれが憧れとしてなのか、としてなのか、それとも人としてなのか。

中に渦巻くこの想いを、ハッキリと浮かばせることはできない。

そして今、ますます藍田に対してのが解らなくなった。

「俺は、ちゃんと相手と人になりたいって気持ちを持ってないと付き合うのは嫌だ。だからまだ付き合えない」

古臭いと笑うだろうか。今時なにを、と思うだろうか。

でも仕方ないではないか。俺の中の何かが、この狀態で付き合うことを良しとしないのだから。

藍田は俺の言うことを意外なものを見るような目をしている。 

「私、今の初めての告白だったんだけどな」

「え?」

「殘念。こうした形で付き合うのが、桐生くんを傷つけない方法だったんだけど」

「……どういうことだ?」

瞬間、藍田が俺の後頭部に手をかけ、引き寄せた。

視界の先には藍田の濡れたが──

「……あら、躱されちゃった」

間一髪。

顔を逸らし、何とか回避した。

「な、なんのつもりだよ……!」

「分からない?」

今度は俺の顔を離すまいと、両手で頭を抑えつけられる。

側から見れば抱き合っているような勢だ。

「私、告白したわけじゃないのよ」

「い、今さっき告白って言ってだろうが!」

「これは決定よ。桐生くんは今から私と付き合うの」

「は……!?」

意味が分からない。

どんな暴論でそんな帰結に至るんだ。

「私、裏を見られた以上やっぱりタダでは帰したくないの。他の人に対してなら、世間をいじることも考えるけど」

さらりととんでもないこと発言をする藍田に仰天する。

先ほど本人も言っていた、私は私という言葉。

違う。その言葉が本當なら藍田は、なくとも人を傷つけることをするような人間じゃないはずだ。

「世間をいじるって、そんなことできるわけ……!」

「私がしようと思えば、できるよ」

藍田の細められた目が妖しくる。

──その瞳で察してしまった。

藍田は元々こ・う・なのだ。

人を傷付けるような人間じゃないという俺の認識は、本當の藍田に対してはなんの保証にもなり得ないということ。

そして藍田は"高嶺の花"だ。そんなあだ名がつく程羨の対象となった藍田のスクールカーストは、確かに俺より遙かに上。

藍田が右を向けと言えば右。左を向けと言えば左に向くような現金なやつがなからずいることから、今の藍田の発言は軽んじることができない。

藍田なら本當に、俺の世間を軽くいじることなど造作もない。

……タツみたいなやつがどうなるか、しだけ気になった。 

あいつは、もしそんなことになったらどちらの味方をするんだろうか。

普段おちゃらけているあいつだが、こういう時は俺のことを信じてくれるんじゃないか。

藤堂や、バスケ部の先輩たちだって。

的観測だろうか。

だが仮に皆んなが味方をしてくれたとしても、俺が劣勢になるのは火を見るより明らかだ。

俺だけに迷がかかるのならまだいい。

その結果に理奈や、他の人に迷がかかるんじゃないか。

そんなことを危懼させるほど、今の藍田からは危険な匂いがする。

「まあそのことも理由の一つなんだけど」

それだけじゃないのよ、と藍田は続ける。

「桐生くんのことはこれでもかなり好きなの。だから付き合いたい。これは私の素直な気持ちよ」

「気持ちは……嬉しいけど」

面と向かって好きだと言われたことは、今までほとんどなかった。

思わず再び機が速くなるが、今度はそんな自分にし腹が立った。

この言葉が本心から來るものなのか、俺には計り知れない。

今の狀況から楽観的思考に浸るほど、俺は馬鹿になりたくなかった。

「私、格はし悪いのよ」

「……そうかもしれないって、今思ってたよ」

「あはは、そっか」

藍田はおかしそうに笑う。

笑い方自に変化はほとんど見けられない。

だがその底にあるものは、いつものそれと全く違う。

「でもね桐生くん、人ってそんなものよ?」

「そんなものって」

「みんな、腹の中ではなにを考えてるか分からない。桐生くんが持っていた私へのイメージが、あまりにも現実とかけ離れたってだけ。私は最初からこうなの。変わったわけじゃないわ」

……そりゃあ人間だ。表に出しているのが全てないことなど當然だと思っているし、裏があるだけで格を悪いと宣うほど俺は子供じゃない。

だが藍田は今その裏を開き直ったように曝け出していて、そしてそれは他人を傷付ける類のものかもしれない。

それならば隠すべきだし、隠そうともしないこの狀況を鑑みるに格が良くないことは明白だ。

なくとも俺にはそう思える。

俺が二人の間に出て行ったあの時なら、まだ誤魔化せたはずなのだ。

そうもせずに俺に裏の自分を見せるなんて、藍田は俺を見た瞬間に決めたのかもしれない。

裏の自分を知った俺を黙らせるには、付き合うという選択が最良で、それを実行することを。

その選択がどの様な意図によって導き出されたものなのかは分からない。

藍田の言う通り、人は腹の中まで見ることはできないから推測しかできない。

だが、こんな告白のやり方が卑怯だということだけは間違いなかった。

「俺は藍田が……嫌いだよ」

「そう、それは殘念。早く好きになってもらえるように努力するわ」

気持ちで繋がってないこの関係に、甘い言葉はあまりにも似合わなかった。

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