《高校で馴染と俺を振った高嶺の花に再會した!》19.あの時、何を
中學三年の春、俺は"高嶺の花"と呼ばれる藍田とメアド換して以來、かなりの頻度でメールのやり取りをしていた。
特に何かの大會で會場が一緒になった日は二人で會える時間と場所を決めたりと、側から見たら何とも羨ましいであろう関係に俺は心にやにやが止まらなかった。
「ちょっと桐生、今から試合なのにまた攜帯かよ」
「ん? あぁ、悪い」
「また例の子か? ったく、ちょっとバスケが上手かったら俺も子にモテるようになるのかね」
そうボヤくチームメイトに、思わずほくそ笑む。
その頃の俺は、平たく言うと格が悪かった。
地元では強豪と呼ばれるバスケ部の中で一番上手い自信があったし、事実そうだった。バスケが上手いと部である程度発言力は上がると思っていたし、実際何を言っても、何をしてもある程度は皆んなが頷いてくれる環境だった。
そんな環境が俺をますます調子に乗らせて、あの頃に理奈と會っていたら怒られていたに違いない。
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ラインのやり取りだけでは、さすがの理奈も俺の変化気付いていないようだった。
そんな頃と比べて今の格も良いとは言えないかもしれないが、なくともマシになっているだろう。
「まあ、またシックスマン頼むよ。次の相手は油斷できないしな」
「まだ地區予選だろ? 無雙しようぜ、無雙」
「そう言うならスタメンで出てくれって。俺らも別に毎度スリリングな試合がしたいわけじゃないのよ」
「シックスマンのほうがカッコいいじゃん」
「はいはい、またそれか」
バスケは楽しかったが、それも周りの歓聲があってこそ。緩いスピードから、一瞬でギアを上げるチェンジオブペース。
大抵のディフェンスはそれだけで抜き去ることができたし、レイアップ程度はバランスを崩されない限り全て決められた。
當時流行っていた漫畫にも憧れて、熱よりクールに振る舞うほうがカッコいいと思い、點を決めた後はいつもほとんどリアクションをしなかった。
他人からの目線が気持ちよくて、その為に試合に出てたと言われても、否定できないかもしれない。
バスケの上手さをステータスとしていた俺は、藍田と仲が良い理由もそれだと思っていた。
だから藍田のチームメイトより仲が良いのは當然だと思って、時間が経つにつれて會場が同じになると積極的に話しかけるようになった。 
「なあなあ、今度2人で遊ぼうよ」
「え?」
ついに藍田を遊びにった時、彼にしだけ戸いのが浮かんだのを覚えている。
「會場で會ったり、ラインするだけじゃ話し切れないし。もっと仲良くなりたいし。友達として
」
俺がそう言うと藍田は思案した様子を見せたが、やがて頷いた。
「私も、々話したいことあるし」
やや複雑そうな表を浮かべる藍田に、俺は何かを勘違いしてが踴った。
「ね、桐生くんってどんなの子が好きなの?」
遊びの當日、休憩に公園へ寄った俺は藍田からそんな質問をされていた。
「え、なんで?」
「うーん。興味あったから」
「そっか。……んー。俺、格良いの子好きかな。悪い人は嫌だ」
當たり障りのないであろうその言葉を発すると、藍田はのない聲で「ふーん」とだけ言う。
「だって、普通格悪い人なんて好きになれないだろ?」
「そうなんだ。桐生くんの思う格の悪さってなに?」
「それは……」
咄嗟の質問に言いあぐねると、藍田は「例えば」と指を自のに當てる。
「人の悪口を言ったり?」
「それもそうだな」
「人を陥れようとしたり」
「ああ、うん」
「ちょっと、裏があったり?」
「それもだな」
そこまで答えると、俺は笑って藍田に向き直った。
「とりあえず藍田はすごい格いいだろ。ていうか、案外子ってみんな格良いよな」
「夢、見てるなあ」
普段とは微妙に違う聲で藍田は呟く。
怪訝に思いながらも、俺は結局話をそのまま続けた。
「そうか? 俺今までそういう人と會ったことないけどな」
「まあ、なかなかいないかもね」
「だな。じゃあ、映畫観に行こうぜ! 藍田ラインで映畫観たいって言ってたろ」
「あ、覚えててくれたんだ。うん、じゃあ観に行こっか」
その後映畫館に向かう途中、俺は思い出したように訊いた。
「そう言えば、々話したいことってなに?」
何気ない問いに、藍田は首を傾げた。
「そんなこと言ったっけ?」
あの時、藍田は何を言おうとしていたんだろうか。
夢か現うつつかも分からない意識の狹間で、俺は想いに耽ふけっていた。
◇◆◇◆
『明日デートに行こうよ』
起きると、藍田からそんな通知が屆いていた。
『學校でちゃんと皆んなに知られたんだから、デートにまで行く必要はないだろ』
そう返信して待つこと十分。未だに返信が來ない攜帯をチラチラ見ながら、俺はため息をついた。
土曜日の朝からの連絡。神的に疲れてしまう。
攜帯はどうにも苦手だった。主にこうしてを返事送った後、相手からの返信を待つ時間が。
相手のラインが屆いて、それを返信せずに置いている間は何も考えないで済むのに。でも藍田相手に無視する度もなく、ラインがきたらすぐ返信してしまう。
椅子に座りくるくると回っていると、攜帯が鳴った。 
「きた」
早くこの會話を終わらせようと畫面に飛びつく。
『十二時に、駅前の時計臺。また明日ね』
なるほど、どうやら先ほどのメールは提案ではなく決定事項だったらしい。
……それなら仕方ない、と自分に言い聞かせる。
『了解』
短くそれだけ返すと、ベッドに飛び込んだ。
「明日、かあ」
明日は珍しく理奈と部活の休みが被ったこともあり、どこかに行こうかと話していたところだった。
まだ決定もしていないあやふやな狀態だったので今斷っても怒ることはないだろうが、やはり申し訳ない気持ちになる。
斷る時は、藍田の名前を出さないほうが賢明だろう。斷る上に余計な心配までかけたくはない。
『悪い、やっぱり週末忙しかったわ! 予定確認してなかった』 
送信されるのを確認すると、攜帯の電源を切る。
藍田と付き合って二日後には、案の定噂は學年中に広まっていた。
普段喋らない人からの質問攻めだけならまだマシだ。なんであいつと、といった類のひそひそ聲は本當に勘弁してほしかった。
俺だって好きで付き合っているわけではないのに。
この二日、藍田と話す時間は今までと比べると明らかに増えた。
だがそのどれもが俺にとっては空虛なもので、かつての高揚はどこかへ行っていた。そんな高揚を覚えるより、目まぐるしい変化について行くので一杯だ。
高嶺の花と憧れていた藍田に裏があって、付き合うことにもなって。どうやら明日はデートらしいし。
攜帯を目にらない所に置いて、俺は再び目を瞑る。
眠る時だけは何も考えなくていい。
薄れゆく意識を、俺は簡単に手離した。
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