《高校で馴染と俺を振った高嶺の花に再會した!》59.桐生介との出逢い〜藍田side2〜
學校で一番の、特別な存在。
私がいるだけで、グループは華やかに。
繰り返すけど、んだわけじゃない。
ただその呼び名がついてから、間違いなく私は香坂さんのスクールカーストを凌駕していた。
異から告白される數がどんどん増えていき、高嶺の花という呼び名は後輩の憧れにもなっていると、部員から聞いた。
告白されるのは面倒だったけれど、その結果だけは私の気分を幾らか高揚させた。
いつも仮面を被っているのだから、それくらいの結果はあってもいいだろう。
香坂さんとの數ない共通點の一つは、バスケが好きだということ。
バスケは本當に好きだった。
小學生の頃、テレビでインターハイ決勝のクロスゲームに夢中になってから、ずっと選手に憧れていた。
私も殘り數秒の場面で、一か八かのシュートを撃ってみたい。
でもあんなに素早くをかすなんて、私には無理。
だからマネージャーとしてバスケに関わっていた。
幸い人を観察する能力が人並み以上にあった私は、早いからマネージャーとしての仕事を板につけることができた。
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部員にも謝されることも多くて、やり甲斐もあった。
「藍田、おかげさまで最近シュートの調子良いんだよね」
「よかった。長谷川君で試合が決まる時もあるし、二回戦も頼みました」
「はは、任せとけって」
地區大會二回戦を控えた中學二年の夏。
長谷川君はシックスマンとして躍する、部のエース。私が中學二年になった時の部では、一番上手い。
でも、し足りなさはあった。
インターハイでしか見れないようなキレのあるき。あれを、間近で見てみたい。あわよくば、私が関わるバスケ部の中で。
「そういやさ、知ってる? バス、全國に出るらしいよ」
「そうなんだ、凄いね」
バスの練習風景は、隣のコートに視線を移せばすぐにでも視界にってくる。
そこには私の求めていたハイレベルな練習風景が広がっていて、中でも一番目立っているのが香坂さんだという事実に私の中は暗くなった。
私が早々に諦めて捨てていた、全國レベルの選手になる夢。それを現しているのが、また香坂さんだなんて。
「香坂さん、可いよなー。フレンドリーだし、バスケもすげーってまさに超人」
返事をしない私に、長谷川君は何を思ったのか「可さは高嶺の花が一位か」とフォローをしてきた。
私、今どんな顔をしていたんだろう。
そう思いながら、「なにそれー」と微笑んだ。
私の笑みに長谷川君は安心したような様子を見せる。その笑みすら噓だったのだけど、一瞬私の仮面は剝がれかけたのかもしれない。
今までそんなことは無かったのに。
すると、何の偶然かボールが私の元へと転がってきた。ボールの主は、話に出ていたばかりの香坂さん。
ボールを拾ってあげると、「ごめん、ありがと!」とし笑った。
「次の高野中も、俺が倒してやるよ」
長谷川君の自信に溢れた言葉に、コートへ戻りかけていた香坂さんの足が止まる。
「そうなんだ。男バス、次は高野中なんだね」
珍しく、香坂さんが長谷川君に話しかけた。
「ああ、まあな。以前は全中にも出てたみたいだけど、最近は県大會止まりの落ちぶれた強豪だからな。今の俺なら、割といけるかもしれないぜ」
去年の高野中は県大會すら逃しかけたらしく、長した私たちなら勝機はあると踏んでいた。
気になるのは、桐生と呼ばれるシックスマン。
スカウティングビデオではししかプレーを確認することができなかったけれど、あの選手だけ明らかに別格だった。
學年は分からないが、その人だけが要注意。その人さえ抑えれば、勝機は十分にある。
ミーティングでその考えもチームで共有していたので、私は長谷川君に賛同して頷く。
すると香坂さんは何故だか嬉しそうな表を浮かべて、口を開けた。
「気を付けてね、その中學にいる私の馴染、すごい強いから」
長谷川君は冗談だと思ったらしく、「おうよ!」と笑い飛ばす。
上機嫌でコートへ駆ける香坂さんから、私は早々に背を向けた。 
あの桐生と呼ばれるシックスマンと香坂さんの関係が、分かった気がした。
◇◆
そのプレーを目の當たりにした瞬間、腹の底から頭まで電撃が走ったような覚に陥った。
これが県大會レベルだなんて、とてもじゃないが信じられない。きっと、もっと上だ。
長谷川君の1on1が全く通じていない。
まるでボールが相手の背番號9に意思を持って吸い込まれていくように、どんどん集まっていく。
自在にられるボールに翻弄され、餅をつく長谷川君。
橫っ飛びでカバーディフェンスのマークを外してシュートを撃つ姿に、私は初めて相手チームの分析を放棄した。
「すごい……」
純粋に、そう思ってしまった。小學生の頃へ戻ったみたいに、必死に9番を目で追う。
あれが高野中のシックスマン。
そして、この人が香坂さんの馴染。
點差がみるみる拡がっていく。
先程までは何とか15點差で喰らい付いていたのだが、この數分間であっという間に30點差だ。
遅すぎるタイムアウトを取ると、長谷川君が険しい顔で真っ先に戻ってきた。
「だめだ、調子悪い。代するわ」
あのシックスマンとのマッチアップで何もできずに、すっかり嫌気が差したのだろう。代したいという要を告げると、返事も聞かずに長谷川君は控えベンチへと歩いて行った。
「……なにそれ」
プライドが傷付くのは分かる。それでも、せめて試合中くらいは耐えてほしい。
負けるから引き下がるなんて、ダサい。
あの人なら、きっと同じ場面でもそんなことは言わないと思う。
……そう思うだけで、私はあの人のことを何も知らない。
あの人のことを、知りたい。
その試合は、結局ダブルスコアで敗退した。
試合後の片付けは、試合に勝ったチームが行う。
観客が退場し、閑散としてきた會場を見渡すと、その人はすぐに見つかった。
あの人の元へ近付くと、私はわざと手に持っていたボード落とす。
話すきっかけが、しかった。
「ボード落としましたよ」
疲労した様子で、ボードを手に渡される。
お禮を言った後、私は続けざまに口を開けた。
「桐生くんですか?」
私は人生で初めて、能的に知らない異へと聲を掛けた。
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