《99回告白したけどダメでした》26話
「沙耶香! 早まらない……で?」
「え?」
扉を開けたのは、料理部の志保だった。
後ろには料理部の面々もおり、今にも飛び掛かりそうな勢いで教室をのぞいていた。
そんな料理部の面々が目にしたのは、想像の斜め上を行った狀況だった。
「コ、コレ……は!」
沙耶香の上に覆いかぶさり、うろたえながら何かを言おうとする誠実。
目を閉じ、どこかうっとりした表で寢転がる沙耶香。
その狀況に、料理部の面々は全員一度フリーズする。
一番初めに正気を取り戻したのは志保だった。
「全員、集合」
靜かに部員にそういうと、何やら円陣を組み、コソコソ話をし始める部員一同。
誠実はどうしたら良いかわからず、そのままの姿勢で志保たちの反応を待つ。
沙耶香はなぜか、うっとりした表のままかない。
「し、志保! 大変よ! 合意のうえでだったわよ!!」
「い、いや…でも、私らまだ高1だし……止めるべきなんじゃ……」
「で、でも最近は中學生でもそういう事をするって……」
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「え! 本當?! 最近の若い子はすごいわねぇ~」
「私らも若いわよ……」
誠実に聞こえないよう、ひそひそと相談をする料理部の面々。
沙耶香が既事実を作るために、何かやらかしてしまうのではないかと思い、こうして見守っていたわけなのだが……。
「だって、まさかヤル寸前だったなんて想像できる??」
「そ、それはそうだけど……でも、合意なら……あとは本人達の問題じゃない?」
「「「「確かに……」」」」
「じゃあ、決定で」
「「「「はい」」」」」
何かを決め、料理部の面々は円陣を崩し、ドアの前で一列に並ぶ。
誠実は、なんなのだろう? そう思いながら、料理部の面々の様子を見守っていると、全員がなぜか親指を立て、グットポーズをする。
「……え? な、なに??」
「じゃあ、あとはごゆっくり」
「部長……あとで想聞かせて下さい」
「見張りは任せて!」
料理部の面々はそれぞれ一言ずつ言い殘すと、靜かに空き教室を出ていく。
そして、再び沙耶香と誠実の二人きりになり、誠実は先ほどのグットポーズの意味を理解し、大聲でぶ。
「いや、誤解だからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
このままでは、自分と沙耶香のあらぬ噂が流れてしまう。
誠実はそう思い、料理部の面々を追っていこうとする。
しかし、そんな誠実のにしがみついて離れない、人間が一人、教室に殘っていた。
「……どこ、行くの? まだ返事聞いてない……」
「ぶ、部長! 落ち著いて!! まずは料理部の方々に事を説明しないと……」
「……やっぱり、私は部長なんだ……」
「え?」
先ほどまでのするような、小悪魔のようなじから一転し、沙耶香の表は暗い。
「ど、どうかした?」
「伊敷君……私は別に勘違いされても良いよ……」
「そ、そういう訳には行かないだろ? 部長は料理部の……」
「沙耶香……」
「え?」
「沙耶香って呼んで……じゃないと……」
沙耶香はそういうと、誠実との顔の距離を一気に詰め、正面から抱きしめる。
本當は恥ずかしいらしく、頬がわずかに赤いのが誠実には良くわかり、が震えているのにも誠実は気が付いていた。
「キス……しちゃうよ?」
「ぶ…ぶちょ……」
「沙耶香」
「あ、えっと……沙耶香……さん……」
「沙・耶・香!」
「は、はい! 沙耶香!」
「ん……じゃあ、ご褒……」
「はい……ってちょっと待てぇぇ!」
「むぐ……うーうー!」
沙耶香はご褒、といった瞬間、もともと近かった誠実との顔の距離をさらにめ、キスをしようとしてきた。
流れに流され、キスをしてしまう一歩手前だったが、誠実は気が付き、沙耶香の口を手で塞ぐ。
「はぁ……危なかった~」
「……私とは……やっぱり嫌だよね?」
未遂に終わり、沙耶香は誠実から離れてそういう。
悲し気な表の沙耶香に誠実は言う。
「沙耶香……何焦ってるんだ?」
「………誰かさんが、私の気持ちに気が付かないで、他のの子の話ばっかりしてたからです~」
「う……ご、ごめん……」
それを言われると弱い誠実。
うろたえる誠実に、沙耶香はクスクスと笑いながら「冗談だよ」という。
次第に落ち著きを取り戻しつつある沙耶香は、誠実の方を向いて、真剣に話す。
「焦っちゃうよ……やっとライバルがいなくなったと思ったら、今度はあんな綺麗な先輩と可い妹さんが出てきちゃうんだもん……」
誠実はどういう意味か分からなかった。
確かに、誠実の知り合いにはそれに該當する人は居る。
しかし、それとこの告白がどう関係して居るのかが、誠実には分からなかった。
「えっと……もしかして、それって蓬清先輩と奈穂の事?」
「うん……私より可いし……なんか仲良いし……朝からヤキモチ焼いてたんだから」
「そ、そうなのか……」
正直に言われてしまい、照れる誠実。
要するに、他のの子に自分が取られてしまうのではないかと思って、焦っていた事を知った誠実は、正直嬉しかった。
本當に自分を好きでいてくれていることが、なんだか嬉しかった。
「あ、あの二人は妹とただの先輩だよ。それにさっきも言ったじゃん、これからは、ちゃんと沙耶香の事を考えるって……」
「でも、不安になるよ……なんだか二人とも、私と同じ匂いがするし……」
「あぁ、シャンプーのメーカーが一緒だったの?」
「同じボケをされても……」
若干呆れる沙耶香。
だが、こんなやり取りも沙耶香は好きだった。
誠実と二人きりで話をするだけで、沙耶香はドキドキしていた。
「誠実君」
「え? あ、はい……」
突然名前で呼ばれ、戸う誠実。
沙耶香は顔を真っ赤に染め、微笑みながら誠実に言う。
「大好き」
「え……あ、あの……」
そのたった一言が、今日のこの空き教室で起きたどんな出來事よりもドキドキした誠実。
ただ、好きと言われただけなのに、ただそれだけなのに、なぜかすごくドキドキした。
何も言わず、沙耶香は潤んだ瞳を誠実に向け続ける。
視線をそらそうにも誠実は、そのあまりにも綺麗な瞳から、目を離すことが出來なかった。
「今日はごめんね……私、焦って誠実君に々しちゃって……」
「い、いや……気にするなよ……」
誠実は今日の沙耶香との出來事を思い出し、顔を赤らめながら答える。
「本當はね……結構無理してたんだ……」
無理をしていることは、誠実にも伝わっていた。
のような行をしていた時の沙耶香はを震えさせ、どこか張していた様子だった。
「知ってるよ……あんまり無理はしない方が良いと思う」
「だよね……でもね……」
今まで床に座っていた沙耶香は立ち上がり、窓の方に向かって歩き始め、窓にもたれ掛かりながら、誠実に悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「誠実君となら、何をしても後悔はなかったよ」
今日の彼はどうしてしまったのだろうか?
誠実は素直にそう思った。
いつものじとは違い、どこか小悪魔のように悪戯っぽくて、かわいらしくて。
誠実はそんな沙耶香を見て、思う。
(たかが數カ月で、他人の事を全部知るって言うのは無理なんだな……)
出會って數カ月、彼のこんな一面を知らなかった誠実は、心の中でそう思い、改めて言う。
「約束するよ、今日からはちゃんと沙耶香を見るよ……」
「フフフ、じゃあ、今からいっぱいアピールしなきゃね」
「ほ、ほどほどでお願いします……」
基本、子に免疫のない誠実には、あまりに過剰なスキンシップは逆効果の様子だった。
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