《99回告白したけどダメでした》57話
*
誠実が栞の自宅についた丁度そのころ。
誠実が出かけた後の伊敷家はし騒がしかった。
「お父さん! 休みだからってゴロゴロしてないで、どっかに行ってきたら? そこに居られると邪魔なの!」
「し、しかしだな……貴重な休みの日まで労力を使いたくないというか……」
「じゃあ、散歩でも行って來たら良いじゃない、家でゴロゴロばっかしてると、不健康よ」
「な、なんだと! こっちだって毎日汗水たらしてだな!」
「だからって、こんな時間まで寢巻でいないでよ!」
「う……うるさい! 良いだろ別に、誰にも迷はかけてないんだ、それにお前もあんまり怒るとしわが……」
誠実の父である、伊敷忠志(いしきただし)がそう言った瞬間、大きな音とともに、忠志の目の前の機にひびがった。
誠実の母である、伊敷葉(いしきかなえ)が機に拳を叩きつけたことが原因だと、忠志は直ぐに気が付いた。
気が付くと同時に、葉の怒りが本気だという事に気が付き、を震わせる。
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「……言いたいことはそれだけ?」
「ごめんなさい、行ってきます」
忠志は葉をこれ以上怒らせないようにと、素直に言う事を聞き、外に出かける事にした。
「殘金は……6000円か、パチンコでも行くか……」
財布の中を確認し、忠志は電車に乗って街に向かう。
日曜日の晝間という事もあり、町は人が多かった。
昔は、家族四人で休日となると、よく々なところに行ったものだと、過去を思い出す忠志。
誠実と奈穂が大きくなり、そんな機會もメッキリ無くなってしまい。
休日はゴロゴロする毎日。
子供は大きくなるのはうれしいことだが、同時にさみしくもあり、このまま誠実と奈穂が居なくなってしまうと思うと、急に悲しくなってきた。
「はぁ~、なんだかなぁ……」
ため息を吐きながら歩いていると、町からし離れたところにある橋を通り掛かった。
ふと橋の方を見ると、何やら橋の上から下の川をジーっと見つめる中年の男がいた。
あんなところで何をしてんだ?
なんてことを思っていた忠志だったが、よくよく考えたら嫌な予がした。
「ま、まさか!」
周りは町から離れており、人通りがない。
しかも橋の高さも結構ある。
しかも男は何か悩んでいるような様子で、先ほどからため息をついている。
忠志は、もしかして自殺か! などと思い、慌てて男の方に走って行く。
「は、早まるなぁぁぁ!!」
「え? う、うわぁぁぁ!!」
忠志は男を止めようと、勢いそのままに、男に抱きつき抑え込む。
「いくら人生に疲れたからって、自殺は駄目だ! 悲しむ人だっているんだぞ!!」
「あ、貴方は……一何を?」
「え……自殺するんじゃないの?」
「川を眺めていただけです!!」
自分の勘違いだと気が付き、忠志は笑ってごまかしながら、男に手を貸し、立ち上がらせる。
「い、いやぁ~、隨分悩んでいた様子でしたので……てっきり」
「だからって、いきなり抱き著いてこなくても……」
笑ってごまかす忠志に男は呆れた表で応える。
男はガタイが良く、忠志よりも長が高かった。
スーツを著ていて、なりもちゃんとしており、高そうな時計もしている。
「すいませんでしたな。しかし、こんなところで何をしていたんですか? 遠目から見たら、完全に自殺志願者みたいな雰囲気でしたよ?」
「自殺を志願しては居ませんが、悩みがあるのは本當ですから……」
さみし気な表で言う男に、忠志はどこか自分に似たじを覚え、何かの縁だと思い、男の話を聞いてみようと思った。
「差支えが無ければ、話してくれませんか? こうしてあったのも何かの縁です。他人だから、言える意見もあるかもしれません」
「そうですか……実はですね……」
男はそのまま忠志に話始めた。
男の名前は勤(つとむ)、年齢は忠志と同じで一人娘がいるらしい。
「ほう……娘が初めて男を家に連れてくるんですか」
「はい……話によりますと、その男から危ないところを助けていただいたそうで、お禮を兼ねて、家に招きたいとの事で、親である私もお禮を言おうと仕事の都合をつけたのですが……」
「ですが?」
「どうやら娘がその男に気があるらしくて……」
「あらま、それはお父さん心配だな」
自分にも娘の居る忠志にも、その気持ちは痛いほどわかった。
娘となると、お父さんは可くてしょうがない。
もし悪い男に捕まって、ひどい目にあわされようなら、お父さんは一気に殺人犯になる勢いでその男に襲い掛かっていくものだ。
そう考える忠志であった。
「私は、恥ずかしながら、仕事一筋で今までやって來たところがあり、今更娘に何を言っても、大きなお世話なのではないかと……」
「なるほどな」
「私は娘には幸せになってほしい、だから関係に関してはし口を出したいことがあるんです。しかし、今まで娘の事に関して、一切口を出さなかった私が、今更口を挾んでも良いのかと……」
「うーん、確かに。それは都合がよすぎるな」
要するにこの勤という男は、娘との付き合い方に悩んでいるのだ。
忠志は、思えば自分にもそんな時期があったと思い、何か力になれないかと考える。
「ほかに、誰かに相談はしたのか?」
「恥ずかしながら、私は友人と呼べる人が一人も……居ないんです」
「あ! いや、あの……すまん」
「良いんですよ。ずっと、勉強ばかりで、娯楽に興じたことが一度もない、そんなつまらない男に友人なんているはずがありません。妻とも見合い結婚で、最近はあまり會話も……」
忠志はそんな勤の話を聞いて、自分と似ているとじた。
家族と居るのに、たまにじる疎外。
家族の為にと働いているはずなのに、家では冷たくあしらわれる。
出かけようにも誰も付き合ってはくれず、出かけても一人でパチンコ。
そんなことを考えていたら、なんだか忠志も悲しくなってきた。
そんな悲しみを吹き飛ばそうと、忠志は勤にとある提案をする。
「よし! 勤、お前時間あるか?」
「え、まぁ……一応。逃げてきたからね……」
「じゃあ、今からちょっと飯でも行こう!」
「え、でも……」
「お前、そんなんだと遊びも何もしらねーんだろ。そんなつ仕事だけで良い父親なんてのも良いかもしれねぇ……でもな、それじゃぁ、お前はどこで仕事のストレスを発散する? どこで家庭のストレスを発散する? そんな狀態じゃ、きっといつか壊れちまう」
「伊敷さん……」
「だから、今日は俺がお前に娯楽ってもんとストレスの発散の方法を教えてやるよ! 金は気にすんな! 全部俺が持ってやる、どうせ貯めてても仕方ねーんだ」
忠志はパチンコで勝った時にこっそり貯金していた通帳を持って、勤の背を押し、街の方に向かっていった。
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