《99回告白したけどダメでした》76話
駿は息を切らせながら誠実に聞いた。
考えてみれば、誠実が駿に勝ったとしても、何も得は無い。
「お前が俺を倒したとしても……俺が婚約を解消しなければ……何も変わらない……なのになんで………お前は俺に……向かって來る」
「あぁ……そういえば……そうだよな……はは……考えてなかった……」
「噓……ついてんじゃねーよ……答えろ! 俺の事を綺凜に話て、自分に好意を向けさせようとしてのか? それとも!」
「ちがうよ……」
駿の言葉に、誠実は自分の言葉を重ねる。
疲労と相手からの攻撃のダメージで、もう立っているのも辛い。
そんな狀況で、誠実は笑いながら駿に言う。
「あんた……本気でってしたことねーだろ………」
「當たり前だ……は……嫌いだ!」
「じゃあ……わかんねーよ……本気で好きな相手の為なら……なんだってできるんだよ……俺は……」
「……はぁ……はぁ……」
誠実の言葉に、駿は何も返さない。
誠実はそのまま話を続ける。
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「ただ好きな人が……ひどい目に合わされようとしている……そう聞いただけで……そいつをぶん毆りたくなっちまう……それが惚れた側の心理ってもんだ!」
「お前は……それだけで……俺を毆りに來たと……そういう事か……」
「あぁ……別に山瀬さんが誰と付き合おうと……誰と婚約しようと……俺にそれを止める権利は無い……でも! 目の前で好きなの子が泣かされそうって時に……俺はじっとなんてしてられないんだよ!!」
誠実は息を整え、再び駿の方を向いて構える。
それを見た駿も同時に構える。
両者が思った。
これで勝負が決まると……。
「くたばれこのクズ野郎ぉぉ!!」
「黙れ! このストーカー野郎ぉぉ!!」
誠実と駿は、互いの顔をほぼ同時に毆った。
お互いに出せる、渾の一撃を相手にぶつけた。
*
誠実たちが、駿たちと戦っている丁度そのころ、山瀬綺凜は學校に居た。
自分が何をしたか、それは十分に分かっているつもりだった。
だから、誠実に言ったのだ。
「……なんで……やっぱり私が悪かったのかな……」
一人になって教室で、綺凜は一人膝を抱えて悩んでいた。
なんでこうなってしまったんだろう、やっぱり誠実を騙していた自分がすべて悪いのだろうかと…。
「伊敷君……そんな人じゃないと思ってたのに……」
あまりいい話では無いが、綺凜は誠実が良い人だから、利用していた。
しかし、罪悪が無い訳ではない、むしろこうなってしまった今は、誠実にもっと早くこの事実を伝えて、諦めてもらえばよかったと後悔している。
駿から話を聞いたのは昨日の夜だった。
『伊敷という高校生の男が、自分に急に突っかかって來た』
この話を聞いた時、綺凜は信じられなかった。
あんなに優しい彼が、そんな事をするわけがない、そう思っていた。
しかし、綺凜は駿が噓をつくような人間にも見えなかった。
しかも、駿がこんな意味のない噓をつく理由もないと思っていた。
「なんで……またなの……」
綺凜は中學時代を思い出して顔を伏せた。
告白を斷り続け、男子からはあるはずもな噂を流され、子からも反を買い、そのせいで友達もあまり居なかった、あの頃を……。
そんな綺凜にとって、駿は唯一の安らげる場所だった。
綺凜は考えていても仕方無いと、立ち上がり帰宅しようとする。
すると、綺凜のスマホが音を立ててなり始めた。
「あ……駿…」
スマホの畫面には駿からのメッセージが映し出されて居た。
容はこうだった。
『今からここに來れないかな? 面白いものが見れるよ』
メッセージには位置報が添付されており、綺凜は何だろうと疑問に思いながら、位置報を確認する。
場所はし離れた廃工場だった。
綺凜はなぜこんな場所に自分を呼ぶのか気になり、メッセージを返す。
『行けますけど、なにかあるんですか?』
メッセージを送信し終え、綺凜は昇降口に向かい、靴を履き替えて帰宅しようとする。
すると、そこに帰ったはずの沙が現れた。
「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」
「うん、帰ろうと思ったよ。でも、ちょっと綺凜に言いたいことがあってさ~」
沙はいつものじで、綺凜に接してくる。
もしかして噂の事だろうか?
綺凜はそうだろうかと考えながら、沙の言葉を待つ。
「あのさ、誠実君ってなんであんなにの子に好かれてると思う?」
「え……急にどうしたの?」
「良いから、良いから~」
いきなりのそんな質問に綺凜は困ってしまった。
考えて見れば、彼はなぜあんなに好かれているのだろう、正直に言ってしまえばルックスは普通だし、スポーツが特別特異なわけでもない、なのになぜあんなに好かれているのだろう?
考えても答えのわからない様子の綺凜に、沙はゆっくり話始める。
「これは私の予想だけど、誠実君が優しいからだよ」
「……優しい…」
「そう、なくとも私は誠実君の優しいところが好きだよ。それに、その優しさって、誠実君は誰に対してもなんだよね……」
それは、綺凜も知っていた。
だから、彼を利用したのだ。
でも綺凜は分からなくなっていた、誠実が本當に優しい人なのかどうかが……。
「私はさ、綺凜よりし前から誠実君を知ってるし、學してからずっと好きだったから、綺凜とは見方が違うのかもしれないけど、私は誠実君があんな酷いことしないッて信じてる。だって……あんなにに一生懸命だった彼が、好きな人を悲しませるようなことするなんて、考えられないもん……」
言われて綺凜は考える。
沙の言う通りだった。
誠実ほど真っすぐに自分を思ってくれる人は、今まで居なかった。
そんな彼を信じたかった。
しかし、それでは駿を疑うことになってしまう。
「綺凜……私は綺凜の人の事なんてわからないけど……私は誠実君を信じるわ」
「そう……」
綺凜は沙の言葉を聞き、自分が正しいのかますますわからなくなっていた。
しかし、ここで誠実を信じるという事は、駿を疑う事になる。
綺凜はそれが怖かった。
もし、駿が噓をついていたとしたら、それはそうしてだろう、なんでそんな噓をつくのだろう?
今まで唯一信じてきた人が、なぜそんなつまらない噓をつくのか、綺凜にはわからない。
だから誠実を悪者にして、納得したかったのだ。
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