《99回告白したけどダメでした》77話

「綺凜、現実はしっかり見なきゃダメだよ……」

「…どういう……意味?」

「そのうちわかるよ、じゃ、私はこれにて! また明日ね~」

沙は何を言いたかったのだろうか、綺凜はそんな事を考えながら、學校を出る沙を見送る。

再び一人になり、綺凜は沙に言われたことを考えながら、駿に呼ばれた場所に向かっていた。

「現実……なんのことよ……」

中、綺凜は駿との思い出を思い出していた。

初めて會ったのは綺凜が小學5年生の頃だった。

母親を亡くし、いつも一人でいた綺凜に優しく接してくれた駿。

いつも會える訳ではなかったが、たまに會って話をしたり、遊んでもらったりしていた。

駿も早くに両親が離婚し母親が居ないこともあり、気が合ったのだろう、駿にだけは綺凜は本當の自分を見せることが出來た。

一緒に夏祭りにも行った、海にも行った、冬はスキーにも行った。

そんな相手を疑うことが、綺凜にはできなかった。

バスに揺られ、し歩くとその場所に到著した。

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なぜこんな廃工場に自分を呼んだのだろう?

綺凜はそんな疑問を抱きながらも、廃工場に近づいていく。

『まだ、立ち上がれるのか……なんでだ、なんで勝てないのにそこまで頑張る? なんで綺凜の為にそこまでできる! なんでだ!』

工場から聲が聞こえる。

駿の聲だと、綺凜はすぐに気が付き、中にる。

中にった綺凜は驚いた。

工場の中では、ボロボロの誠実と駿が対峙し、し離れたところでは健と武司が息を切らせながら、四人を相手に取っ組み合いの喧嘩をしていた。

何があったのだろう? そしてなんで、あの三人ははっぴを著ているのだろう?

そんな事を考えながら、綺凜はとっさに影に隠れた。

狀況がわからず、怖くなってしまったのだ。

『好きだからだよ!』

影に隠れながら、綺凜は様子を見ていた。

誠実が駿を毆っていた。

やはり駿の言ったことは本當だった、綺凜はそう思い、止めにろうとするが様子がおかしい事に気が付いた。

『じゃあ……教えろ……なんで俺に喧嘩を吹っ掛けた!』

今度は駿の聲だった。

今まで聞いたことのない、荒々しい聲で、誠実に言っていた。

本當に駿なのだろうかと、綺凜はもう一度工場の中を覗く。

そこには、間違いなく駿が居た。

しかし、綺凜には今の駿が別人に見えた。

話の容がいまいち理解できていない綺凜だったが、駿が誠実に敵意を剝き出しにしている事は理解できた。

『あんた……本気でってしたことねーだろ………』

『當たり前だ……は……嫌いだ!』

「……!?」

綺凜は驚き、思わず聲を出しそうになった。

どういう事だろう?

今までそんな話を綺凜は駿から、聞いた事が無かった。

が嫌い、それでは自分の事はどう思っていたのだろう?

綺凜はそんな事を考えながら、沙の言葉を思い出す。

『現実はしっかり見なきゃダメだよ……』

綺凜は嫌な予がした。

考えている間にも、誠実と駿の會話は続いていた。

『ただ好きな人が……ひどい目に合わされようとしている……そう聞いただけで……そいつをぶん毆りたくなっちまう……それが惚れた側の心理ってもんだ!』

誠実が何を言っているのか、綺凜にはわからなかった。

しかし、誠実の表や聲のじから、誠実が真剣だという事が伝わってきた。

『お前は……それだけで……俺を毆りに來たと……そういう事か……』

『あぁ……別に山瀬さんが誰と付き合おうと……誰と婚約しようと……俺にそれを止める権利は無い……でも! 目の前で好きなの子が泣かされそうって時に……俺はじっとなんてしてられないんだよ!!』

綺凜はその言葉を聞いた瞬間、何となくわかってしまった。

だが、まだ信じる事は出來なかった。

そして、誠実と駿はお互いに渾の一発を互いの頬にぶつける。

駿も誠実も相當に強力な一撃を相手の頬にぶつけた。

二人とも、相手の頬に拳をぶつけたまま停止し、かない。

しかし、一秒ほどの間の後に、誠実がをフラフラさせながら倒れていく。

「……ぐ!」

だが、誠実は寸前で足を踏ん張り、倒れなかった。

誠実が踏みとどまったのとほぼ同時に、駿が誠実の直ぐ脇に倒れた。

「はぁ……はぁ……まさか……ストーカーに負けるなんてな……」

「うっせぇよ……それに、もうストーカーじゃない……キッパリ諦めた」

「そうか………俺は綺凜が大っ嫌いだったよ……」

「……なんでだよ」

誠実は呼吸を整えながら、倒れる駿を見下ろして言う。

「うざかったんだよ……何が婚約者だ……俺のご機嫌を取ろうとしてるじが丸見えなんだよ! 俺を見るといつもニコニコしやがって……あのと……母さんとそっくりだった……」

「………」

「ハッ! 何が……次はいつ會えますかだ……俺はあいつの顔なんて見たくも無かった……母さんを見ているようで……ムカついた……」

「………お前」

「だから、あいつを地獄に落としてやろうと思った! 學校の帰り道、金で雇った奴らにあいつらを襲わせもした! それもお前に邪魔されたんだけどな……」

「やっぱり、あれはお前か……」

「あぁ、本當はあの時に本當の俺をあいつに見せて、絶させるつもりだった……はは……毎回毎回、お前が邪魔しやがる……」

誠実は駿という男と毆り合い、話をして一つだけわかった事があった。

それがわかった瞬間、誠実はなんだか寂しくなった。

「駿……お前……母親の事も山瀬さんも……好きだったんだな……」

「は…ははは! 何言ってやがる、耳でも悪くしたか? 俺はさっきから何度も言ってるだろ! 嫌いだって!」

「じゃあ、なんでその泥棒の事をまだ母さんって呼ぶんだよ……」

「……それは……」

「お前は、優しい母親が噓だったなんて信じたくなかったんだよな?」

「違う! 俺はあのが憎い!」

「そう思い込みたかっただけだ……お前は、を憎む事で、その思いを忘れようとしたんだ……そこに、山瀬さんが現れた……」

駿はギロリと誠実を睨み、疲労でかないを無理矢理かし、誠実のはっぴを摑み、怒鳴り聲をあげる。

「やめろ!」

「山瀬さんが母親に似て優しかったから……好きになったんだろ? でも裏切られるのが怖くて……またあんな思いをしたくなくて……自分で自分自に言い聞かせたんだ、山瀬さんが憎いと……」

「いい加減にしろ! 違う! 俺は……」

「違わない! 俺もお前と同じだ!!」

「………」

誠実の聲に、駿は思わず黙り込む。

誠実は寂しそうな表で、駿を見ながら靜かに言う。

「俺も……お前と同じバカで……同じ人を好きなんだ……わからない訳がない」

「………だとしたら、どうする………俺はお前の言う通りクズだぞ……」

「じゃあ、もうクズは卒業しろ……そして、あの人を……山瀬綺凜を一生幸せにするって誓え!」

誠実のその言葉に、駿は思わず笑い聲をあげる。

「はははは! お前本當にバカだろ! そんな約束、俺が守ると思うのか?」

「あぁ、守るさ……なんたって、同じバカで同じ人に惚れた同士だ」

誠実の言葉に、誠実は笑うのをやめた。

どれだけお人好しなんだと駿は思った。

誠実の表からは噓をついているじは無く、表も真剣そのものだった。

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