《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》2.馴染と後輩と
「文人、さっきから何一人でぶつぶつ言ってんの?  ちょっと、怖いんだけど」
今、僕の橫を歩きながら辛辣な言葉を浴びせてきたのは、矢野(やの)たより。
家が近所で稚園からずっと一緒。俗に言う馴染というやつだ。
「いや、ちょっとな。気にしないでくれ」
「変なの」と興味無さそうに答える。
「それよりさ、新しいクラスにはもうなれたの?  あ、元々友達いないから関係ないか」
「おい!  友達くらいいるわ!じゅ、10人くらいいるわ!  そ、それよりお前はどうなんだよ、たより」
「私はバスケ部の子も何人かいるし、問題なし。それよりさ、バスケ部の新生でめちゃくちゃ上手い子がいるんだよねー。背は小さいけど。あれは即戦力だわ」
たよりが人を褒めるのは珍しい。
余程その後輩とやらはセンスがあるのだろう。
「そうなのか。それは一度手合わせ願いたいものだな」
「いや、あんたバスケやんないじゃん」
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そうだった。僕としたことが忘れていた。うっかりうっかり。
「はぁ、バスケ部ったらモテるかな……」
「いや、無理でしょ」
この程度のやり取りはいつもの事なのでいちいち傷ついたりはしない。僕はこう見えてメンタルは強い方なのだ。
「矢野先輩、おはようございます」
「あ、月見里さん、おはよう。凄いタイミングだね。ちょうど月見里さんの話をしていたんだよ。17行くらい前で」
「え?  そうなんですか。17行くらい前?  えーっと、矢野先輩。ちなみにそちらの方は?」
と、たよりに問いかける。
「あー、コイツは家が近所で昔からの知り合いの、一三文人って言うんだけど……まぁ漫畫とかで言ったらモブだから、あんまり気にしなくてもいいよ」
「モブ言うな!  こっちだって頑張って生きてんだよ!」
「そ、そうなんですか。私は月見里(やまなし)二葉(ふたば)と申します。よろしくお願いします。先輩」
若干引き気味で、丁寧な挨拶を返してくれたこの子が先程たよりから聞いたバスケ部の新生のようだ。
長はたよりと、比べても確かに小さいな。その差約10センチと言ったところか。たよりも子にしては背が高い方だが、それでも160センチ程度なのでバスケ部としてはそこまで大柄なわけでもない。
月見里さんは整った顔立ちをしていて髪は短め。大きめの目が笑った時にクシャッと三日月の形になるのが特徴的だ。はっきり言って可い。タイプだ。
「あぁ、よろしく」
と、思春期男子丸出しの容姿チェックを終えた後、返事をしておいた。
馴染の僕が言うのもあれだが、たよりは結構人だ。可いと言うよりは人。なので、ジャンルは違えど二人を連れて登校している今の僕の狀況は、さながら人生の勝ち組と言っても過言ではないのではないだろうか。
「あ、そうだ。文人。今日部活終わった後、あんたの家寄っていい? こないだ借りたゲームでわかんないところあんだよねー」
「ん? あぁ、別にいいけどそんなもんネットで調べりゃ攻略報なんていくらでも出てくるぞ?」
「私、攻略サイトは見ない派なんだよねー。なんかこう自分で謎解いていくから面白いんじゃんー。なんでもかんでもネットって良くないと思うんだよね」
それって僕に聞くのと何が違うのかな? と、つっこみをれたら何故か負けな気がしたので敢えて何も言わない。
「分かったよ。飯はどうする? いるなら母さんに話をしておくけど」
「ゴチになります!」
と言う、全く遠慮のない、清々しい程の笑顔で返事が返ってきた。まぁ、こいつの竹を割ったような真っ直ぐな格は嫌いではない。
「先輩たちって仲が良いんですね。お互いの家によく遊びにいくんですか?」
「んー、頻繁って程ではないけどね。両親同士も仲が良いから、たまに晩飯をご馳走になったりはするかな。と言っても文人がうちに來ることはほとんどなくなったけどね」
「へぇ……そうなんですね」
と、答える月見里さんの表がし不機嫌そうに見えたのはきっと気のせいだろう。
その日の放課後、たよりがうちにくるのは部活が終わった後なのでまだ時間がある。僕は帰宅部なので放課後は基本的には暇なのだ。
「バスケ部の練習でも見學に行くか…」
我が校の子バスケットボール部は強豪校とは言わないまでも、県大會で上位にる程の実力だ。そんな中、たよりは2年生で唯一のスターティングメンバーに選ばれている。
あいつがバスケを始めたのは小學校の時だったが、當時から子にしては長が高かったことと、持ち前の運神経の良さで目立つ存在だった。中學3年生の時には県選抜(県の代表選手)に選ばれてたっけな。
容姿端麗、運神経抜群に加えて、あのさばさばした格。子からの人気も高いみたいだ。
「まったく、無駄にスペック高いよな、あいつ。うらやましい限りだぜ……」
と、そんなことを考えながら育館の2階から練習を眺めているとゲーム形式の練習が始まった。
何度かのパス回しの後、右45°のスリーポイントラインで待つたよりにボールが渡る。シュートフェイクを一瞬れた後、さらに左に大きくフェイントをれウィークサイドへドリブルで切り込む。
「早っ……」
思わず聲がれる。ディフェンスを抜き去りそのままランニングシュートの勢にる たよりの前にカバーのディフェンスが立ちはだかる。
しかし、そのディフェンスを更にかわしダブルクラッチでシュートを決めてしまった。
「すげぇな……」
たよりのチームがシュートを決めたので相手チームのボールからのスタート。ボールを運んでいるのは、月見里さんだ。小柄なを活かし凄いスピードでボールを運んでいく。
ハーフコートを超えて2、3回ドリブルを切り返し、トップスピードからの急停止。ディフェンスが勢を崩す。その瞬間、月見里さんの放ったシュートは綺麗な孤を描き、リングに吸い込まれる。
「おぉ……上手い」
これは將來が楽しみだ。と、どこかの名監督の真似をしながらしばらく試合を観戦した。
さて……十分楽しんだし、そろそろ帰るか。いや、楽しんだというのは純粋にバスケットボール観戦を楽しんだというだけで他意はない。信じてほしい。
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