《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》7.私に任せてください!
「まどろっこしいのはあまり好きじゃないんです。こう、なんでもズバッと解決できたら楽じゃないですか」
「そうだな。認めるよ。確かに言い訳だ。でも釣り合わないと思っているのは本當だよ。僕は自分のことしか考えていない、最低な人間だからな。自分が傷つかなければそれでいいと心のどこかで考えている」
そう、僕は怖いのだ。
臆病で、なんの取り柄もない、周りの目ばかり気にして何も行に移せない弱蟲な自分が、たよりを幸せにできるとはとても思えない。
「そもそも僕は人を信用することが出來ない。表面上は笑っていても心の中では何を考えているか分からないじゃないか。上っ面だけ取り繕って仲良しごっこをしている人たちのにろうとはどうしても思えないんだよ。ただ、世の中の人間全てがそうだとは勿論思っていないし、自分の考えが絶対的に正しいだなんてこれっぽっちも思っていない」
客観的に見て僕がひねくれ者で暗な奴だって事は分かっているしな。
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「僕は他の人を面と向かって否定したり攻撃したりしない。だから僕のことも放っておいてしいんだよ」
あれ……。
なんで僕、昨日今日あったばかりの後輩にこんなに熱く語っているんだろう。こんな話をしたって一歩引かれるだけだ。
いや、一歩で済めばマシなほうか。なるべく人とは関わらない様に、トラブルを起こさない様に生きてきたつもりなんだけどな。なんかこの子と話をしていると調子が狂う。
「先輩。私は先輩の考え方を否定しませんよ。肯定もしませんけど」
と、意外な答えが返ってきた。
「価値観なんて人それぞれですし、何が正しいかなんて分かりません。世の中の人間全員と仲良しになれるわけもありません。矢野先輩の事を悪く言ったら許しませんが、他の人の事は結構どうでも良いですね。それに……」
「それに……?」
「いえ、なんでもありません。では、矢野先輩に問題があるという訳ではなく、一三先輩の心の問題という事になりそうですね」
端的に言ってしまえばそうなるけど。だからってどうしようと言うのだろうか。
「先輩、私が先輩の心の闇を晴らしてあげますよ」
「えぇ!? な、なんでそうなるの?」
月見里さんにとって、たよりは憧れの先輩みたいだから力になりたいってのは分かるけど、ちょっと話が線していないか?
「大丈夫です先輩。私に任せてください」
——————————————————
「ところで、月見里さんとたよりって高校に學してから知り合ったのか?」
まだ月見里さんが學してから2ヶ月程度だと言うのに、結構信頼関係を築けているように見えるんだよな。
「よくお話をする様になったのは割と最近ですよ。私の方は矢野先輩を中學生の時から一方的に知っていましたけど。と、言いますか、私は矢野先輩と一緒にバスケをしたくてこの學校に學しましたからね」
「へぇー。あいつやっぱり有名人なんだな」
「それはもう、凄い人ですよ! 始めて試合で見かけた時は鳥が立ちました。能力の高さもそうですが、繊細なハンドリングとシュートセンス。あの人となら上に行ける。そう確信しましたね。そう、確信して進學しましたね。因みに先輩は部活にはっていなんですか?」
「あぁ。僕は部活にはっていないよ。運は苦手なんだよ」
「文化系の部活にはらないんです?」
「っていないし、これからもるつもりはないよ。僕には特別な才能とか、蕓的なセンスとかないからな」
ただ単に集団行や上下関係が面倒くさいと言うのもあるんだけど。
「部活をするイコール結果を殘さないといけないって事は無いんじゃないですか?  結果より過程が大事ってよく言うじゃないですか」
「月見里さん、世の中そんなに甘くはないぞ! 結果を殘せなければ、何もしていないのと同じだ、と言うのが僕の持論だ」
「先輩は今まで生きてきて、何か一つでも結果を殘したんですか?」
「逆に聞こう。僕が何か一つでも結果を殘したことがあると思うか?」
「そんなに自信満々に言われると、もう何も言う気が起きませんね」
食べ終わった弁當を片付けながら呆れた顔で笑っている。
なんだろう。
普段は人の目を気にしてばかりで、自分をしでも良く見せようとしてしまう癖があるのに、この子とは自然で話が出來ている気がする。
裏表がないからか? いや、裏表がないかどうかなんて、分からないじゃないか。
「月見里さん、僕からも一つ質問があるんだけど……月見里さんは『裏表のない人』っていると思う?」
「ん?  いないんじゃないですか?」
またしても予想外の返事が即答で返ってきた。だってそれって自分にも裏表がありますと認めている事になるじゃないか。
「まあ、絶対に一人もいないとは言いませんけど、現代社會で自分の気持ちを真っ直ぐ外に出すのは難しいです。それに、人間噓をついたりつかれたりなんて當たり前の事じゃないですか。生きていく上でごく自然な事ですよ。仮に『私はあなたに噓をついた事が一度もありません!』って言う人がいたならば、むしろ私はその人を信用できませんね」
勿論『程度』によりますよ? 噓ばかりついてる人とは関わりたいと思わないのが普通ですよね。そう付け加える。
「ふぅん」
高校一年生にしては隨分と分かりがいいな。いや、むしろ分かりが良すぎるくらいだ。
「一三先輩は裏表ないんですか?」
「そんなわけないだろう。僕はこの貨と同じで、裏と表を使い分けれる男さ。と、言うわけでこの貨で食後のジュースでも買いにいこうか貨、売り切れてこうか貨いする前にね」
「……今日は冷えますね。暖かい飲みが飲みたい気分です」
「もうすぐ夏だよ!  べ、別に僕は駄灑落が好きなわけじゃないんだからな!」
いや、嫌いでも無いけど!
「しかし、うちの學校の自販機って無駄にラインナップ充実してるよなりなんでも好きなものを選んでいいぞ」
「本當に良いんですか?  では、お言葉に甘えて。紅茶伝説でお願いします」
「了解。って紅茶伝説って何だよ!  紅茶花伝だ!   紅茶で世界を救うみたいな話が始まるかと思っただろ!」
ピッ。カタン。
「全く、月見里さんは見た目のイメージとしギャップがあるな。もっと真面目で大人しい子かと思っていたよ」
自販機からペットボトルを取り出し月見里さんに差し出す。
「いえいえ、概ね間違っていませんよ。私は真面目で大人しいですから」
ありがとうございますと言いながら、僕の差し出した紅茶花伝をけ取る。
「あ、ところで先輩、『了解』って言葉を目上の方に使うのは失禮だと言う説があるのはご存知ですか?」
「ああ。確かにそれは聞いた事があるな。日本語って難しいよね。でもそれがどうかしたのか?」
「今なら聞かなかったことにしてあげても良いですよ?」
「いつから月見里さんが僕の目上の方にはなったんだ?!」
「ふふ。冗談ですよ。ジュース、ごちそうさまです。そろそろ晝休憩も終わりますので教室に戻りますね」
もうそんな時間か。僕も教室に戻らないといけないな。でも結局ただ雑談をしただけだった気がするけど、よかったのかな。
「あ、先輩ひとつだけ聞き忘れていました。先輩の好きなってなんですか?」
「好きな?  そうだな……強いて言うなら青かな?」
「なるほど。まあ當たらずとも遠からずってじですかね」
「うん? もしかして心理テストとかそんなじか?  選んだで格が分かるとか」
「正解です。なかなか鋭いですね。因みに青が好きな方は、自分の信念を貫きたいと言う気持ちが強い傾向にあるみたいですよ。よく言えば頑固、悪く言えば分からず屋、みたいな」
「頑固ってあまり良く聞こえない気がするんだけど、當たってないわけじゃないから困るな」
「な考えを持ちましょうね」
また妙に大人びた事を言いながら月見里さんは自分の教室へ戻っていった。
50日間のデスゲーム
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