《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》58. 1on1大會②
そしてついに神風の番が回ってきた。
対戦相手は三年生でスタメンの富田先輩。蕓的なスリーポイントシュートで幾度となくチームに流れを持ってきたスコアラーだ。富田先輩相手に一どんなバスケを見せるのか、し楽しみだ。
神風のオフェンスからスタート。
スリーポイントライン付近で軽快にドリブルをついている。フリースタイルとまではいかないけど、ストリートバスケに近いムーブで富田先輩の勢を崩しにかかる。
「上手い……」
數回のドリブルを見ただけで、何となく分かる。分かるというよりは、嫌でもじてしまう。強者の雰囲気を。
富田先輩は、相手をおちょくる様な神風のきの一つ一つに冷靜に対処している。流石うちの高校でスタメンを張るだけのことはある。スリーポイントが武で、目を惹くのも確かなんだけど、その他の基本的な能力もすごく高い。
そんな先輩と対峙しておきながら、神風は余裕の笑みを浮かべている。連続レッグスルーからロールターンを決め、そのままディフェンスを置き去りにし、軽々とレイアップを決めてしまった。
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「お〜、上手だね〜。なんか畫サイト見てるみたいだよ〜」
「た、確かに上手いけど、あんなの試合では使えないよ」
その後も神風は、様々な技を繰り出しながら、最後まで富田先輩を圧倒してみせた。派手な見た目や、大膽な言に反して、彼のバスケは凄く繊細で、しなやかなきに見えた。あれ程のハンドリング技をにつけるには、相當な鍛錬を積んだに違いない。
それに技の富さに気を取られがちだけど、の使い方がすごく上手い。人を惹きつけるバスケ、ずっと見ていたいとすら思わせる、人を魅了するバスケ。
私の彼に対する印象は、いつの間にかし違ったものになっていた。
「あはは。負けちゃったか」
富田先輩がポリポリと頭をかいていると、意外なことに神風の方から頭を下げて握手を求める。
「ありがとうございました」
「ん?  あ、ああ。こちらこそありがとう」
意外というか、コート外での不意打ちに、面食らったのは恐らく富田先輩だけでは無い筈だ。
「次は私があいつと対戦……」
面白い……富田先輩を圧倒するセンスの塊。自分がどこまでやれるか試すいい機會だ。私の番までにはまだし時間がある。が冷えない様にストレッチをしておくことにした。
ストレッチをしながら目を瞑り、頭の中でシミュレーションを行う。あいつのき、癖、弱點……可能な限り富田先輩との対戦容を思い出し、展開を組み立てていく。
……ぐう……ぐう。
「ちょっと、たより。起きて!」
「……へぇ?  今日は日曜日でしょ……ぐう」
「いやいや、部活中だから!!」
「またまたご冗談を……はっ!    今、部活中だ!!」
「……う、うん」
迂闊だった。文人と昨日遅くまで電話をしていたから、寢不足気味になっていたみたいだ。
私がうたた寢している間に試合が進み、トーナメントの反対の山では、まずシードの花ちゃんが八重樫先輩を倒し、更にその後、皇キャプテンをも倒して、花ちゃんが決勝戦へと駒を進めた様だ。
花ちゃん、やっぱり凄いな……あのキャプテンにも勝っちゃうんだ。
さて、私の出番の様だね。私も神風に勝てば決勝進出だ。よし、決めてくるか。
寢ていた事を他の人に悟られない様に、颯爽とコートへる。
「あんた、さっき寢てただろ」
神風の先制パンチ。いきなり出鼻を挫かれた。しかし、ここで主導権を相手に渡すわけにはいかない。
「まあね。試合前はいつもこうなんだ。充電バッチリだよ。せいぜい電しない様に気をつけるんだね」
「……あんたの事は知ってるよ。元、二中の矢野さんだろ?   真面目そうに見えてたけど、案外面白い奴なんだな。ははは」
あれ、なんか馬鹿にされてる? 見事にカウンターを決めたつもりが、まだ寢ぼけているのか、しキレが悪かった様だ。
「……宜しく」
下手な事を言うのはもうやめだ。対戦に集中するべく、自分の中のスイッチをれる。
「はは。それが正解だ。宜しく!」
がっしりと握手をわし、対戦がスタートした。
長は相手の方が、かなり高い。
遠目に目に見てもそうだったけど、こうやって目の前に対峙すると改めてじる圧迫。
しかし……外から見る限り、スピードも相當ありそうだった。それに加えてあのハンドリング……かなり厄介な相手だな。
ディフェンスの勢を整える。神風は……かない。1回戦とはうって変わって、ドリブルもつかない。だらりと力し、攻めてくる様子が無い。
「……?」
ヒュッ……っと風が通り過ぎたのをじた。ん?  っと思って振り返った時、神風はすでにゴール下まで歩を進めていた。
「……は?」
は、早すぎる。あれ?  富田先輩とやってた時より早くない? まさか本気を出してなかったの? 意味不明、混中。
神保春風、略して神風。[神風]なんてあだ名、ひどく大袈裟だと思っていた。ついさっきまでは。実際に同じコートに立って始めて分かった。
この人、普通じゃない。
じわりと嫌な汗が背中を伝う。気持ちを切り替えなければ。スピードにこれほどの差があるのなら、不本意だがし距離を開けるしかない。
外からのシュートがあるのか分からない。もし、これでロングレンジのシュートがるのだとしたら……
「あれ?  そんなに離していいの?  もしかしてオレ、馬鹿にされてる?」
そう言って神風はひょいっとシュートを放った。子としては珍しいワンハンドで。本當に軽々と。
緩やかな、やや低めのループで放たれたボールは、トーンと心地よい音を立てて、リングの付けに反しながらネットを揺らす。
努力したら、必死に努力をしたら、誰でもこの人の様になれるのか? 否、あり得ない。はっきり言って規格外だ。次元が違う。
「フィールドゴールだ」
鈴コーチがコールする。
※スリーポイントラインの側でのシュート。普通の試合なら2ポイント得點が加算される。
「あちゃー!  スリーポイントライン踏んでたのバレてたか!  殘念、殘念!」
あわよくばスリーポイントとしてカウントして貰おうとしていたのか、悪戯小僧の様にペロッと舌を出す。
全く……笑えるなあ。私は、なんて平凡なんだろう。強豪校でユニフォームをもらい、二年生ながら、試合にも出させてもらって……多は自分にも才能があるのかも、なんて思っていた時期があった事は素直に認めよう。
でもここ最近、本にれる機會が増えて、自分の凡庸さを改めてじる。
上等だ。こんな事で私はもう挫けない。自分の駄目さ加減なんてもう嫌ってほど思い知ってるんだよ。
「かませ犬に……なってたまるか」
「……いいね。そうこなくっちゃ」
神風がニィっと笑顔を浮かべる。まずはその笑顔を消してやる。
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