《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》61.小さなめた大きな思い①

「ちょっと待って。いや、すごく待って。エピソードタイトルに納得が出來ないんだけど」

「うん? いきなりどうしたんだ、たより」

「おかしいと思わない?」

「え? 何が?」

「だから、エピソードタイトル」

「……大きさだけが全てじゃ無いと思うぞ」

「全然フォローになってない……」

「まあ、それはいいとして、そんな事があったのか。なんかすごい奴だな、その神風って奴。普通、他校に乗り込んでくるか?」

忘れていると思うけど、僕はプリンをコンビニに買いに來て、偶然たよりと出くわしたんだ。そして今、プリンを食べながら近況報告を聞いているというわけだ。

「だよね。しかも明星子って最近選手のコンバートに力をれてて、他県からも結構有名な選手が學してるみたいなんだよね。二年生主のチームらしいんだけど、次の県大會でもかなり上の方まで上がってくると思う」

「へえ。じゃあ、力試しだけじゃなくて、偵察も兼ねていたのかも知れないな」

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「どうかな。でも、今の私には関係ないんだ。私は私に出來ることをやるだけだ」

たよりはし変わってきた。どちらかと言うとネガティブで、落ち込み出したら止まらない格だったんだけど、最近は逆にそれをバネにしている傾向がある。

の中で一何が変わったのか、何がきっかけになったのか、までは分からない。だけど、きっとそれは悪い事では無いはずだ。

「それで特訓か。よし、分かった。とことん付き合うぜ!」

「文人……ありがとう」

「それで、僕は何をすれば良い?」 

「文人は……見ててくれればいい」

「は? 見てるだけって……そんなんでいいのか?」

「いい。もし、私が挫けそうになったら、叱ってね」

それって僕がいる意味があるのか? とも思ったけど、たよりがそれでいいと言っているのだから、それでいいのだろう。それに、スポーツをしていない僕が、たよりの力になれる事なんて、どちらにしてもそう多くはないのだから。

それから數日に渡って、たよりの特訓に付き合っている訳だけど、よくもまあ、部活が終わった後にここまで自分を追い込めるな、と心する反面、が壊れてしまうんじゃないか、とひどく心配になる。

大丈夫か? 無理をするなよ、し休んだらどうだ? と、聲を掛けるのは簡単だ。

でも、[バスケが上手くなりたい]、ただそれだけの為に、ここまでを削り、心を削り、それこそ必死になって頑張っている奴を前に、僕がそんな事を言う権利なんて、あるわけないじゃないか。見ている事しか出來ない自分を恨めしく思う。

「今度、図書室でマッサージの本でも借りてみるか」

「えっ? はぁはぁ……文人、なんか言った?」

「いや、こっちの話だ。気にしないでいい」

「ふぅん」

「今日のメニューはこれで終わりか。よく頑張ったな」

「う、うん……ありがと」

トレーニングで流が良くなっているせいなのか、たよりの頬はピンクに紅している。うっすら汗ばんだを照らすのは薄暗い街燈だけだ。

二葉は汗をかきにくい質だって話を、本人から聞いた事があるけど、たよりもあまり汗っかきな方ではないみたいだな。

クールダウンを兼ねてストレッチをする たよりの側に自分も腰掛け、飲みを差し出す。

「ありがと。気がきくね」

「まぁな」

「あ、でもあんまり近付かないでしいかも。その……汗くさいかもだし」

「全然、汗くさくねーよ。むしろ……」 

すんすん。なんかふわっといい匂いがする。

「ごめん。やっぱ離れてくれる? 2キロメートルくらい」

「に…2キロ!? ばか、冗談だよ」

「まったく……てゆうか文人ってさ、何も聞かないんだね」

「何もって?」

「いや、特訓の果はどうなんだ? とか、いつまで続けるのか? とか……まあ、そういうじのこと」

「ああ、そういう意味か。そりゃあ特訓の果なんて、そんなすぐに出るもんでもないだろう。だから、とことん付き合うって言ったんだよ。お前の気が済むまで、いつまででも僕は付き合うぜ」

「そ、それって……ふ、ふぅん。良いとこあるじゃん」

「ふっ。悪いところを探す方が難しい程、いい男だろ?」

「ま、そう言うことを、自分で言わないのなら、多はね」

呆れた様な顔でドリンクを飲みながら答える。相変わらず手厳しいな、たよりは。ただ、特訓に付き合わせているって負い目を、こいつなりにじているみたいだな。

スポーツに限った事ではないが、特訓をしたからと言ってすぐに果に結びつけば、誰も苦労なんてしない。

勿論、たよりの努力が足りないと言っているわけではない。むしろ頑張りすぎ、オーバーワークなのは、素人の僕から見ても明らかだ。

ただ、そこまで頑張っていても、それを継続させなければ本當の自分の力にはならない。今やっているトレーニングが[楽だ]と、じる様になるまで続けて、始めて自分のとなる。

そして、楽だとじたら更にトレーニングの量を増やす。若しくはトレーニングの質を上げる。その繰り返しで、何処まで自分を追い込み続ける事が出來るか、が勝負なのだ。

「筋トレしてるとさー、回數増やさないとキツイなって思えなくなってくるんだよ。キツイなってじ出してからがスタートみたいなもんだから、それまでの時間が逆に面倒なんだよなー」

って、筋トレマニアの知人から聞いた事がある。僕からすれば、なんだか言ってる意味がよく分かんないんだけど。

トレーニングに関して言えば、更に厄介なのが、それだけ頑張ってにつけた力も、しサボればすぐ元どおりになってしまうって事だ。

1日サボれば、取り戻すのに3日かかる。3日サボれば、取り戻すのに1ヶ月かかる。

じゃあ、もし1ヶ月サボったら、取り戻すのにどれだけの時間がかかるんだ? ほぼゼロからのリスタートみたいなもんじゃないか。ゼロから始めるバスケ生活だ。

とてもじゃないけど、僕には真似できないな、と改めて思ってしまった。

「たより。今度、暇な時間出來たらどっか遊びに行くか」

「えっ?! どうしたの突然?」

「たまには息抜きも必要だろ? それとも僕と出かけるのは嫌か?」

「嫌なわけ……ないじゃん。いじわる」

「なら決まりだな。日程はまた調整しよう」

「うん。分かった」

たよりや二葉との関係を、はっきりさせなくちゃいけないと頭では分かっているのに、どうして僕はいつも真逆の行を取ってしまうんだろう。

こんな曖昧な立ち位置がいつまでも許されるわけが無い。なのに、どちらかの道を選ぶ事が出來ない。 

もし、このままでいれば、二人とも僕の前から去っていくことになるだろう。そうすればきっと三人とも幸せにはなれない。と、僕が語るのは些か傲慢ではあるけど。

だけど、仮に僕がどちらかを選ぶことで、僕を含む二人が幸せになり、殘り一人が悲しい思いをする。そんな狀況になった場合、結ばれた二人は本當の意味で幸せなれるんだろうか? 誰かの不幸の上にり立つ幸せ。そんなものに、意味があるのだろうか……

なんて、何度も言う様だけど、まさかこんなラブコメ主人公みたいな悩みを抱えることになるとは夢にも思わなかった。鈍ハーレム系主人公が、最終的にどんな結末を迎える事になるのか、もう一度勉強し直した方が良さそうだ。

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