《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》65.桜のきもち

ふぅ……と溜息をつく。

最近、溜息多すぎるな、と自分でも思う。だけど、出てしまうものは仕方がない。

溜息をつくと幸せが逃げると、聞いたことがある。じゃあ、溜息を我慢すれば幸せは向こうからやってくるのだろうか。

えーっと、なんだっけ? 深く息を吐き出すと、副神経優位になってリラックス効果があるんだったかな。

そう考えると、深呼吸も溜息も変わりはしないのではないだろうか。

「ーーなんて、またどうでもいいことばっかり考えてる」

私の悪い癖は未だに治っていない。事を複雑に考え、わざと一本裏道を通って遠回りする。いや、違う。結局は、問題から目を逸らしたいだけで、一種の現実逃避だ。

今の最大の悩みといえば勿論バスケ……ではなく、弓月との事だ。バスケで悩んでない訳では無いんだけど、それはいつもの事なので割。正直、今はそれどころではない。

うっかり口走ってしまったあの一言。一度口から出てしまった言葉は元に戻す事は出來ない。

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あれ以來、弓月とは連絡を取っていない。あれだけ賑やかだった私のスマホは、今は昔に元どおり。

誰かに相談しようにも、容が容だけに、それも葉わない。[私、の子が好きかもしれない]なんて、どんな顔をして相談すればいいんだ。

弓月に會いたい。話をしたい。辛いんだ。

[いつでもいいので會えませんか?」

勇気を出して送ったメッセージの返信はない。それ程時間が経った訳ではないけれど、送った事を既に後悔し始めている。

ピロンっ

突然、私のスマホから待ち侘びた音が鳴り響く。今までと変わらない、単調な電子音のはずなのに、今の私には期待と不安がり混じる不思議な音に聞こえた。

恐る恐る畫面をタップし、メッセージを開く。それから、數分……逸らした目をゆっくりとスマホに向ける。

薄眼をしづつひらく毎に、ぼやっと見えていた文字が郭を取り戻す。

「ーーTSUTAYAかいっ!!」

柄にもなく、ツッコミをれてしまった。 なんかもう馬鹿馬鹿しくなってきた。どうでもいいや。きっと悩んでるのは私だけ。みっともない。

忘れよう。全ては幻だったんだ。今まで通り、弓月と出會う前に戻っただけだ。

出會ってから弓月に貰った幸せの分、それを失った時のダメージは大きい。どちらかと言うと、貰った分以上に辛い気持ちになっている気がする。

それならば、最初から出會わない方が良かったのだろうか? そうすれば、良くも悪くもプラマイゼロなんだから。

ピンポーン

大丈夫。今のは無機質なインターホンの音としてちゃんと私に屆いた。もう期待なんてしないし、なんとも思わない。

案外私は切り替えが早い方なのかもしれない。

「お父さん、また通販でなんか買ったのかな……」

「はーい」

がちゃり、とドアを開け宅配便のお兄さんに返事を返す。

「って、弓月かい!!」

またしても柄にもないツッコミをれてしまった。な、なんで弓月が家に?! しかも突然……

「桜ちゃーん! 久しぶりー! はい、これお土産!」

大きな袋にれた溫泉街のお饅頭らしきけ取る。

「え……えっ? あ、あの?」 

「連絡出來なくてごめんね! 家族で旅行に行っていたんだけどさ、スマホが壊れちゃってさー、もう最悪だよー」

「そ、そうなんですか……」

やばい。泣きそうだ。嫌われた訳じゃなかったんだ。そっか……そっか。

「この後、ケータイショップ行かなきゃなんだけどさ、桜ちゃん暇なら一緒に行かない?」

「うん。うん! 行きます。すぐに準備するのでし待っていてください!」

必死に涙を堪えて急いで支度をする。弓月は、スマホを買い換える前に、多分、何よりも先に私の家に來てくれたんだ。その事が嬉しくてしょうがない。

今の私の顔を弓月に見られたら、きっと笑われるだろう。だって、不安と安堵と嬉しさがり混じった、訳の分からない表になっているのだから。

「弓月、お土産有難うございました。それにしても、どうしてスマホ壊れたんですか?」

「それがさー、足湯に落っことしちゃって! 逆に凄くない?!」

「逆にの意味がよく分からないですが……相変わらず、おっちょこちょいですね、弓月は」

そうだったんだ。じゃあ、私が送ったメッセージは、弓月は見ていないって事だ。良かった……。

ケータイショップを出て、參道を歩きながらする何気ない會話。良かった。私が呟いたあの一言、弓月は何とも思っていなかったみたいだ。

今までと、何も変わらない態度。今までと、何も変わらない笑顔。

本當に良かった。もう、二度とあんな思いはしたくない。私の気持ちは自分のにだけしまっておこう。

今はただ、この人の側に居られるだけでいい。それ以上をんで、離れてしまうよりずっといい。

ゆっくり時間をかけて、自分の気持ちも整理していこう。別に焦る事はない。元々違う高校に通っているんだから、卒業で離れ離れ……なんて事とは無縁なのだから。

「桜ちゃん、手繋ごっか」

「そうですね……ん?」

「手、だよ手!」

「あ、いえ……え? ど、どうしたんですか、急に……」

「桜ちゃん、私のこと好きなんでしょ?」 

口角を上げ、目を三日月にしてニンマリと笑う弓月の顔を、目を満月の様にまん丸にして見ている私。

これから私はどうなってしまうんでしょうかーー

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