《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》74.記憶の引き出しは固い
僕もよく分かっていなかったみたいだけど、たよりは運神経があまりよくないようだ。それは能力が低いという意味ではなく、俗に言う運センスってやつの話だ。
たよりは決して用な方ではない。それは人付き合いや普段の生活でもいえる事だが、真っすぐすぎて、いろんな所にをぶつけながら進んでいるじ。しかも心ももさほど頑丈ではないから、全傷だらけだ。
そんなたよりが、バスケの強豪校で活躍できるまで腕を上げたのは、途方もない努力の結果以外の何でもない。
努力は人を裏切らないと言う言葉があるけど、それはたぶん間違いだ。人には向き不向きがあるし、才能なんてものもこの世界には確実に存在する。認めたくない気持ちもあるが、やはりそれを否定する事は出來ない。
ひょっとしたら、たよりにはバスケの才能があったのかもしれない。普通に考えたらそうだろう。バスケをしている時のたよりは、馴染のひいき目無しで輝いてみえる。
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だけど、他のスポーツはてんでダメだ。特にボールを使った競技は苦手みたいだ。サッカーとか野球とか。それを加味した上で僕は一つの仮説を立てる。
ひょっとして、たよりにはバスケの才能も無かったのではないか? それは素人目だから分からないだけで、バスケをやっている人からすればまた違って見ええるのかもだけど。
【何を馬鹿な事を……たよりは才能に溢れている】なのか、【確かにあいつは才能が無い】なのか。本當のところは僕には分からないし、今は分かりたくもない。
努力の天才という言葉を聞いたことがある。それだけ聞けば譽め言葉なのかどうか微妙なところだけど、才能の無い人がしでも追いつくためには努力しかないのだから、それさえも【才能のおかげ】にするのは……し納得できない。
「なあ、たより。お前、自分にバスケの才能があったと思うか?」
「どうしたの急に。なんかそんな話、前にもしたような気がするけど」
「そうだっけ? いや、なんとなくな」
「実際、難しい質問だよね。ま、本當に才能があったなら、ここまで苦労してなかったんだろうけど。だけど私は才能を言い訳にはしたくないから……頑張った、のかも」
確かに、たよりが本の天才だったら、他の人以上に努力をしなくても結果が殘せるのかもしれない。もしくはもっと上のレベルで……
「だけどさ、いつも思うんだけど、才能とか努力とか、そういうのっていつも相対的じゃない? あの人より上手いとか、この人には敵わないとか。それってさ、あんまり気にしても仕方がない事だよね。だぶん」
「じゃあ、たよりはあまり気にしないのか」
「いや、めっちゃ気にするけど」
「ですよね」
頭では分かっていても、人間の心はそうはいかない。
「てかさ、文人から見て私はバスケの才能があると思う?」
「そりゃ……あるのか?」
「質問に質問で返すな」
ポコっと僕の肩を軽くたたく。
「だってさ、才能があるって言ったら、お前の努力を否定する事になるし、才能がないって言ったらそれこそも蓋もないだろ?」
「言えてる。でも才能があってもなくても、努力した事実は消えたりしないよ」
「結局は本人の捉え方次第ってことか」
「ま、そうなるね。だけど自分を評価するのはいつも他人というジレンマ」
「なんかスポーツしてなくて良かったって思っちゃったよ」
「あはは。文人はスポーツには向いてないかもね。もし……もしさ、私がバスケやってなかったらどうなってたかな?」
「どうって……?」
「もっと文人と一緒の時間を過ごせて、もっと文人に近づけてたのかな?」
「そう……かもな」
「そうしたら、文人は私の事を好きになってくれてたかな?」
そう言うたよりの顔には、後悔や嫌味といったは一切なく、本當に純粋な笑顔に見えた。
僕がそうんだからそう見えただけかもしれないけど、この時の僕にはそう見えたんだ。
「かもな」
そんなたよりの顔を見ていたら、期待を持たせる様な事を言うべきではないと分かっていたはずなのに、自然とそう答えてしまっていた。
「ま、バスケはやめないけどねー」
「それでこそ僕の馴染だ」
「じゃあ次は何しよっか……って、なんか人だかりができてるよ?」
「なんだろうな。見に行ってみるか」
「うん」
人だかりを目印にたどり著いた先は、先ほどまで僕たちもいたバスケットボールのコーナーだった。群がる人々の視線の先では、一人のの子が躍溢れるプレーを披していた。勿論バスケットボールの話だ。どうやらoneオンoneで連勝しているみたいだ。
「さて、次は誰が相手してくれるんー?」
「おーし! じゃあ俺が相手だ!」
颯爽と名乗り出たのは背の高い、大學生くらいに見える男の人だった。しかもボールさばきを見るじ、バスケットボール経験者の様だ。
バスケットボールは言わずもがな、長の高低が勝敗に大きく関わってくる。
しかも男とではそもそもの能力に差がありすぎる。
「たより、流石にあれは無理じゃないか?」
「うん。だけど、あの子……」
たよりは目を細めて二人のoneオンoneが始まるのを待っている。その目は至って真剣で、試合中に見せる様な威圧というか、集中力をじた。
「お兄さん、経験者じゃね」
「まーな。そんなに強いところでやってないけど。お手らかに頼むよ」
「こちらこそ」
そして試合が始まった訳だが、何と言っていいのか、試合は一方的なものだった。
そりゃ、大學生相手に、しかも子が敵うはずがないと観戦している大半の人が思っていたんだけど、その大方の予想に反してそのの子は圧勝してしまった。漫畫かよ……と突っ込みをれたくなったけど、僕がそれを言うのは何故か可笑しい気がしたので自粛した。
「おま……まじ強いな……はあはあ」
「いやいや、お兄さんも結構やるじゃん。面白かったわー」
さっきから気になっていたんだけど、あれって広島弁か? なんか、どこかで聞き覚えのあるような……何故だろう?
「あの子……めちゃくちゃ上手い……」
「だよな。素人でも分かるよ」
「でも、ここら辺の高校では見た事ない顔だけど……他県の人かな?」
「なんかしゃべり方も獨特だし、遠征かなにかで來てるんじゃないか?」
バスケの遠征で來ているのに、すぽっちゅで遊んでいるなんておかしい事はわかっているんだけど、それ以外で納得できる回答を僕は持ち合わせていなかった。
と、ふいにその子がこちらを見て、ハッとした表を見せる。
「あー!! 文人じゃん! めっちゃ久しぶりじゃねー! ウチの事覚えとるー?」
言うが早いか、その子は持っていたバスケットボールを、ひょいっと投げ捨て僕たちのもとに手を振りながら走ってきた。
だ、誰だこいつ!?
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