《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》75.世羅 紅葉
僕の名前をびながら近づいてくる。言われてみれば確かに見たことがある様な……
知り合いがそんなに多くない僕だけど、街角で誰かに話しかけられて、こちらが相手の事を覚えていない時の気まずさは、尋常ではない。
「文人、會いたかったよー!」
は僕に抱きつきながらそう言った。そう、ハグしながら。
「なっ!?」
驚きの聲を上げているたよりの橫で、聲もでない程、僕も驚いている。と同時に、著したの子のから、ふわっとした甘い香りがして、くらくらしていた。
「ちょっと一旦離れようか。文人もなにデレデレしてんの?」
たよりは僕とその子の間に割ってる形で僕たちを引き離す。助かった様な、ちょっと殘念な様な……。
「あ、誰かと思えば、たよりじゃん! 大人っぽくなったねー」
「……? え? もしかして……紅葉もみじ!?」
紅葉……ああ、なんとなく思い出してきた。世羅 紅葉せら もみじだっけか。たしかに昔、たよりとバスケットをしていた時、おぼろげだがもう一人だれかいたような。だけど、こんなに活発なじの子だったか? 昔のこと過ぎて記憶が曖昧になっているのかも。
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「思い出してくれたんじゃー。嬉しいな」
「めっちゃ久しぶりだね。こんなところで何してるの?」
「バスケしとったんよー。百人抜きしようと思って」
「いやいや、それは見たら分かるよ。って百人抜き?」
「そうそう。武者修行的な?」
武者修行って……すぽっちゅにいる理由じゃなくて、小さいころ引っ越したはずの紅葉が何故こっちにいるのかが知りたいんだけど。
正確には覚えていないけど、確か小學校の低學年でこっちに引っ越してきて、高學年になった時くらいにまた引っ越しで転校したんだっけ。
親が転勤族だと、大変だな。
「お父さんまた転勤になってしもーて、引っ越すことになったんよ。じゃけぇ、これからはこっちに住むんよー。結局、生まれた町とこっちを行ったり來たりしてるだけなんじゃけどね」
「そうなんだ。いきなりすぎてめっちゃびっくり」
「そうよね。でも連絡先の換とかしてなかったけー連絡のしようがないんよね」
「確かに……」
「紅葉もバスケやってたんだね」
「『も』って事は文人とたよりもバスケやっとるん?」
「いや、僕はバスケやってないぞ。たよりは現役バスケ部だ」
「そーなんじゃー。じゃあ、いつか対戦する日がくるかもしれんね! ところで! お二人は付き合っとるんかな?」
「えっ!? い、いや……付き合ってないけど」
突然の撃に揺を隠せない僕。
「そーなん? なんかデートっぽく見えたけぇ」
その橫でし嬉しそうにはにかむたより。
「ほんと? 文人、デートに見えたってさ」
「は、ははは」
「なんか怪しいなー」
紅葉からのジトーっとした視線から逃げる様に目を逸らす。
高校生の男が休日に駅前のすぽっちゅで二人きりで遊んでいたら、それをデートと言わずして何という。「ま、いいか」と言いながらバスケットゴールを指さす紅葉。
「折角じゃし、一戦どう?」
「いや、私スカートだし……」
「あ、ほんまじゃ」
心底殘念そうにする紅葉。會話をするに記憶が呼び起こされていく。
小さいころシュートを連続で決めるまで帰らないとかたよりが言い出した時、紅葉はあっさりとシュートを決めて帰ってた気がする。
こいつのバスケセンスは、小さいころからずば抜けていたんだ。
「じゃあ、ウチは戻るけぇ、またねー」
軽やかな足取りで紅葉はバスケットコートに戻っていった。そこで先ほどの続きとばかりに対戦相手を募集している。
僕が言うのもなんだけど、変わった奴だな。
「紅葉、相変わらずだね」
「昔からあんなじだったっけ? 正直よく覚えていないんだけど」
「大あんなかんじ。マイペースと言うかなんというか」
たよりは紅葉の事を結構覚えている様子で、懐かしいような、それでいてどこか複雑そうな顔をしている。
「たより、どうした?」
「いや……昔の話だけど、紅葉に勝負事で一回も勝った事なかったなって思って」
「そうなのか」
「勉強でもかけっこでも。それに……バスケも。ま、子供の頃の話だからね。今はどうか分からない」
自分に言い聞かせる様に靜かに呟くたより。かつての目の上のたんこぶの再來に、言いようの無い不安をじているのが見て取れる。いくら昔の事とはいえ、全力で頑張っている今を、再び否定される事になるのではと本能的に恐れているようだった。
「大丈夫だよ。お前がバスケで負けるわけない」
「文人……」
「他の競技では話は変わるけどな。特に卓球での勝負だけは避けたほうがいい」
「む? それはどういう意味かな?」
「お前、卓球弱すぎ」
「本気出してないだけだよ」
わざとらしくお道化て見せるたよりの姿を見て、余計に心配になったのだけど、これ以上この話を続けても恐らく意味はない。舊友との再會という本來ならば喜ぶべき出來事だったのだけど、僕たちは、どちらとも無くすぽっちゅを後にするべく出口に向かっていた。
「たより、晝ご飯どこかで食べる?」
「あ、私行ってみたいお店があるんだけど、そこでもいい?」
いつもならなんでもいいから任せたといいそうなもんだけど、今日は珍しくたよりの方から店を提案してくれた。
僕の方にそれを遮ってまで行きたい店があるはずもなく、たよりの指定する店に向かうことにした。
「こ、ここか?」
しばらく歩いて到著したのは、お灑落な雰囲気のカフェだった。僕がこういった輝かしくも敷居の高い店にった事がないのは言うまでもないけど、たよりは友達とよく行くのだろうか。
「うん。先輩にいい雰囲気のカフェがあるって教えてもらったんだけど、なかなか來れてなくて」
「そっか。でも大丈夫か……? 僕なんかとったら恥かくんじゃないか?」
「それは流石に自分を卑下しすぎじゃない? 文人は別に……その、普通だよ」
「フォローになっている様ななっていないような……ま、たよりが良いなら別にいいけどさ」
「嫌ならそもそも一緒にいないし」
たよりの真っすぐな言葉に照れてしまって何も言い返すことができなかった。ガチャリと重めの扉を開け中にる。
晝間ではあるがほんのし薄暗めで、暖の間接照明が落ち著いた雰囲気を醸し出している。
店員も髭の似合うダンディーでイケメンのお兄さんと、メガネの似合う人のお姉さんという非の打ちどころのない世界観だ。
その人なお姉さんに通されたのは、大きめのソファーとし小さめのガラステーブルで構された席だった。
普段僕が行くファミレスやラーメン屋とは違って、二人掛けにしては隨分とゆったりとしている。席の広さと隣の席との距離は、大衆食堂の様な詰め込まれているをじさせず、ゆったりとした時間を過ごしてもらいたいという店側の配慮だろう。
それはまあ、分かるんだけど……ここで大きな問題が発生した。
大きめでゆったりとしたソファーは二人掛け、つまり僕とたよりが並んで座る形になるものだった。俗に言うカップル席ってやつだ。
「えっと……たより。普通の椅子掛けの二人席とかカウンター席もあるし、そっちに変えてもらうか?」
店員さんも男二人での來店に、普通にカップルだと思ったのだろう。あちらに一切の落ち度はない。
「……ううん。ここでいいよ。いや……ここがいい」
自分のスカートのホコリをポンポンと払うような仕草を見せた後、こちらをのぞき込みような制で僕に問う。
「文人は……いや?」
そんな上目遣いで目を潤ませながら聞かれたら、いやなんて言えるわけがない。てかそもそも僕は嫌じゃないわけだし。
結果、僕とたよりはカップル席に腰を落とし、注文をすませた。
何を頼んだのか、張でよく覚えていないんだけどな。
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