《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》76.計畫通り……
注文した飲みが運ばれてくる。なんだかよくわらない名前のお灑落な飲みだ。
それは今まで味わったことのない繊細な味で、値段が高いだけのことはある。
この調子だと、料理の方も期待して良さそうだ。
「なんか不思議な味だけど、すごく味しいな。たよりもこの店、初めてなんだよな?」
「うん、初めてだよ。先輩におすすめ聞いたら、ここがいいって言ってたから」
「へえ。夕凪先輩?」
「いや、高橋先輩」
「そうなんだ。し意外だな」
「そう? 高橋先輩って、私服めっちゃかわいいんだよ」
僕の抱いている高橋先輩のイメージは、靜かで知的で、クールそうに見えて実は熱い、みたいなじだ。かなり象的だけど。
勉強にバスケに忙しくしているであろう先輩が、かわいい服で著飾って、一誰とカフェに通っているのだろう。もしかして彼氏だったりしてな。
「それも意外だな」
ソファに座った後、互いの距離の近さに、気まずさで一瞬沈黙になってしまったが、気が付けばいつも通りの二人に戻っていた。
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割とゆったりとしたソファだったはずなんだけど、やたらと距離を詰めてくるたよりのおで、今でも僕の右ももに、たよりの溫もりをじている狀態だ。その事に僕の脆弱な心臓は、破裂しそうになるほど脈打っている。
たよりは決して言葉數の多い方ではない。だけどそれは相手に不快を與える類の沈黙ではなく、どちらかというと心地よさをじるタイプの沈黙だ。
例えるなら、長年連れ添った夫婦の様な、或いは小さい頃はよくケンカしていたけど、お互い大人になって酒を酌みわしている兄弟の様な覚。
それは馴染である僕だからこそじる雰囲気なのだろうけど。
たよりが部活の仲間や、學校の友達と普段どんなやりとりをしているのか知らないけど、こいつの格上、誰に対しても態度を変えたりしないんだろうな。
「文人のジュース、一口ちょうだい」
「ああ、いいぞ」
僕のグラスをたよりに差し出しながらはっとした。これは、間接キスだな。だけど、小さい頃はそんなの普通だったし、たよりはそんな事を気にするタイプでも無い。
こちらばかり意識しているのがばれたらしこっぱずかしいのでなるべくいつも通りの口調で答える。
「……」
グラスを見つめたまま固まるたより。店した時より若干ほおが赤くなっているのは、店の空調がいいじに暖かいからだろうか。
自分から一口ちょうだいと言っておきながら、中々グラスに手がびない。
先程とは、うって変わって張をまとった重い沈黙が場を包み込む。
「……」
し震えるたよりの右手が僕のグラスへ恐る恐るれる。
僕はたよりの左側に座っているのだから、僕の目の前にあるグラスをたよりが右手で取ろうと思ったら、自然と前かがみになり、二人のがより一層近づく。
たよりの溫が上昇しているのか、僕の顔の周りに流れるふわっとしたいい香りが、いつもより強調されている気がした。
そしてついに、たよりが僕のグラスをつかみプルプルと震えながら自分の方へと引き寄せる。ほんのしだけ浮かしたグラスの底が、時折テーブルと當たってカタカタと音が鳴っている。もうしグラスの高度を上げた方がいいのでは……
たよりの一挙手一投足に目を奪われ、息を飲んでいる僕だったけど、たよりの表は涼しい。
こいつ……自分の張を悟られない様に、ポーカーフェイスを貫いているのか。こんなにも揺を隠しきれていないのに……な、なんて神力だ。
たよりの一口発言から數分。にして一時間くらいにはじたけど、ようやくたよりはグラスを口元まで運ぶことに功した。
じっ……と僕の口をつけた部分を凝視しているたより。あんまり見られるとなぜか僕が照れるんだけど。 そしてこの妙な張に耐えきれなくなった僕はついに突っ込みをれてしまう。
「ちょ、おま……意識しすぎだろ」
びくっ、とたよりのが直を見せる。視線は相変わらず僕のほうへは向かない。常に前を向いている。
「え? 何が?」
噓だろ……たよりさん。それは流石に無理があるんじゃないか。
バスケットボールプレイヤーは普段からを表に出さない様に特殊な訓練をけているのだろうか……
「いや……なんでもない」
話しかけたことがきっかけとなったのか、勢いに任せてグイっと僕のグラスをかたむけ、ごくごくと中を飲みほすたより。
「ぷはー。文人のもおいしいね」
「いや、必死で平靜を裝っている事に対しての言及はもう諦めたんだけど、僕のジュースを全部飲んでしまう程の揺を見せられて、僕もさすがに揺が隠せないよ」
「……じゃあ、私のジュースを飲むしかないね」
「!?」
なるほどそうきたか。でも別に僕は間接キスぐらいで焦ったりしない。
小學生じゃないんだから。ここは大人の余裕とやつをい馴染に見せてやるとしよう。
「ああ。じゃあ一口もらおうかな」
たよりのグラスを片手で取り寄せ、口の前に運ぶ。
「……」
たよりが仲間になりたそうにこちらを見ている。
じゃなくて、し火照った顔を俯かせ、また上目遣いで僕を凝視している。
普段は背の高いたよりが上目遣いになる事はめったにないが、今は座高の高い僕の頭が彼より高い位置にある。わざとじゃないんだろうけど、馴染の見慣れない表に、多は困しているのは認めておこう。
たよりの足が長いのか、僕のが長いのか……そこについても言及するのはやめておいてくれたら助かる。
しだけ、ほんのしだけ戸ったけど、僕は無事たよりの注文した甘酸っぱいジュースを飲むことに功した。
「あれ? 文人……ひょっとして関節キスくらいで意識してるの?」
「一どの口が言ってるんだよ」
たよりはとても満足そうだった。したり顔で検索したら真っ先に畫像が出てくるくらいのお手本になりそうな表を見せている。
恐らくだけど、さっきまでの一連の流れ、たよりのシミュレーション通りの展開だったのではないだろうか。
僕の飲みを飲み干したのも、それによって僕に自分の飲みを飲ませるところまで。
ただ、計畫した本人があそこまで照れてしまっていたのは計算外だろうけど。
あのサバサバしていた、たよりが、自室で今日のことを想像しながら、そんな計畫を立てている所を想像したら、なんだかおしい気持ちになってきた。
それに、服も今日の為に買ったと言っていたし、このお店も先輩におすすめを聞いたらしいからな。
今日の為にどれだけ準備してくれていたんだよ……こんな冴えない僕の為なんかに。
「たより。ありがとな」
「? 何が?」
「いや……なんでもない」
「変なの」
「お前も十分変な奴だよ」
「??」
きょとんとするたより。
たよりの策略には気づかなかった事にしよう。あいつのその気持ちが素直に嬉しかったし、水を差したくない。
とりあえず……頼んだ料理がくる前に、新しいドリンクを頼んでおくとしよう。
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