《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》82.高橋桜の決意2
部活で放課後は時間が取れなくて、最近は弓月とほとんど會えていない。
大會が終わるまではしょうがないと、半ば諦めている。でも、やっぱり寂しい。
し前までの私なら、こんな風に誰かと一緒にいたいなんて思ったことなかった気がする。誰かを頼ったり、誰かに寄りかかったりするのが苦手だから。
これって弱くなったという事なんだろうか。弓月との関係が一歩前進? した結果、私の人生は一歩後退してしまったのかもしれない。
一歩進んで、一歩下がる。現在地は変わっていない。
「電話……電話してみよう」
會えないのだから、せめて聲だけでも聞きたい。そう思い立ってから、かれこれ15分は経過している。
たかが電話。電波を飛ばして自分の聲を相手に屆ける。そして相手からも同じ要領で返事が返ってくる。たったそれだけの事。
顔が見えない分、直接會って、面と向かって話をするよりも、言いにくいことが伝えやすかったりする反面、相手の表が見えない分、不安が3割増しくらいになるのは、私だけなのかな。
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それに、電話をかける時って、相手がどういう狀態か分からないから、結構ハードルが高かったりする。
例えば、家族でご飯を食べている最中だったり、好きなテレビ番組を見ている時だったり。本當は出たくない狀態だったとしても、よほどの理由がない限り電話を無視したりしないだろう。
なんか嫌々出てもらってるかも、という疑念と不安がぬぐい切れない。
更に言えば、よほどの理由がない限り電話を無視されないと自分で言っておきながら、もし出てもらえなかったら……よほど私と電話したくないのだろうと、勝手に自己嫌悪に陥る。
電話帳から弓月の名前を選択し、後は通話開始ボタンをタップするだけ。それだけで遠く離れた相手と會話ができる現代社會。どれだけ便利な世の中になったとしても、それを使う人間がポンコツでは、寶の持ち腐れだ。
って、ぐだぐだと言い訳を並べているけど、要は恥ずかしいだけだ。なんだか照れる。ドキドキする。あと一歩、勇気が出ない。
「あー……もう、バカバカしい。かけちゃえ」
呼び出し音が鳴り始める。私の張はピークに達している。永遠にもじられる待ち時間。早く終わってほしいような、そうでもないような複雑な気持ち。でも、きっとそんな悩みや不安は、すべて杞憂に終わる。だって相手は弓月なんだから。
「もしもーし! 桜ちゃーん? 」
「こんばんは、弓月。今、大丈夫ですか?」
「だいじょぶだよ! どしたのー?」
「いえ……ちょっと聲が聞きたいと思っただけです」
「えっ! そ、そうなんだ……えへへ……なんか照れるね」
「あっ! ご、ごめんなさい。その、別に、深い意味ではなくてですね……」
弓月が旅行から帰ってきた日。あれ以來、二人の関係がし変わってきた。友達以上、人未満。私たちの関係を、弓月がそんな風に表現していた。そんな曖昧な関係が、今の私には、とても居心地が良かったりする。なんでもかんでも、はっきりさせる必要は無い。そんな風に考える様になった。
そして、そう考え始めてから、気持ちが隨分と楽になった。特に、弓月に対しては、気負わず、素の自分をしずつ出せるようになってきた。こんな事、家族以外ではあり得なかったというのに。
「でも、桜ちゃんが私の聲聞きたくなる時って、何か悩み事がある時なんじゃない?」
さすが弓月。なんでもお見通しだ。若しくは、私が分かりやすすぎるのか。いや、私ほど難しいというか、ややこしい人間もそうはいないはずだ。
「そんな事ないですよ? 私はいつでも貴方の聲を聞きたいですが」
「そ、そうなんだ! へぇ~」
「まあ、バスケの事で、悩んでいるのは、確かにいつもの事ですけどね」
「あはは。それもすっごく桜ちゃんっぽいね!」
ケラケラと笑う弓月の聲。それを聞いているだけで心が落ち著く。私は弓月の聲が好きだ。周波數が合うのか、安らぎをじる。
なんて……本當は、好きな人の聲だから、好きなだけなんだろうけど。
それに、冬の冷たい風にもてあそばれる様に踴る、枯れ葉達の聲。そういえば、弓月と手をつないでベンチに座っていたあの日。あの時も同じような音がしていた気がする。電話越しだと余計に風をじるから不思議なものだ。
「って、風の音? 弓月。貴方、いまどこにいるんですか?」
「今? 公園でバスケしてるよ!」
「公園で? こんなに寒いのに……」
「そーそー、めっちゃ寒いよ! でもいてたら、案外平気かも!」
「誰とバスケしてるんですか?」
「え? 一人だよ? ……そうだ! 桜ちゃんも來る!? って、流石にこんな時間に家、出れないよね」
「行きます」
「即決!? えっと、家の人とか大丈夫?」
「大丈夫ですなんとかしますすぐ行きます」
「う、うん。無理はしないでね?」
心配する弓月を他所に、そそくさと電話を切る。そしてすぐにお母さんに事を話して、外出の許可をもらった。お母さんは、始めは心配していたけど、もう高校生だし大丈夫よねと、許してくれた。ありがとうお母さん。
お父さんには、面倒だからにしておこうという事になったので、音を立てないように、こっそりと家を出る。ごめんなさいお父さん。
私の心臓がドキドキしているのは、子供の頃やった、かくれんぼの様な雰囲気と、夜に外出するのに慣れていないせいだと思う。きっとそうだと思う。
自転車を漕ぐ足に力がる。練習で限界を迎えているはずの私の両足。なんだ、やれば出來るじゃないか。人間の可能って凄い。
まるで玩を買ってもらって、家に著くまで我慢しきれない子供のように私の気持ちは急いていた。
もうすぐ會える。もうすぐ。
公園の前に到著した私は、息を整えるように深呼吸する。自転車を漕いで、心拍數が上がったから整えているだけだ。
吐く息が真っ白になる程、外は寒い。だけど私の溫は、目下上昇中だ。まあ、それなりの距離を移したのだから、が溫まるのも、別におかしいことではない。
そう。この寒さでこごえる、どこかの誰か一人くらいなら、溫めてあげれる程度に私は今、熱を帯びている。
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