《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》90.ボックスワン!2

立ち上がり、先述の通り夕凪先輩についているディフェンスは、かなり激しいものだった。

常に手がれる程の距離で、味方も含め、他の8人のきはお構いなし。

そして他の4人は、フリースローラインを中心に、四角を作る様な陣形でゾーンディフェンスを組み上げている。

されたその形を見ると、正に【ボックス(四角い箱)】と、【ワン(一人)】だ。

激しいディフェンスに、夕凪先輩がコートの端へ追いやられる。

コートから外に押し出されてしまうんじゃないかと思えるくらいのプレッシャー。

試合の序盤どころか、試合が始まったばかりだと言うのにこれほどのき……相手は相當スタミナにも自信があるとみえる。

「おいおい……本當に大丈夫なのか……? 夕凪先輩が圧倒されてるぞ……」

つい、そんな心配を獨り言の様に呟く。

「いや……うーん、これは意外な展開かも……」

夕凪先輩は、相変わらずコートの端っこできをとめている。相手ディフェンスをかわし切れず……ん? いや……違う…… 何かがおかしい。さっきから夕凪先輩はいていない。普通なら、ディフェンスを振り切るために、フェイントをかけたり、をぶつけたりしてもっとき回るはずだ。

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なのに夕凪先輩は、ほとんどその場からいていない。一瞬の隙を狙っているのか? でも、相手選手は夕凪先輩を止める事だけに集中しているのだから、よほどの事がない限り夕凪先輩から目を離したりしないだろう。

じゃああんなにボールから離れた所で、夕凪先輩は一何をしているんだ?

「あ……待てよ……ボールから離れた位置って……もしかして」

「きみも気づいた? たぶん、そういう事だと思う。あれは、けないんじゃなくて、あえていていないんだと思うよ」

コートの端っこでかない。それはつまりオフェンスに參加しないという事だ。その代わり、相手も自分にべったりとついているのだから、ディフェンスに參加できない。つまり、コートの上には10人いるんだけど、実際には4対4の構図が発生しているということだ。

「4対4だと、コートは途端に『広く』なる」

相手のゾーンディフェンスはボックス、つまり四角形だ。その中心部分にキャプテンが飛び込む。ど真ん中の絶好のポジションでボールを持たれるわけにはいかないので、下(ゴールに近いポジション)の人がキャプテンにボールがらない様に上がってくる。それは當然の流れだ。

その時點で、ショートコーナー(臺形の一番ゴール側)にスペースができてしまっている。先ほどキャプテンを止めるために上がってきたディフェンスが元々いた場所だ。

そこへ逆サイドで待ち構えていた、たよりが切れ込む。

これで、トップでボールを持つ高橋先輩と、中央で構えるキャプテンと、たよりのオフェンス3人に対して相手ディフェンスは、2人。

3対2の狀況が完した。

高橋先輩からキャプテンへパスが通れば、そのまま振り向いて、たよりにパスを出せる。たよりはそのままゴール下でフリーでシュートを打つ事が可能だ。

逆にたよりに先にボールをれば、キャプテンについているディフェンスは、たよりのディフェンスにシフトするしかない。

そうなれば、たよりからキャプテンへパスが通り、フリーのレイアップで簡単に得點ができる。

今回のディフェンスは前者の通りになり、2得點を簡単に獲得した。

「うん! やっぱ上手いなー! みんなすっごく冷靜だよ!」

「これって、夕凪先輩はチームメイトを信頼してあえてオフェンスに參加してないってことなんですかね?」

「そうだねー。うちは、ワンマンチームじゃないんだぞってメッセージなのかも」

「無茶苦茶かっこいいじゃないですか」

「惚れちゃうね! ……あ! いや、私は桜ちゃん一筋だからね!?」

「僕はなにも言ってませんけど……」

そして次のオフェンスは、先ほどと同じパターンからり、たまらず逆サイドからカバーにきたディフェンスの脇をたよりのパスが貫く。その先で待ち構えていたのは富田先輩だ。

ノーマークで放たれたスリーポイントシュートは、しい弧を描いて、リングに吸い込まれていった。

「富田先輩のシュート……鳥たちますね。マジで外す気がしないですよ」

「うん……間違いなく県トップレベルのシューターだよ」

優秀なシューターがいるチームにゾーンディフェンスはあまり効果的とは言えないそうだ。10人がひしめき合っているコートは、一見狹く見えるけど、その実、ディフェンスにとっては、案外広くじるそうだ。いくら足の速い選手でも、パスの速度には到底追いつかない。

それをカバーするために、経験と勘でディフェンスをするのだけど、それにも限界がある。

リズムよくパスを回されれば、必然的に足をかされることになり、スタミナがどんどん削られる。

そして優秀なシューターがいる場合、ディフェンスのラインがしばかり上がる事になる。そのしが、じわじわと足に効いてくるのだ。

端的に言えば、ディフェンスが間に合わなくなってくる。

勝負事の世界で、後手に回るというのは、厳しい展開になる事の方が圧倒的に多い。

「相手チームは苦しいですね。このままじゃ、ボックスワンを続けられないんじゃないですか?」

「そうだね。どこまで粘るかわからないけど、難しいだろうね。判斷を誤れば、第一クオーターで勝負がついちゃうよ」

結局、相手チームはディフェンスを変えることなく、第一クオーターが終わった時には、24対11と、大差を付けていた。もちろん、うちの高校が24點の方だ。その、夕凪先輩の得點は……0點だった。

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