《みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです》93.思いと想い

ハーフタイムにり、ベンチで作戦を練り直す。ハーフタイムだからといって、頭まで休めるわけにはいかない。

「狀況を一旦整理しよう。矢野、今の戦況、どう見る?」

いきなりキャプテンに振られ、混した頭を必死に回転させる。

「えっと……私たちのディフェンスは、そう悪くはないと思います。速攻で走られたのは多ありますけど……」

「そうだな。ハーフで27點に抑えているなら、まあ、普通に考えれば上出來だ。じゃあ、何故こんなにも苦戦を強いられている?」

「得點が取れていないと言えばそれまでなんですが、なんていうか……1クォーターと違って、相手のディフェンスのバランスが良くなったといいますか、なんか、スペースができそうで、ギリギリできないみたいな……」

「それはあるな。その所為でオフェンスのリズムが悪くなっているから、逆に速攻で走られるんだ」

「確かに、強引に真琴が中を割っていく場面が多いね。相手ディフェンスを崩して點を取ってるじが全然ない」

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桜先輩が話に割ってはいる。

「……」

重たい沈黙が場を包み込む。別に負けているわけでは無いのに、正の見えない不安が、みんなを押しつぶそうとしている。

「あのさー……これ言っていいのか分かんないんだけどさー」

突然喋り出した富田先輩の方にみんなの視線が集まる。

「遠慮してる狀況じゃ無いからな。なんでも言ってくれ」

「えっとさー、みんな怒んないでよ? 結局さ、私らって、花火に頼り過ぎてたってことじゃねーの?」

「そんなことないよ……うちが點取れなかったのが悪いだけなんだから……」

「いやいや、それっておかしくない? じゃあ、花火より上手いやつがいるチームに、うちらは絶対勝てないってこと?」

「それは……違うけど……」

富田先輩の発言で、一気にチームのが増す。

即発とまでは言わないけど、重苦しく、粘っこく、膝から下が泥沼にでもはまっているような覚に陥る。

酸素が足りていないのか、頭の中がフラフラして、視界が歪む。

「うーん、桜はどうなん? 私の言いたいこと、なんとなく分かんない?」

はあ……と深いため息をつき、桜先輩が喋り出す。

「富田の言いたい事は分かる。けど……言葉が足りなさすぎ」

「もっち……」

「分かってると思うけど、夕凪が悪いだなんて誰も思っていないから。だけど、正直、夕凪がここまで抑えられる場面を想定していなかったのも事実だと思う」

「まぁ、そりゃそうだな。正直驚いてるよ」

キャプテンが相槌をれる。私も深く頷く。

実際、今まで練習試合や遠征も含めて、數え切れないくらいゲームをこなしてきたけど、花ちゃんが活躍しないゲームなんて、一つだってなかったんだから。

そりゃ、人間なんだから、好不調の波はあるけれど、基本の能力が遙か上にいるもんだから、本人の調子が結果に與える影響が他の人と比べて格段にない。

レベル差というやつだ。

「だったら……うちが代したほうがーー」

そう言おうとした花ちゃんを遮るように、桜先輩が言い放つ。

「だから夕凪、點を取りなさい」

「……っ!!」

力ない花ちゃんの言葉と対照的な桜先輩の力強い言葉。一見するとただの無茶、若しくは無理難題を押し付ける様に聞こえてしまうその言葉に、どれだけの思いが込められたているのかを、たぶん私では理解しきれない。

恐らく、3年間一緒に戦ってきた仲間にだけ伝わる様々な思い。その重みをけ止めてもらえると信じて放った桜先輩の想い。

「みんな自分のやるべき事を必死にやってる。點を取るのがエースの仕事でしょ?」

自分に厳しい桜先輩は、仲間の事も甘やかさない。ガードというポジションは、チームの司令塔だ。それはチームの進むべき方向を示す航海士の様なもの。

キャプテンが行き先を決める存在であるならば、その目的地にたどり著くまでの道を描くのがガードなのかもしれない。

この広いようで狹いコートの中に、いったい何通りの道があるのかは、私には分からない。

だけど、たとえそれがいばらの道であったとしても、後悔しない、後悔させない様にみんなを引っ張って進むしかない。

「みんな、それでいい?」

桜先輩が他のメンバーの顔を見回す。

「異議なーし」

「ああ」

「はい!」

次々と賛同が飛びう。それは、花ちゃんにただ頼っているだけではない事が伝わるような返事だった。信じて頼る。これが信頼か……と考えていると同時に、視界がほんのしだけ滲んだ。

こんな素敵なチームでバスケができて、本當に良かった。

「夕凪……みんなこういってるけど、やるの? それとも代するの?」

「……やる」

「オッケー。じゃあ頼むよ……花火」

「!! ……もっち……ありがと! 任せて!!」

桜先輩……このタイミングで名前呼びはほんとやばい……

辛うじて私のまぶたの側に留まっていた涙が、ポロリと頬へと流れ落ちた。

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