《代わり婚約者は生真面目社長に甘くされる》12 代わりなのに紹介され!?
「つばきさん、し話が」
悠馬さんがそう切り出したのは、同棲してから二週間、互いに砕けた言葉もたいぶ慣れてきて日常での互いのきも把握してきたころだ。
やけに真剣な聲音であるので、まさかいよいよ私のがバレてしまったかと心激しく揺しながら冷靜に聞き返す。
「どうしたの?」
「今週の日曜日に家のデザイン展があるんだ。俺が出るわけではないが、得意先や同業者のデザイナー、あと友人が出席する」
「そこに悠馬さんが顔を出しにいく、と?」
父もそういう學會や展覧會によく出席しているのでイメージはすぐにできた。ブライダルは日々ニーズに応えて長していく分野だから報換は必要であるし、なにより橫のつながりを大事にしなくてはいけない。悠馬さんも同じだろう。
「ああ」
「そうなんだ」
どうしてわざわざ改まって言うのだろう。
干渉はしない、という約束であるからわざわざ數日前に私へ言わずとも、當日に「出かける」だけで終わるだろうに。
「つばきさんも一緒に來てほしい」
「んわっ!?」
驚きすぎてすっとんきょうな聲をあげてしまった。
え? 何? 私がどこに行くって?
「ど、どうして…?」
「婚約者だから」
「なるほど、婚約者だから…」
いや、なるほどではないのだが!?
本家から「偽のつばき」として表にでないように言われているのだ。その気持ちは分からなくもない。いずれ本のつばきに戻った時に、私のころを知っている人たちが「あれ? 以前別のを連れていなかった?」となる事態が起きるのは目に見えている。
私としても公の場であまりつばきを演じたくはない…。別にありのままで問題はないが、「本條つばき」の名を汚したら本家は黙っていないだろう。まったく、本當に気を遣わせてくれる。
ちらりと悠馬さんを見れば、私の返事を待っていた。
「來る?」という提案ではなく「來てほしい」という願いだから、これはよほどの用事がなければ斷れない。
いっそ仕事があると言ってしまうか? いや…事務は日曜休みと伝えてある。それに、あるふりをしてあとでバレたら大変なことになるだろう。
どうか當日の私がうまくやってくれますように。そう考えながら頷く。
「分かった。どんな服を著ていけばいい?」
「俺はスーツを著ていく。あまりラフ過ぎたり派手でなければなんでも」
「……事務員みたいなファッションでもいい?」
「もうし著飾ってくれると嬉しい」
だよね。
ならいわゆるオフィスカジュアルか…。と、ここで気づいた。
この人、世界にも出るほどのデザイナーだ! しかも社長!
普段は腰がらかいし、自分のことを自慢するわけでもなく、仕事の話もそこまで聞いたことがない。だからすっかり…というのは言い過ぎだけど、頭から抜けていた。
下手な格好をできない!
「ま、ま、待って? ちょっと待って」
「待ってる」
「私が変な格好したら、悠馬さんの評価が下がっちゃうよね!?」
「つばきさんのセンスはいいと思うし、それだけで評価は下がらないよ」
あっ、褒めてくれている。ではなく。
「どうしよう…。私、ほとんど展覧會とかイベントに行ったことがなくて…」
「親に連れられたことも?」
「小さいときにあったけど、それは子供だったからドレスコードもなにも考えなくてよかったし…。父親が連れて行ってくれたのはその時だけだから、あとはまったく」
はしゃぎすぎて困らせてしまったのか、それ以降父親の仕事関係は就職するまでれさせてくれなかった。
つばきとかえで君はよく正一郎おじさんに連れられいろんなホテルをまわっていて羨ましかったのを覚えている。
「そうか。服裝はあまり気負いすぎなくていいよ。金額ならこちらが出すし」
「ううん! 自分のものだから自分で買うし、こう、最高なじのものを選ぶから! 大丈夫!」
「つばきさん、スイッチると面白くなるよね」
それは褒めているんですか?
とにかく行くからには浮かないものを著なければ。
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